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・完結エピソード ドラゴンラーメン滅竜亭 - 史上最高のラーメン屋 - 6/7

 朝、自宅兼倉庫で目を覚ますと、ゆっくりと朝を過ごしてから仕込みを始める。


 それが済むと昼前の営業に合わせてスープと具材を運び、慌ただしく開店準備を進める。


 昼前。正午1時間前の鐘が鳴ると開店だ。


 軒先で待ちかまえていたガチ勢たちを皮切りに、ラーメンを食べたくてたまらない人々に美味しいラーメンを提供する。


 2時間ほどでが200食が消える。


 そうすると準備中の看板をかけて、俺たちは街のカフェやバザーでゆっくりとしてから、その後に夜の営業のための仕込みを再び始める。


 日没の鐘が鳴ると、営業再開。

 200食がまたあっという間の2時間以内に消えて、そうすると調理道具を台車に乗せて帰宅する。


 夜の街を楽しむ日もあれば、真っ直ぐ帰って横になる日もある。


 2日働いて、1日休む。

 そんな優雅でゆっくりした生活が続いていた。


 その気になれば1日に2食もラーメンが食べられる、

 ラーメン好きには夢のような生活だ。

 実際、その日もそうなるはずだった。


 いや、けれども、その日だけは少し違った。



 ・



「え……っ、が、学長せんせっっ!?」

「ああ、ニコラス、会いたかった……」


「お、俺もですけど、だけど、なんで……」

「会いにきてはいけませんか? しかしニコラス、少し痩せたのではないですか?」


 親代わりも同然の人が遙か遠い祖国から訪ねてきてくれた。


 意外だった。

 学校の仕事が大好きな人で、彼が長期の旅行に出ることなんで今まで1度もなかった。


「まあ、厄介な連中が多いので……。あ、これ、うちのマリーです」

「お兄ちゃん……? そのお爺さん、お兄ちゃんのお友達ですかー?」


「親みたいなものだよ」

「えーーーっっ?! ふ、ふつつか者ですかっ、マリーは、お、お兄ちゃんの、えと、えとえと、お嫁さん候補なのですよーっっ!!」


「ちょっ、犯罪を疑われるようなことを言わんといてっ?!」


 これからまかないというか、俺の手を出汁にしたラーメンを作る。

 もう奥でみんなが今か今かと待っていた。


「ニコラス、私は貴方をロリコンに育てたつもりはないのですがね……」

「ロリコンじゃねーよっ!? ……てか、せっかくだしうちのラーメン食べていきます?」


「ええもちろん、それが旅の目的ですから」


「そこは俺に会いにきたついでって言って欲しかったかな……。先に奥のみんなの分を作っちゃうよ、じゃないとうるさいし」


 マリーに手伝ってもらいながら、学長せんせと語らいつつみんなの分のラーメンを作っていった。


 奥からちらちらとこちらをうかがう目があったけれど、邪魔をする気はないようだった。


「お兄ちゃん、お爺ちゃんとごゆっくりなのですよー」

「悪いね、気を使わせちゃって」


 トレイに熱々のラーメンを乗せて、マリーは奥のみんなのところに去っていった。


 そんな明るい姿を学長せんせと見送って、彼の分のラーメンを盛り付けた。


「へい、鶏出汁ラーメンお待ち!」

「おお、これがあの手紙にあったラーメンですか。いい匂いです……」


 あの時故郷に送った手紙は、学長せんせ宛てのものだった。


 どれだけ自分のラーメンをアイギュストスの人々が喜んでくれているか、手紙の中で熱弁をした。

 そしたらこうなった。


「なんか、照れ臭いな、こういうの……」

「ふふ、大きくなったものです。それでは、いただきます」


 学長せんせがラーメンに箸を付けた。

 あの、なんでそんなに箸を使い慣れてるんですか?

 なんて無粋なツッコミはもう入れない。


 ていうかもう慣れた。

 ラーメンはご禁制だけれど、みんなが隠れてラーメンを食べていた。


 それにそんなことより、親代わりだった彼がわざわざうちの店を訪ねてきてくれたことが嬉しかった。

 俺は緊張丸出しの真顔で、学長せんせの食事を凝視していた。


 彼は何も言わない。

 一心不乱にラーメンに視線を落として、老人とは思えない勢いでドンブリをつついている。


 チャーシューを大切にかじって、三つ葉を汁につけ込んでから口に運び、レンゲでスープを麺と一緒にかっこんでいた。


 完食はあっという間だった。


「ごちそうさま」

「あ、うん……。それで、味は……?」


「こんなに美味しいラーメンは今まで食べたことがありません」

「本当かっ!?」


「ええ。シャキシャキのキャベツと、これでもかと出汁のきいたスープの組み合わせがとてもいい。シコシコの細麺も完璧です。私の好みよりも少しあっさりとしていますが、その分だけチャーシューの味が引き立っています。ああ、これを毎日食べられるアイギュストスの人々が羨ましい……」


「なんか照れるよ、学長せんせ……。何もそんな早口で言ってくれなくても……」

「良いラーメン屋さんになりましたね、ニコラス」


 自分では大して刺さっているつもりはないのに、急にジワッときてしまうときってあると思う。

 それが今だ。


 学長せんせの何気ない一言に、俺はガキみたいに目が熱くなってしまっていた。


「学長せんせ……ありがとう。俺、がんばったんだよ……。ここまでくるのに、大変なことがいっぱいあったんだ……」


「ですがこのラーメンは、その苦労に見合う味わいです。貴方のラーメンを食べた人々は、笑顔で店を出て行っていましたよ。私の知る限り、貴方は至上最高のラーメン屋です」


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