過去に囚われた男
コンコンッとドアをノックする中年の男。
「レオン。今日は久々に買い物でも行かないか?」
話しかけて来たのはジェイクという赤髪の少し厳つい見た目をした男だ。
「ごめんおじさん」
「そうか。気が変わったら言ってくれ。できることはしてやるから」
「うん。ありがとう」
足音が遠ざかっていくのでおじさんは戻ったのだろう。
俺は5年前からずっと食っては寝てを繰り返すだけの時間を過ごしてきた。おじさんの優しさにいつまでも甘えている。そんな自分に嫌気が差し、逃げるようにベッドに入り、眠りに着く。
そうして、夢を見た気がした。リアルな夢だった。
庭で本を楽しそうに読んでいる小さい頃の俺。そこに、母さんがエプロンを付けた姿でクッキーを持って、庭に出てくる。
「どういうことだ。何で小さい頃の俺が…それに、何で俺が透明何だ?俺はどこから見てるんだ?」
「レオンの好きなお菓子作ったわよ。はい、どうぞ」
そう言うとクッキーを乗せた皿をこちらに差出くて来る。
「ありがとう。母さん」
受け取ったクッキーをとても美味しそうに食べる俺。
そこに、お菓子と聞いて駆けつけてくるお父さん。
「母さん!父さん!言いたいことが沢山あるんだ。聞いてくれ」
夢だと分かっていても必死に言葉を紡ぐが、両親には全く聞こえていないようだった。
『クソがっ』
幸せだった過去の記憶。
そうして、世界は暗転して別の場面に切り替わる。
村全体を焼き尽くす炎と金属のような臭い。必死な形相で逃げて行く村人達。村人達が逃げて来た奥には角の生えた濃い赤色をした肌の人が村人を殺して回っていた。殺す手段は様々だ。魔法であったり、手で心臓を貫いたり。
『ああ、やめろ。やめてくれ』
視線の先にはおじさんに抱えられた俺と腹に穴が開いた父親、ナイフを持った母親が居た。
「レオン。生きろ。そして……」
「うるせぇんだよ下等生物が」
父親の声を遮るように言葉を放ちそれと同時に鈍い音がなる。
「やっとくたばったか」
「父さーん!嫌だ。俺が立派な魔法使いになるのを見守っててよ。父さん」
覚悟を決めた表情のアンナがナイフを構える。
「ジェイク息子を頼みました。私は逃げるまで時間を稼ぐので」
ナイフを持ち父親を殺した女に立ち向かう母親。辛そうな表情で何とか答える。
「任せろ。お前の息子は死んでも守ってやる」
「嫌だ母さん。母さんも一緒に逃げようよ」
「大好きよレオン。絶対に生きるのよ」
「安心しな。家族全員であの世に送ってやるからよ」
レオンを抱えたジェイクは全力で走って逃げる。
「大好きよレオン。絶対生き残るのよ。生きてしあわ…」
母さんの最後の言葉だった。話の途中で胸を貫かれていた。最後に何故か見えないはずの俺の見た気がした。
「母さーんっ!嫌だ―。おじさん母さんを助けてよ」
そうか、最後の言葉…
そうして、暗転する。目を開けて飛びあがる。汗で服がびっしょり濡れていた。
妙にリアルな夢のお陰で両親の意思が分かった。10歳の時は分からなかったが時間が経ったお陰か今の俺には両親の意思がちゃんと分かった。冷静に考えれば分かることだろうが!
