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美しい王女に会いました。父親に束縛されているようです。救ってあげましょう。~静かなヤンデレを添えて~

作者: 木下真三郎

あんまり得意じゃない分野です。

でも、踏み込んでみないと分からない世界ってありますもんね。

いざ書いてみると、結構熱が入っちゃいました。

物語としての方向性が、いまいち定まりきらないところもあって…

これからの糧にしていきたいと思います。

「ねぇ、婚約破棄ってどういうこと?」

「…いえ、それがお嬢様、なんでも先方が急病だということで…」

「…急病って何よ!またお父様から愚痴を受ける羽目に合うじゃない!」

「流行り病ということです…。残念ですが。国民に患者との接触を控えるよう指示している我々王族が、堂々と患者と見合いをしては、何かと人聞きが悪いかと」

「…っもう!何でいっつも!」

 お嬢様もとい、サザルーシ朝の王女、リジー皇女は叫ぶ。サザルーシ朝は、大きな隣国に挟まれた小さい国ではあるが、周辺国との関係は良好で、平和な日々が続いていた。

 が、そこに突如として現れたのは流行り病、“青い病”である。

 サザルーシ朝の領土での感染者はかなり少ないというものの、感染すれば、一月後に息ができるのは丁半博打という、危険な病だという。

 なので国王は、その病の危険性を重大視し、医者以外の患者との接触を固く禁止し、この病の治療を成功させた医者には多額の金を送る、という政策で病と闘おうとしている。が、リスクを冒してまで金を得ようとする医者は殆どおらず、治療を受けられずに、“青い患者”は八割方死んでいく。

 が、高いリスクを負ってまでその患者を治療しようとする医者など殆どいない。

 …故に、危険な病なのです、と執事がリジーに語るその顔は、いつも決まって分かりやすく苦し気な表情だった。

「落ち着いてください、お嬢様。先方の症状は軽いので、すぐに治ると…医者が申しておりました」

「…信用できないわ、最近の医者は」

 そう言いながら、少しは落ち着いてきた王女の表情を見て、執事は少し安心した。

「いえ、そう仰らずに。その医者というのも、国一番の医者だということで。お嬢様におかれましても、安心するようにと」

「…ふーん」

 リジーは、ようやく落ち着いた様子でソファに座った。執事はその胸元に光るアクセサリーを意味もなく弄りながら、淡々と話す。

「大事な見合いということで、非常に残念な話ですが…。どうか、心を安んじられますよう」

「…分かったわ。…ところでエド、今回の見合いが無くなったということは、次の見合いはいつになるの?」

 エド、と呼ばれた王女専属執事がホッとした表情になる。時に感情が激するときもあり、その時は中々手に負えなくなってしまうが、そうでなければ温厚で、慈悲深い人柄…というのがエドの、リジーへの認識である。

 そして、婚約相手への執着が心配になるほど無い。彼女曰く、「どうせ政略結婚、相手がどんなクズでも王族の私を無下にすることも無いだろうし」だそう。が、何かと不幸が重なり、様々な理由で婚約が破棄されている。王族と家格が合う貴族がそれほどいるわけでもなく、王―リジーの父親―も、折角の娘を老けさせるのはもったいないということで、頭を悩ませている。

「一両日中には、もうスケジュールはありません。…ただ、町民の間で今年の収穫祭をする為に、どなたか王族の方がご参加なされると嬉しいと…」

「…という、願いが届いているのね?」

「ええ。生憎、他の王族の方々にも声をかけてみましたが、快諾は受けられず…。王女様が行くとなれば、王族の方々も、町民達としても異存は無いでしょう。彼らの意に沿うのならば、今すぐに用意を始めた方が良いかと」

