・とくさんか?
ちょうど家にいたのはカオスドラゴンだけだった。
俺の肉体から抜け出したフリーズドラゴンは、何も言わずに出迎えに現れたカオスドラゴンの前に進み出て、しばらくの無言を両者ともに貫いた。
「や、コスモス……」
「うむ……。久しいな、フリーズドラゴンよ」
「だいぶ、変わった……」
「うるさいっ、我にも色々あったんだっ! 突然姿をくらましたそなたに言われたくないっ!」
なんか意外だった。
コスモスちゃんもらしくなくて、どことなく今の自分を恥じ入るようにも見えた。
昔のまともだった頃のコスモスちゃんって、どんなドラゴンだったんだろう……。
「ふーん……」
「それよりいいかっ、我の計画を聞いたら驚くぞっ! 我らはなぁ……っ!」
「アレって……ドラゴンズクラウン……?」
遠くから見守っているとサイネリアちゃんに指を差された。
差されたのでいっそ堂々と、俺は盗み聞きを止めて2人の前に出た。
「う、うむ……相変わらず妙なところで鋭いな……。コレは、その代用品になるはずだ」
「だから、君らはなんで、俺のことをコレとかアレ扱いするんだよ……」
「コレ、本物……?」
残念ながら、俺の抗議はなんの意味もなさなかった。
「偽物に決まっている。このアホがドラゴンズクラウンのはずがあるか」
「本当に……?」
「わ、わからぬ……。なんで、こんなアホが、竜王の代用品になるのだろうか……。アホなのに……」
「アホゆーなよっ?! 何回アホ言うんだよ君っ!?」
「本物かも……」
「あり得ん! 我らの秘宝が人間の姿をしているはずがなかろう!」
「ま、事情はよくわかんないけど、代わりになるならなんだっていいんじゃない?」
俺が知ってもしょうがない話だし、俺は会話から離れて天幕で休むことに決めた。
「コレ、気に入った……。ちょっと、借りる……」
「む? まあ好きにせい」
「ちょっと待ったっ?! 言ったよねっ、俺はもう2度と身体は貸さないと言ったはずだよねっ!?」
「2回も3回も同じ……。先っぽだけ、先っぽだけいいでしょ……」
「嫌っ、憑依は嫌っ、もう嫌ぁぁーっ、あっ、あん……っ♪」
飯までゴロゴロとしていたいという慎ましく庶民的な願いは、残念叶わなかった。
俺はまたもや肉体の支配権を奪われ、コスモスちゃんの前で両手を頭の後ろで組まされていた。
「そだ……銭湯、ある……?」
「うむ、昔のよしみで案内してやろう」
「俺っ、今は風呂なんかよりっ、横になってダラダラしていたい気分なんだけどっ!?」
氷漬けのドラゴンが温もりを求めてもおかしくない。
あんなところに何百年も閉じ込められるなんて、想像するだけでもクソ寒くて恐ろしいことだと思う……。
だけどこれっ、俺の身体にわざわざ憑依しなくてもよくねっ!?
なんならさ、そのへんのおっさんとかでも全然いいじゃんっ!?
「固いこと言うな、男なら付き合ってやれ」
「いや男だから問題あるんだろっっ?!」
「おおそうだ、ニコラスの茹で汁を飲んでみるとよいぞー。その男を茹でた汁は、恐るべき美味さだ!」
「わかった……やってみる……」
「止めてっ、やだっ、絶対男湯なんて飲みたくないっっ!!」
抗議もむなしく、2人になった3人は出発した。
そして近場の銭湯前に着くと、男湯へと自由なき俺の身体は飲み込まれていった……。
更衣室で衣服がはぎ取られ、生まれたままの俺、ここ現る……。
あっ、あっ……み、見られて、いるぅ……っ。
「ニコラス……。以外と…………ん、でっかいね……」
「ぅ、ぅぅ……もう、お嫁に行けない……」
「それを言うなら、お婿さんだって……」
「とか言いながらガン見すんなよっ?!」
「ふっ、この身体、気に入った……。貧弱だけど、なかなかいい……」
「げぇっ?! お、おおおっ、男湯でナルシスト丸出しの変なポーズとか付けんなよぉぉーっ?!!」
問い、銭湯の更衣室でセクシーポーズを取る男をどう思うか?
答え、変態野郎で間違いなし!
更衣室の紳士たちはドン引きし、逃げるようにその場を立ち去っていった。
「お、俺の、俺の名誉が……世間体が……っ」
「ヤバ、エロくない、これ……? あっ、冷たい視線が、快感……」
「俺の口でそれ以上ヤバいこと言うなよぉぉーっっ?!!」
しかもその変態は二重人格者だ。
1人で2人芝居をエンドレスする世にも痛々しいヤバい系の変態野郎だ。
そんな変態男の前に、やけにこざっぱりとしたお兄さんが寄ってきた。
見るに見かねて、一言言いにきたのだろう……。
「兄ちゃん、とくさんか?」
「え、とくさん? 違います」
フリーズドラゴンはコスモスちゃん以上に常識のないヤバ過ぎのドラゴンだった……。
その後に起きた悲劇は、誰にも、誰にも説明なんぞしたくない……。