「あぁあああ」
声にならない声で泣いた。両親は俺に生きて欲しかったんだろう。幸せになって欲しかったんだろう。じゃなかったらあんな事はしないだろ。馬鹿やろうが!だったら、だったら俺は…
その日は、ずっと泣いた。ジェイクさんが心配してきてくれたが言葉を上手く話すことが出来なかったのでその日は寝た。
朝起きて、部屋を出てジェイクさんの居る部屋に向かった。部屋の前まで行きノックをする。
「おじさん。今話せる?」
「大丈夫だ。部屋で話そう」
俺を部屋に招きいれ、椅子を素早く用意するおじさん。
「僕の両親って僕に生きて欲しかったんだよね」
少し驚いた表情をしたがすぐに真剣な顔になって答えた。
「そうだ。命に代えても生きて欲しかっただろうな」
「幸せになって欲しかったのかな?」
また驚いた表情をするおじさん。
「最後にお前の母親が言いたかったことだろう」
やっぱりそうだったのか。おじさんに話を聞きに来たのはこれを確認するためでもあった。
「昨日何があったのか聞いていいか?レオン」
「実は昨日、夢を見たんだ。両親の夢を」
「そうか」
「それで、二人は俺に幸せになって欲しいんだって、二人のことを思うなら幸せにならないといけないのに俺は殻に籠って、このままじゃ死んだ時に二人に合わせる顔がない。だから、頑張ってみようと思うんだ。今までありがとうございました。世話になったおじさんに聞いて欲しくて」
おじさんに目元から雫が垂れていた。どうしたんだ?
「おじさん大丈夫?どうかしたの?」
慌てて目元を拭きながら話を続けるおじさん。
「な、何でもない。気にするな。そうか、二人も喜ぶだろう。俺もレオンが幸せになってくたら嬉しいよ」
おじさんには凄い迷惑を掛けてたのに何も言わずに見守ってくれてたのは感謝しかない。いつか、お返しができるといいな。
「これからどうするんだ?何かするんだろ。レオンなら魔術学院も狙えると思う。手伝えることなら何でもするぞ」
有難いけど流石にそこまで甘える訳にはいかないし俺のやりたいことはなること自体はすぐにできるからな。
「流石にそこまでは迷惑はかけられないよ。それに、俺のなりたいものは冒険者なんだ」
「そうなのか。何で冒険者何だ?」
「色んな人や色んな町、世界を回って色んな人と会ってみたい。それと、小さい時は戦うのが好きだったから」
「そうか。辛くなったり帰ってきたくなったらいつでも帰ってこい。帰ってきたら冒険譚をきかせてくれよ」
「勿論。ありがとうおじさん」
こうして、俺の冒険は始まった。のちに大魔法使いと呼ばれるのはまた別のお話。 コンコンッとドアをノックする中年の男。
「レオン。今日は久々に買い物でも行かないか?」
話しかけて来たのはジェイクという赤髪の少し厳つい見た目をした男だ。
「ごめんおじさん」
「そうか。気が変わったら言ってくれ。できることはしてやるから」
「うん。ありがとう」
足音が遠ざかっていくのでおじさんは戻ったのだろう。
俺は5年前からずっと食っては寝てを繰り返すだけの時間を過ごしてきた。おじさんの優しさにいつまでも甘えている。そんな自分に嫌気が差し、逃げるようにベッドに入り、眠りに着く。
そうして、夢を見た気がした。リアルな夢だった。
庭で本を楽しそうに読んでいる小さい頃の俺。そこに、母さんがエプロンを付けた姿でクッキーを持って、庭に出てくる。
「どういうことだ。何で小さい頃の俺が…それに、何で俺が透明何だ?俺はどこから見てるんだ?」
「レオンの好きなお菓子作ったわよ。はい、どうぞ」
そう言うとクッキーを乗せた皿をこちらに差出くて来る。
「ありがとう。母さん」
受け取ったクッキーをとても美味しそうに食べる俺。
そこに、お菓子と聞いて駆けつけてくるお父さん。
「母さん!父さん!言いたいことが沢山あるんだ。聞いてくれ」
夢だと分かっていても必死に言葉を紡ぐが、両親には全く聞こえていないようだった。
『クソがっ』
幸せだった過去の記憶。
そうして、世界は暗転して別の場面に切り替わる。
