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・完結エピソード ドラゴンラーメン滅竜亭 - 真のドラゴンズクラウン - 7/7

「先生……」

「さて、ではもう1つの用件の方も済ませておきましょうか」


「え、他に何かあるの……? もしかして、復学できるようになったとかっ!?」

「いえ、可能か不可能かで言えば可能ですが、国に戻れば貴方は処刑されるでしょう」


「へ、下手に希望を持たせるような言い方しないでよ……」


 復学と聞いて、奥からみんなの顔がヒョコリと伸びて、俺が目を向けるとまた引っ込んでいた。


「あれはドラゴンですね」

「ギクッ?!」


「いえ、貴方がドラゴンテイマーであることを知る私からすれば、推理の必要もないことです。ややヘタレ気味の貴方に、あれだけの数のガールフレンドが生まれるとも思えません」


「ヘタレで悪かったなっ、そうだよ、あいつらはドラゴンだよっ!!」


 ドラゴンだからなんだって言うんだ。

 あいつらはみんないいやつだ。


 ちょっと性癖がこじれていたり、人の肉体を横取りしたり、正直じゃなかったり、疫病神だったり、時々尻尾が切れるだけのいいやつらだ。


「ニコラス、実は1つ、私は貴方に黙っていたことがあるのです」

「それってまさか、実は休学ではなく、退学だったとか……?」


「ニコラス、とても申し上げづらいのですが……。貴方がカオスドラゴンを従えた以上、伝えなければならないでしょう」


「だから、何を?」


 学長先生は視線を外し、惜しむようにドンブリに少し残っていたスープを口に付けた。


 それから深いため息を吐いて、席から立ち上がり、カウンター越しに俺の手を握る。


「ニコラス、貴方は人間ではありません……」

「……は? え、どういうこと?」


「貴方は、物なのです」

「いや学長せんせまで俺のことを物扱いかよっ?!」


「貴方は物の変化。私が友人から譲り受けたはずの、とある財宝に宿った物の怪なのです」


「またまた、何言ってるんだよ、学長せんせ? 自分で言うのもなんだけどさ、俺ほど人間らしい人間がどこにいるよ?」


 学長せんせは首を横に振り、息子も同然だった俺の手を離した。


「貴方は時々自分自身が、どうも妙に頑丈過ぎるとは思ったことがありませんか?」

「それは……まあ、あるけど……」


「誰かに殴られてもちっとも痛くなかったり、ドラゴンに噛みつかれても、全然平気だったりしたことはありませんか?」


「えっと……それもまあ、言われてみればまあ、心当たりがなくもないけど……」


 言われてみればなんで俺、寝ぼけたマリーやルピナスちゃんに噛みつかれても全く平気だったんだ……?


 割とムチャクチャな目に遭ってるけど、確かに俺、妙に丈夫だな……。


「貴方に魂が宿った11年前のあの日、歴史の闇に消えたとある財宝が私の手元から消えました。その財宝の名は、【ドラゴンズクラウン】。その王冠に認められた者は、あらゆる竜を従えると言われています」


 ドラゴンズクラウン。

 その名が浮上するなり、なんか店の奥からドッタンバッタンの大騒ぎが聞こえた。


 コスモスちゃんは俺をその代用品にするつもりだったわけだし、あっちじゃ衝撃の展開になっているんだろう。


「しかしその価値の神髄は最強種ドラゴンたちを従えるという意味だけにとどりまりません。ドラゴンズクラウンは、かつて竜であった大地そのものを統べる力を持つのです」


「それは、もしかして……アイギュストスって名前の竜、とか……?」

「ええ、それは大地の一部となった竜の名の1つです」


 だからその竜は、この店は、俺の理想の形へと変化した。

 俺は知らぬ間に、大地そのものとなった竜と契約を結んでいた。


「ドラゴンズクラウンは争いの源でした。その竜を統べる王冠に、自我が目覚めるとはまことに不可思議な現象です。きっと貴方は、竜たちを救うべくして自らを自らの主とすることに決めたのでしょう」


「いや知らんし。俺はただ、ラーメンの美味さを世に知らしめたいだけだよ、せんせ」

「ふふ、貴方らしい庶民的な回答ですね。……では、そろそろお暇します。ごちそうさまでした」


「え……いや、ゆっくりしていきなよっ、いっそどこか泊まれるところに俺と――」

「貴方には家族がいるでしょう」


「そうだけど……」


「立派なラーメン屋さんになりましたね、ニコラス。あなたが逆境に負けず、ここまで成長してくれたことが、私はとても嬉しい。ニコラス、あなたがドラゴンたちを正しき方向に導きなさい」