「分かったわ。…じゃ、この服着替えなくちゃね」

「では、これにて」

 エドは部屋を立ち去り、おもむろに扉を閉める。そして、駆け足で去っていった。



 そして、午後。

 秋の収穫祭、という横断幕が掲げられた広間に、人がぎっしりと詰まっている。円形の会場の周りには、多くの屋台が並んでいて、人々は銘銘好きに遊んでいる。

 円形の会場の中心に、ひとつの輿が運ばれてくる。そして、中から人が出てくると、会場に大きなどよめきが広がる。

「リジー王女がいらっしゃいました!一同、拍手!」

 拡声用の道具を使ったのか、広い会場に声が響く。そして、それを覆うような拍手が、会場に轟く。

「…嬉しいけど、喧しいわ…」

 そう呟いたのも、隣の警備員にも聞こえないほどだ。

「王女の御前で、皆、今年の豊作を祝え!踊れ!飲め!わっはっはっは!」

 拡声しながら叫んでいた男も壇上から飛び降り、祭りを堪能している衆に混ざった。

「…楽しそうね」

 その呟きは流石に聞こえたようで、

「…見苦しいところもあると思いますが、何卒ご容赦くださいませ」

 と、隣の警備が答える。

「いえ、もしも私があそこに混ざれたら…って思っちゃって」

「…とは?」

「楽しそう」

 王女のその横顔と、踊り狂う民達を眺めるその眼差しを見るうちに、警備は一つ思い立った。

「…執事をお呼びしましょうか?」

「なんで?」

「…いえ、良きように計らってくれるかと」

 詳しくは言わない。だが、王女の思いを実現するには、執事は格好の存在だと警備の男は思ったのだろう。

「気遣ってくれてありがとう。じゃ、呼んでくれる?」

「はっ」

 壇の下にいる警備一人と代わり、伝令として彼は駆ける。執事は、そう遠くにいないはずだ。





「…罷り越しました、王女様」

「…策はあるのね?」

「ええ。ここに」

 輿の陰から、娘が出てくる。

「…姉様?」

「…リジー様!」

 リジーに、「姉」と言われた彼女は平伏した。

「…王女様は知っておられると思いますが、この者は異父姉にございます。…御存じだったようですね」

「ええ。箱入り娘だと揶揄されようが、存外地獄耳なのよ?…というか、あなたこそ何故知っているの?」

「…色々ありまして」

「…ふーん」

「…で、この者を王女様の身代わりにします」

「身代わり…。つまり、私と入れ替わるのね?」

「露呈した場合、私一人の責任とさせていただくことで、約束いたしました。…ささ、疾く疾くこちらに来られますよう」

 リジーは、素早く輿の陰に隠れる。気の利く執事は、今日のリジーと全く同じ装束を超足してきており、既にリジーの身代わり(異父姉)はそれに着替えている。

「…では、頼んだわ」

「…ええ」

「緊張しなくてもよろしいですよ。王女は、むしろ口数が少ない方がよろしいものです」

 その一言で、彼女の顔が解れた。それを確認すると、リジーは駆け足で壇上から下り、近くの民家に入った。執事が、事前に借り上げておいた場所である。




 リジーは、一人で町を歩いていた。

「ああ、楽しそうな場所がたくさん」

 それだけで感動しそうなリジーだが、もっと、もっと感動できることがあった。

「あはは、じゃ、リズはどう思う?」

 隣で屈託ない笑いを見せるのは、さっき出会った彼だ。便宜上、リズと名乗った。安易な名前だが、ありふれた名前なので問題はない。

「…それは貴方が悪いでしょう」

「ははは、辛辣~!でも昔のことを気にしても仕方ないよね~」

「反省はした方が良いよ?」

 彼の隣で歩くのは、ロングヘアーが似合う、エリーゼ、と名乗った女性。リジー自身、こんなに“強い”女性を見たことが無かった。

「ぐうの音もでない…!」

 その言葉にも、軽快に反応する彼。その輪の中に入れたこと、そして三人で同じことをしているということに、かつてない幸せを感じた。生まれて初めての、束縛されずされない関係だ。

「リズは、普段はどんなことをしているの?」

 エリーゼは、リズに対しても優しく接してくれる。それもまた、心地よかった。地位関係なく、本当の意味で“自分”を認めてくれる、というのがこれほどの幸せを伴うものだとは、今まで知らなかった。

「…うーん…」

 難しい質問だった。不自然にならないように、かつ、そこから会話の話題が広がらないように。広がったら、出まかせを増やすことになってしまう。彼らに、これ以上深刻な嘘はつきたくなかった。

