さようなら、俺の幼馴染み。 ~ 片想いしていた幼馴染みは俺の親友の恋人になりました ~
「…うっわ、だるぅ~…」
学校帰りにふと、明日までに提出しないといけない宿題の存在を思い出し、それを鞄に入れたかな~と確認すると…入ってなくて。
「めんどくせーけど、取りに戻るか~…」
まだ学校からそんなに離れてなかったので、溜め息をつきながら俺は学校に宿題のプリントを取りに戻ることにした。
─────ガラッ。
「…あっ」
教室に戻ると、教室に女子が一人残っていてた。幼馴染みの咲空だ。
「あれ?理生?帰ったんじゃないの?」
キョトンとした顔で、咲空は俺に聞いてきた。
「あ~…帰ってる途中で、明日提出する国語のプリントを持ってねぇことに気づいてさ」
「あ~…それはドンマイ。でも、気づいたのが家に帰る前でよかったじゃん」
「まーなー。てか、お前は何で一人で教室に居るんだ?友達でも待ってるのか?」
「んーんー、榊君のこと待ってるんだ~♪」
と、咲空は嬉しそうな声で言う。その名前が出てきた瞬間、ドクンっと俺の心臓が強く鳴った。
咲空と俺は、小学一年生の頃からの幼馴染みで、高校生になってからもいつも一緒にいた。
毎日のように一緒に居るから、子供の頃は兄弟みたいな感じだったけど、中学生になってから、咲空がだんだん可愛く見えてきて…「ああそうか、俺と咲空は兄弟じゃない、幼馴染みなんだ」って思ったら、急に咲空のことを『異性』として意識しはじめて…好きになって。
けど、ずっと兄弟みたいに一緒に居たから、中々咲空に好きって気持ちが伝えられなくて。
そんなある日のこと、咲空が「私ね、榊君と付き合うことになったの」って、嬉しそうに報告されて。それを聞いた俺は、魂を抜かれたように呆然とした。
だって榊は…俺の親友だから。
咲空に榊と付き合ってることを聞いた後、榊に問い詰めてみたら。
「俺はもうずっと前から咲空ちゃんのことが好きだったんだ。けど…咲空ちゃんはお前のことが〝好き〞って話してて。それでも俺は咲空ちゃんのことが好きなんだ─ってしつこく告ったら、やっと一昨日オッケーもらったんだ」
と、榊は照れ笑いながら言った。
榊が咲空のことを好きだったことも、咲空に何度も告白してたことも知らなかった。そして…咲空が俺のことを好きってことも、榊に聞いて初めて知った。
それならもし、榊より先に咲空に告白していたら、咲空は俺と付き合ってくれてたのかな…なんて、思った。
もう、今更のことなんだけど…
机から宿題のプリントを取ると、俺は咲空の前の席に座り、咲空と少しの間だけ話していた。
「なあ、咲空…」
「ん?どうしたの?」
『いまでも俺のこと好きだったりする?』なんて…心の中で思いながら、咲空の目を見つめる。大きくて綺麗なダークブラウンの瞳。
俺は…その瞳に吸い込まれるようにして…
ゆっくりと…咲空の顔に、顔を近づけていた────
「理生?そんなに顔近づけてどうしたの?─あ!もしかして鼻毛でも出てる!?いやー!そろそろ榊君も来るのにー!!」
気づいたら咲空の吐息が触れそうなくらい、咲空の唇に近づいていた。けど、咲空の声で我に返った。それと同時に…咲空の反応で、俺に全く意識してないことを知った。
「…俺、そろそろ帰るわ。じゃあな!」
俺は一瞬唇を噛み、咲空にそう言った。なんか、これ以上咲空と一緒に居ると、泣きそうな気がした。
教室を出ようとして、俺は零れそうな涙を体の奥でぐっと堪えながら、咲空の方に振り向くと。
「─…榊良いやつだからさ、お前見る目あるよ。交際おめでとう!」
咲空にそう言うと、俺は走り去った。後ろから「ありがとう」という咲空の声が微かに聞こえてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、うっ…」
全力で走って教室から離れ、学校傍の電柱に思い切り手を突いた。
「うっ…ぐ…俺なさけな…」
そう言いながら、俺はぼろぼろと涙を溢す。
さようなら…咲空。大好きだよ───……
夕陽射す、教室。
ひとりぼっち。
彼が部活を終えるのを待っている。
窓の外を見つめていると、バタバタと駆けていく理生の姿が見えた。
私の、大好きな人。
けど、理生とは小学校低学年の時からの幼馴染みで。毎日のように一緒に居るから、理生にとって私は、兄弟みたいなもんで。
『─…榊良いやつだからさ、お前見る目あるよ。交際おめでとう!』
そう言って理生は去っていったけど…理生には一番、言われたくない言葉だった。おめでとうなんて…言われたくなかった。
大好きだから。兄弟としてじゃなく『異性』として好きだから。でもきっと、理生にとって私は『異性』じゃないから。だから…いつまでも望みのない恋をするより、私のことを『好き』って言ってくれる人と付き合った方がいいのかなって思って…理生のことは諦めて、私なんかに何度も告白してくれる榊君と付き合うことにした。
──────…けど。
「やっぱ…理生のことが好きだなぁ…」
涙をぼろぼろと溢しながら、走っていく理生の背中を見えなくなるまで見つめた。
そして。
「さようなら理生。大好きだよ…」
掠れた声で、私は見えなくなった理生に呟いた───…