 そう勝手なことを言って学長せんせは背を向けた。


「待って、待ってってばっ、と……父さん……っっ!!」

「ふふ……。がんばりなさい、ニコラス」


 彼が姿を消すと、奥のみんなが俺の前にやってきた。

 情けないところは見せたくなくて、俺は目元を拭うといつもの俺に戻った。


「王冠が無欲の者の手元にあり、その王冠に自我と足が生えて、間抜けに変わるとはな……」

「そうね~……その気になればさっきのお爺さん、世界の王にだってなれたはずよ~?」


 なったところでメリットがあるようには思えない。

 学者である学長せんせとしても、きっとそうだったんだろう。


「あのお爺ちゃん、お兄ちゃんのお父さんだったですかーっ!?」

「先生を……間違えて、お母さんって……呼んじゃうやつ……」

「育て親をお父さんって呼んで何が悪いよっ!?」


 そんなやり取りの中で、ルピナスちゃんやリリィさんが鍋や食器をまとめていた。


 もうあっちに帰るつもりのようだ。

 俺に隠れて相談したいことでもあるんだろうか。


「先に帰っているわ。カオスは早く残りのラーメンを食べないと、不味くなるわよ」

「盗み聞きに夢中だったものね~♪」

「じゃ、おつおつ……」


 一方は荷物と一緒に店を出て行き、また一方は取り残されたり、あるいは伸びた不味いラーメンを奥ですすりだした。


 コスモスちゃんの食事が終わるまで俺とマリーは奥の休憩室で、学長せんせと一緒だった頃の昔話をして待った。


「ん……っ! 金だ、金をよこせ! 今夜は賭場に行かねば気が済まんっ!!」

「もー、しょうがないですねー。今夜だけなのですよー?」

「コスモスちゃんをあんまり甘やかすと、ますます堕落するだけだと思うんだけど……」


「安心せよ、我は最初から堕落し切っておる」

「それもそうだね……」


 待っていてあげたのに、コスモスちゃんは大きなお小づかいと一緒に夜の街へと消えていった。


 俺とマリーの方は戸締まりをして、まだ夜が始まったばかりの街に出た。

 いつもの習慣で手を繋いで、子供みたいに手を振りながら歩いた。


「ラーメンはやっぱり、人を幸せにする力があるですよ~。お兄ちゃんのおじいちゃんも、お兄ちゃんも、とっても幸せそうだったのです」


「そんなことないよ、今日も普段通りだよ。少なくとも俺はね」

「ふっふ~、そういうことにしてあげるですよー」


「そうしてくれると助かるよ」


 今日は気分が高揚していて、涼しい夜風を感じながら一緒に歩くだけで楽しかった。


「お兄ちゃん……」

「ん、どうかしたの?」


「えとえと……これからも、マリーとずーーっと一緒にいて下さいねっ、ニコラスお兄ちゃんっ!」


「こちらこそ、今さら仕入れを辞めたいだなんて言っても逃がさないよ。もっともっと美味しいラーメンを作って、この美味しさを世に知らしめていこう」


「はいなのです! ずーーーっと、マリーが支えるですよーっ!」


 消えた王冠がどこに行ったかなんて、俺とマリーには興味なんてない。


 俺たちは華やかなアイギュストスの夜の街を、片方は跳ねて、少年少女のように笑い合いながら、みんなの待つ我が家への道を歩いていった。


 俺たちはラーメンが好きだ。

 ラーメンを食べて笑顔になるお客さんたちが好きだ。


 ラーメン禁止法?

 高血圧?

 高脂血症?

 脂肪肝?


 そんなもの俺たちの知ったことか!


 たとえ有害だとわかっていても、ラーメンを食べること、作ることを俺たちは一生止めない。

 なぜならば俺たちは、ラーメンが大好きだからだ。


 ドラゴンたちにラーメンの祝福を。


 アイギュストスにラーメンのご加護を。


 俺たちの魂は常に、ラーメンとドラゴンと共にある。


 俺たちはラーメン屋、滅竜亭だ。

 それが害であろうとも、ラーメンを求める者ある限り、俺たちは麺を茹でよう。


 ラーメンの濃厚で塩辛い味付けこそが、薄味社会に膿んだ者たちを救う希望なのだから。


 集え、分かたれた竜たちよ! 熱々のラーメンの下に!


 ラーメン、それこそが真のドラゴンズクラウンだ!


 ~ ドラゴンラーメン 終わり ~

本作をご愛顧下さりありがとうございます。

ここで本作は完結となります。


ラーメンと言ったらドラゴンという、昭和の感性と思い付きで作った作品ですが、いざやってみるととても書いていて楽しいお話となりました。


残念ながら人気があまり出ず、心折れておりました。

が、次の新作を準備中です。

今回はラーメン。次はパンです。


まだ公開できる段階ではないので、しばらくお待たせしてしまいますが、

男性も女性も楽しめるとても明るい一作になっています。


女主人公ですが、男性も楽しめるように意識して作っています。

どうかこれからも応援して下さい。

次こそは人気が出るよう、折れずにがんばって参りますので、どうかこれからもご支援下さい。

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