・完結エピソード ドラゴンラーメン滅竜亭 - マリーの夢 - 2/7
朝。ウミネコさんの鳴き声に目を覚ましたです。
みんなよりも先に起き出して、いつもの大きなリュックを背負ったです。
「仕入れ、行ってくるですよーっ」
みんなを起こさないように、玄関を出てからちっちゃな声そう言ったです。
マリーのお仕事は仕入れなのです。
それが終わったら、今日はドラゴンに戻って、薪の新しい仕入れルートを探すですよ。
「あ、れ……?」
だけど朝市の人混みの中を歩いていると、信じられないことが起きたです。
お爺ちゃんなのです……。
マリーは、マリーのお爺ちゃんの後ろ姿を見たのです!
「ま、待って……っ!」
追いかけたです。
お爺ちゃんは人混みの中をスルスルと通り抜けていったです。
マリーは何度も他の人にぶつかって、何度も謝ることになったです。
「あのあのっ、もしかして……っ、待って、お爺ちゃんっ!! マリーですっ、マリーなのですよーっ!!」
あの後ろ姿はお爺ちゃんなのです。
商人の羽根帽子に大きなリュック、あごから伸びる白くて長いおヒゲは、マリーのお爺ちゃんなのです!
でも声を上げてもお爺ちゃんは振り返ってくれないです。
追いかけても追いかけても、ぶつかっちゃったり、すべっちゃったり、どうしてか追いつけないのです……。
「お願い、マリーを置いてかないでっっ!! ずっとずっと、マリーは毎晩っ、いい子で待ってたのですよーっっ!!」
するとやっと声が通じたです。
お爺ちゃんは振り返って、マリーに笑ったです。
それからマリーに手招きをして、その先にある古くてボロボロの建物に入っていったです。
追いかけると、お爺ちゃんは中で腰を落として待っていたです。
そこに飛び込んだマリーをふんわり抱き止めてくれたです……。
もう、気付いていたです。
これはきっと、夢なんだって、わかってたです。
「おじいちゃん……会いたかったのですよ……。ずっとずっと、マリーは会いたかったのです……」
夢とわかっていても、涙が止まらなかったです。
たとえ夢でも、お爺ちゃんと会えて嬉しかったのです。
お爺ちゃんは、寂しいマリーが作り出した幻。
だから会えるのは、夢の世界だけなのです……。
「マリーや、お友達とは仲良くやっているかい?」
「やってるですっ、みんなみんなっ、やさしいお姉ちゃんたちなのですっ! か、彼氏もできたのですよーっ!!」
「そうかい、マリーに彼氏が」
「ニコラスって言うですよーっ! お爺ちゃんに、紹介できないのが、残念なのです……」
「マリー……」
マリーが落ち着くと、お爺ちゃんは室内の壁を指さしたです。
そこには張り紙があったです。
【土地建物、350万ゴールドで売ります】
このお値段なら!! 今の貯金で買えるです!!
すっかり使われなくなって古くなってるですけど、どこも崩れてないのです!!
お掃除をしっかりすれば、今すぐここでお店屋さんが開けるですよっ!!
「マリーや、お前はお爺ちゃんの誇りだ。しっかりがんばりなさい」
「はいなのですっっ!!」
「ほっほっほっ、彼氏ができたという割に、甘えん坊なのは変わらぬのぅ……」
「お爺ちゃん……もっと、一緒に居たいのです……」
お爺ちゃんの胸の中で、マリーの意識は溶けていったのです。
お爺ちゃん……
お爺ちゃんがマリーの空想だとわかっていても、また会えて、しゅごく嬉しかったのです……。
・
それからその次の日の朝、マリーは仕込みをするお兄ちゃんとルピナスちゃんと一緒に起きて、朝市をやっている広場に仕入れに出かけたです。
寂しいような、嬉しいような、不思議な気持ちで買い物をしながら、またお爺ちゃんに会えないかなって期待して、姿を探したのです。
お爺ちゃんはやっぱり、マリーの幻だったみたいなのです……。
でも、それでもマリーは諦め切れなくて、夢の記憶を頼りにあの古い建物を探したです。
あの夢の建物を見つけられたら、お爺ちゃんと会える気がしたです。
「あるわけ、ないのです……」
でもやっぱり夢。
なんの意味もないただの夢だったです。
記憶のままのの街角に、あの建物だけがなくなっていたのです……。
最初から、マリーのお爺ちゃんもそうだったように、そこに建物なんて存在していなかったですよ。
「マリーは、がんばるですよ、お爺ちゃん……」
マリーはお爺ちゃんの夢から背中を向けて、お兄ちゃんたちが待つ家に大きなリュックを背負って、帰っていったです。
今はお兄ちゃんとお姉ちゃんたちがいるから、ちっとも寂しくないのです。
マリーがお兄ちゃんを幸せにするですよ。
がんばって、がんばるのです。
『ただいま』って言うと、『おかえり』って返してくれる家族がマリーにはいるです。
それはとっても、幸せなことなのです。
とっても、とっても……。