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・完結エピソード ドラゴンラーメン滅竜亭 - マリーの夢 - 1/7

・イエロードラゴン


 その夜、マリーとリリィお姉ちゃんはお店の帳簿を付けていたのです。


 最初にマリーが数字を口に出して数えて、お姉ちゃんが復唱して確かめるのですよ。


 もしどこかの数字が間違っていたら、後がとっても、とっても大変なのです……。


「えとえと、ひの、ふの、みの……。ぅー、薪代、結構するですねー……」

「そうね~。あ、そうだわ~。だったら~、直接どこかの村から仕入れちゃったらどうかしら~?」


「おーっっ、お姉ちゃん、とっても頭いいのですよーっ! お姉ちゃんのナイショの魔法があれば、そういうこともできちゃうですねーっ!」


「ふふふ……わたくし、ここにきてよかったわ~♪」

「マリーもなのです。みんなと会えて、とってもよかったのです。お兄ちゃんがこなかったら、マリーは……」


 マリーはずっと独りぼっちだったです。

 町のみんなはやさしくしてくれたけど、お家ではずっと、ずっとお爺ちゃんを待って暮らしていたです。


 何年も、何十年も、何百年も、たぶんそうして生きてきたです……。


「そうね~……。なんだか不思議な子よね~、ニコラスきゅん」


「はいです! あの……実はですねーっ、マリーはですねっ、一目見たときから……結婚したくなるくらいっ、お兄ちゃんが大好きだったのですよーっ! きっとこれは、運命なのですっ!」


「あら、なら一緒ね~♪」

「えーっ、お姉ちゃんもなのですかーっ!?」


「ええ……。出会ったその瞬間から、食べちゃいたいくらいかわいいと思ったの~、うふふ……♪」

「食べちゃダメですよ~っ!?」


 だけどふいにその時、いつだってニコニコのお姉ちゃんがしゅごく真面目なお顔になったです。

 花壇の方を見つめて、それから満天の星空を見上げたです。


「お姉ちゃん、どうしたですかー?」


「あの子がいい子でよかったわ。カオスドラゴンの力を手に入れたのが、もし少しでも心に闇のある人間だったら……。この世界は滅びていたかもしれないわ」


「そですね。でもお兄ちゃんなら、安心なのですよ~。カオスちゃんも、お兄ちゃんと一緒ならのほほーんなのです」

「そうね♪ さ、もうちょっとだけ、がんばりましょうか~♪」


「はーいっ、そうしましょうっ!」


 お姉ちゃんにニッコリ笑い返して、マリーはまた数字を数えたです。

 時々お喋りをはさみながら、二人一緒に帳簿をまとめていったですよ。


 お兄ちゃんのラーメンはじっくり煮込むのです。

 ドラゴンの翼による薪の仕入れルートを確保したら、粗利がアップアップするです。


 そしたらお姉ちゃんとの帳簿作りが、もっともっと楽しくなるのです。


「はぁ……だけど全然、足りないですねー……」

「そうね~。でも~、普通の飲食店からすれば、ビックリするくらいの大儲けをしていると思うわ~」


「むーー……。なんで、あんなするですかねー……」

「ここは都会ですもの、仕方がないわ~」


 お兄ちゃんが秘宝を見つけてきたです!

 難しいからよくわからないですけど、それがあれば禁止されてるラーメン屋さんが開けるのです!


 でも――

 お金が、全然足りないですよ……。


 お店、買おうとしたら、マリーもビックリの、しゅんごいお値段だったのです……。


 もう目の玉飛び出すくらいっ、メチャクチャなお値段だったのですよーっ!!


「ゆっくりでいいんですよ~。お金が貯まるまで、一緒にがんばりましょうね~♪」

「はいなのです! マリーががんばるのです!」


 今は一晩に200食を屋台で提供しているです。

 貝出汁のやつが50で、鳥出汁がやっぱり人気で150食なのです。


 そこから材料費を引くと、儲けは販売価格の7割なのです。

 原価率3割の気持ちぼったくり価格でやってるですよ。


 さらにそこから1日にかかる色んなお金を、引いていくと……。


「でもでも、このままだとあと50営業日くらい、かかっちゃうですよー……?」

「たった50営業日ですよ~♪ それだけでお店が手に入るなんて、人間の世界では安いものですよ~♪」


「でも、せっかくお兄ちゃんとルピナスちゃんががんばってくれたのに……」


 50営業日は遠いのですよ……。

 あの面白い王様たちがお金を貸してくれる、言うですけど……。


 マリーたちはあんまり乗り気がしないのです。


『人の金で店を建ててどこが我らの店だ! 人間どもの財布からかすめ取った金で建ててこそ、我らドラゴンの店であろう!』


『それもそうだね。でもさ……そのセリフは猫の手並みに働いてから言いなよっっ!?』

『うむ、ならば我も博打方面ならがんばれるぞー?』


『止めてお願いっ、やっぱり君は何もしないでっっ!!』

『うむ、あいわかったっ♪ 我が主がそう命じるゆえ、我は何もせぬ♪』


 自分たちでがんばるのです。

 マリーたちが力を合わせて建てたお店じゃなきゃ、ここまでがんばった意味がないのです。


 あとあと、ラーメンはご禁制なのです。

 暮らしてるここでラーメン屋さん、やるわけにはいかないのですよー。


「ニコラスくんにー、高級なラーメンを考えてもらうのはどうかしら~? チャーシュー3倍とか、アワビやサザエのトッピングをしてみたりとか~♪」


「あっ、マリーは、チャーシュー5倍がいいと思うですよーっ! ラーメンの上を、チャーシューで埋め尽くすのですよーっ!」


「いいわね~っ♪」

「えへへー♪ 考えただけでー、よだれが出てきちゃうですねーっ♪」


 マリーとお姉ちゃんは帳簿を閉じたです。

 それから天幕に入って自分の毛布を取ると、みんなに囲まれてうなされてるお兄ちゃんの足下にくっついたです。


「チャーシュー5倍……ボクも賛成……」

「サイネリアちゃん、聞いてたですかー。じゃあ明日、お兄ちゃんを一緒に説得するですよー」


 眠るお兄ちゃんの中から、サイネリアお姉ちゃんが出てきて、また中に戻ったのです。


 今はみんな一緒。

 そう思うと幸せがいっぱい広がって、マリーはいつの間にか深い眠りに飲み込まれていたのです。


 少しずつ、少しずつ、がんばるですよー……。

 お兄ちゃんの美味しいラーメンを、みんなに広めるのです……。


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