「家の手伝いをするのが多いわね」

「へぇー、でもまだ結婚はしてないんでしょ?」

「そうね、行かず後家にならないといいのだけど、って父上はいつも言っているわ」

「はは、こんな美しい(ひと)に釣り合う奴が少ないのも確かだもんなー」

「いや、そんな…」

 その時に感じたのは、懐かしい、新鮮さ。

 他愛ない話を続け、日が落ちる前には解散し、“身代わり”(異父姉)と入れ替わりを無事に果たした。 




「王女様が病に!」

「なんだと!?」

 その言葉にいち早く反応したのは、執事だ。専属という職業柄、いち早く駆けつけ、いち早く心配し、いち早く対処しなければならない。

「今すぐを呼べ!」

 指示を出しながら、執事は落ち着いていた。

「…リジー様、どこが苦しゅうございますか?」

「…特に腹がきりきり痛む…。食あたりかもしれないわ」

「…。いえ、念には念を…。怖がらせるわけではありませぬが、もしかすると、“青い病”かもしれませぬぞ」

「…昨日の祭りが原因か?」

「有体に申せば、そうかもしれませぬ。そうなれば、私が全ての責任を負います」

「…それはなりません…。全ては、私の好奇が原因…」

「今はご自身の命を大切に。今しばらくすれば、医者も来るでしょう。それまでは苦しいかもしれませぬが、どうか我慢をなされませ」

「…ん」

 リジーは体が衰弱しているのか、迫りくる眠気に抗えず、再び眠ってしまった。




 それから何日が経ったのか。

 リジーは、朝日と共に目覚めた。

「…お目覚めですか」

 執事は、既に部屋で書き物をしていた。

「…私、助かったみたいね」

「…ええ。どうやらそのようです」

「もっと喜ばないの?」

「喜んでおりますとも、勿論。…それより、治ったということならばやらねばならないことがございます。出来るだけ早く、見合いをせよとの命令が」

「…父上から?」

「ええ。先方のこともございますし、明日にも準備を終わらせ、待機しておくように指示でございます」

 リジーは、分かりやすく顔を曇らせる。

「…病み上がりなのに?」

「ええ」

「…それ(婚約)って、確定事項?」

「ええ」

 はあ、とリジーはため息をつく。

「別に選り好みはしないけれど…。豚息子と話すのも疲れるのよ」

「…そうですか」

「ま、豚息子じゃなければ疲れなくて良いんだけど。最近の婚約は、揃いも揃って豚息子ばっかりだったから…もうちょっとマシな相手だと良いんだけど」

「では、幸運を祈ります」

「はーい」

 リジーの気楽な返事を見送り、執事は再び手元の紙に目を落とす。




「こんな婚約、願い下げよ!」

「え、いや、その…!」

「お、おい待て!リジー!これを断ったら次の縁談がいつになるのか分からなくなるぞ!もしかしたら、死ぬまで独りになってしまうかもしれないのだぞ!」

「どうでもいい!こんな奴の傍にいるくらいなら、私は独りのほうがマシよ!」

 椅子を蹴り、リジーは立ち上がる。

 なによ、久々の婚約かと思えば…この世の終わりみたいなクズじゃない!男尊女卑、その裏側まで行ってる!私は仮にも王族、あんたの奴隷じゃないのよ!というのは、心の中の叫びだった。王が物凄い形相になって睨んでくるが、今更だ。

「お父様、ではこれにて」

「…お前、ただで済むと思うなよ!」




 私ったら、何をしちゃったのかしら。

 何も、あそこまで王とクズ(婚約相手)を挑発するようなことはしなくてよかったのだ。だが、感情が激して、女を人間として見ていないクズ(婚約相手)に対する言葉が溢れてきてしまったのだ。

「…お父様、怒っているわね…。明日はずっと怒られるでしょうね…。憂鬱だわ」

 だが今更考えても仕方ない、とベッドに寝転がった。

 

 その夜。

 式典の会場、中庭は森を挟んで城と反対側にある。日は、既に落ちている。

「まさか今日祝典があるとは…知らなかったわ」

 城と中庭を結ぶ道は暗く、狭い。リジーは執事と歩いている。独りだと、少し心細いという理由もある。

「おおまかなスケジュールはお伝えしていたのですが…王女さまといえど、どうしても忘れてしまうのはあります。気に病むことではありません」

 執事に励まされたが、沈んだ気持ちはそのせいではない。お父様と顔を合わせる心の準備ができてない!