村全体を焼き尽くす炎と金属のような臭い。必死な形相で逃げて行く村人達。村人達が逃げて来た奥には角の生えた濃い赤色をした肌の人が村人を殺して回っていた。殺す手段は様々だ。魔法であったり、手で心臓を貫いたり。
『ああ、やめろ。やめてくれ』
視線の先にはおじさんに抱えられた俺と腹に穴が開いた父親、ナイフを持った母親が居た。
「レオン。生きろ。そして……」
「うるせぇんだよ下等生物が」
父親の声を遮るように言葉を放ちそれと同時に鈍い音がなる。
「やっとくたばったか」
「父さーん!嫌だ。俺が立派な魔法使いになるのを見守っててよ。父さん」
覚悟を決めた表情のアンナがナイフを構える。
「ジェイク息子を頼みました。私は逃げるまで時間を稼ぐので」
ナイフを持ち父親を殺した女に立ち向かう母親。辛そうな表情で何とか答える。
「任せろ。お前の息子は死んでも守ってやる」
「嫌だ母さん。母さんも一緒に逃げようよ」
「大好きよレオン。絶対に生きるのよ」
「安心しな。家族全員であの世に送ってやるからよ」
レオンを抱えたジェイクは全力で走って逃げる。
「大好きよレオン。絶対生き残るのよ。生きてしあわ…」
母さんの最後の言葉だった。話の途中で胸を貫かれていた。最後に何故か見えないはずの俺の見た気がした。
「母さーんっ!嫌だ―。おじさん母さんを助けてよ」
そうか、最後の言葉…
そうして、暗転する。目を開けて飛びあがる。汗で服がびっしょり濡れていた。
妙にリアルな夢のお陰で両親の意思が分かった。10歳の時は分からなかったが時間が経ったお陰か今の俺には両親の意思がちゃんと分かった。冷静に考えれば分かることだろうが!
「あぁあああ」
声にならない声で泣いた。両親は俺に生きて欲しかったんだろう。幸せになって欲しかったんだろう。じゃなかったらあんな事はしないだろ。馬鹿やろうが!だったら、だったら俺は…
その日は、ずっと泣いた。ジェイクさんが心配してきてくれたが言葉を上手く話すことが出来なかったのでその日は寝た。
朝起きて、部屋を出てジェイクさんの居る部屋に向かった。部屋の前まで行きノックをする。
「おじさん。今話せる?」
「大丈夫だ。部屋で話そう」
俺を部屋に招きいれ、椅子を素早く用意するおじさん。
「僕の両親って僕に生きて欲しかったんだよね」
少し驚いた表情をしたがすぐに真剣な顔になって答えた。
「そうだ。命に代えても生きて欲しかっただろうな」
「幸せになって欲しかったのかな?」
また驚いた表情をするおじさん。
「最後にお前の母親が言いたかったことだろう」
やっぱりそうだったのか。おじさんに話を聞きに来たのはこれを確認するためでもあった。
「昨日何があったのか聞いていいか?レオン」
「実は昨日、夢を見たんだ。両親の夢を」
「そうか」
「それで、二人は俺に幸せになって欲しいんだって、二人のことを思うなら幸せにならないといけないのに俺は殻に籠って、このままじゃ死んだ時に二人に合わせる顔がない。だから、頑張ってみようと思うんだ。今までありがとうございました。世話になったおじさんに聞いて欲しくて」
おじさんに目元から雫が垂れていた。どうしたんだ?
「おじさん大丈夫?どうかしたの?」
慌てて目元を拭きながら話を続けるおじさん。
「な、何でもない。気にするな。そうか、二人も喜ぶだろう。俺もレオンが幸せになってくたら嬉しいよ」
おじさんには凄い迷惑を掛けてたのに何も言わずに見守ってくれてたのは感謝しかない。いつか、お返しができるといいな。
「これからどうするんだ?何かするんだろ。レオンなら魔術学院も狙えると思う。手伝えることなら何でもするぞ」
有難いけど流石にそこまで甘える訳にはいかないし俺のやりたいことはなること自体はすぐにできるからな。
「流石にそこまでは迷惑はかけられないよ。それに、俺のなりたいものは冒険者なんだ」
「そうなのか。何で冒険者何だ?」
「色んな人や色んな町、世界を回って色んな人と会ってみたい。それと、小さい時は戦うのが好きだったから」
「そうか。辛くなったり帰ってきたくなったらいつでも帰ってこい。帰ってきたら冒険譚をきかせてくれよ」
「勿論。ありがとうおじさん」
こうして、俺の冒険は始まった。のちに大魔法使いと呼ばれるのはまた別のお話。