「…王女様、今日は満月みたいです」

 そんな焦ったリジーの心情を他所に、執事がのんびりとした話題を出してくる。思わず、引き込まれる。

「…満月はそう珍しいことではないとおもうけれど?」

「いえ、一年を通して一番綺麗な満月だとか…。学者が申しておりました」

 それから、二人の間に沈黙が下り、暫く歩き続けた。

「…あら、見覚えのない所。こんなところに、家なんてあったかしら?」

 小首を傾げるリジーの手を掴む。リジーは、一瞬驚いたが、その後すぐに羞恥が身を焼いた。が、手を掴む力は強い。そして、心地良い。…そして、執事は跪き、見上げるような格好になり…。自分を見上げる熱い眼差しは、どこかで見覚えがあった。

「王女様」

「…何かしら?」

「駆け落ちましょう」

 そして、執事を見下すような姿勢になって、首から下げられているネックレスに目が行く。

 青緑…。この形、知っている。

 記憶の底から、クローデルの顔が、目の前の執事の顔と重なる。

 そうと気付いた瞬間、リジーは頷き、地を蹴った。

 満月が二人を照らす。











 少年は、薄暗くジメジメした建物の間をポツリと照らすかのような花壇を見つけた。そして、座り込んだ。もう、走り疲れた。そこに人影がやってきて、ビクッとしたが、どうやらその影が自分と同じくらいの身長だと分かって、ひとまず安心した。その人影は、少年に問う。 

「貴方は、誰?」

 誰か、と訊かれても、名乗るほどの名前は無い。

「僕?僕は、クローデル」

「…どこの家?」

「家?」

「伯爵家?…それとも、男爵家かしら?」

「まさか。僕は故郷の名前も知らない」

「…え?」

 故郷の名前?そんなもの、幼いころから住む場所を転々としている少年には分からなかった。

「僕の故郷は、どうやら戦火に巻き込まれたらしい。…いつの間にか、ここにいたよ。ここは、どこ?」

「…ここは、サザルーシ朝の、貴族街」

「へぇ。貴族街か…。君は、誰なの?」

「わ、私?私は…リジー」「それじゃ分からないよ」

 的確な指摘を受けて、少女は小さく答えた。

「…王族」

「へぇ、王族かぁ。結構偉い人なんだね。じゃ、なんでこんな場所にいるの?」

「父上が、このお花を植えると怒るから」

 少年は黙った。偉い人=自由で幸せ、という幼いころから培ってきた方程式に綻びが生まれたことに狼狽したのだ。…と、少年は推測する。

「…そっか」

「…貴方はずっとここにいるの?」

「まさか。お腹が減ったら、また別の場所に行かないといけない。…途中、酷い大人に遭わないようにね」

 今度は、少女が黙った。少年の過酷な運命に触れたからだ。

「…また、会おう」

 少年は立ち上がった。そして、懐から綺麗な宝石を取り出す。それは、少女が初めて見る形をしていて、不思議と惹かれる色をしていた。

「これ、約束の印」

「…え?」

「じゃ」

 彼は、足早にその場を去った。




 数十年後、クローデル(執事)は、小さな家でため息をついた。

 手元の紙の束に目を移し、そこに書かれている壮大な筋書きを眺め、自分でも呆れる。





「……何たることだ!」

「誤解でございます!全て!誤解でございます!」

 激昂する王に、ただひたすら頭を下げ続ける男。リジーの婚約者となる予定だった男だ。

「我が愛する娘の他に、女がいたというのか!」

「誤解でございます!」

「…火のない所に煙は立たぬ…ともいいますな」

 ポツリと言ったのは、王女リジーの執事。知恵深さが窺える鋭い眼光にはおよそ似つかわしくない、若々しい見た目。実際、王女の一つ年上で、青年と呼ぶ方が相応しい。

「…よく言った!…早く出ていけ!貴様を擁護しようとした儂が馬鹿だった!…いや、愚かはお前だ!国外追放に処する!明日零時までに持つものをすべて持ち出し、この国から出ていけ!」

「…そ、そんな…!」

 無論、彼が王女との婚姻を前に、絶大なリスクを負いながら、別のところに女を作るわけがない。

 先日やっとこさ見つけた、王家と家格の釣り合う男が、“青い病”にかかって婚姻を破棄する、などということが偶然にも起こりえるわけがない。

 それ以前にも、多くの縁談が破棄される、という不幸がリジー一人に降りかかるというのはあまりにも出来すぎている。

 そして、“青い病”が恐ろしい伝染病ということを知りながら、町民たちが収穫祭というビッグイベントを行うというのは、あまりに不自然すぎる。




…リジー王女が突如として失踪した後、王家では大騒ぎになったという。唯一の後継とも呼べる存在だったリジーがいなくなれば、既に六十を超えた王の後を正当に継承する者はいない。

 内乱が起きた。


 いや、起きようとしたが、そこに新たな王位継承者と名乗る者が現れた。

 クローデルと結ばれた、リジーだった。


書いてて疲れました。

頭使いました。

アドバイスお願いします。

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