・亡霊ドラゴン・サイネリアとレッツフュージョン! - 今から君をスーパーヒーローにしてあげます -
「あ、ちょいストップ……」
地下7層目まで降りてくると、そこに特別な扉が立ちはだかった。ボス部屋ってやつだ。
そうすると隣のサイネリアちゃんが挙手をして、俺たちは立ち止まることになった。
「何かしら?」
「ちょっとは働く……。ここは、ボクとニコラスに任せて……」
「……え、俺っ!? いや俺っ、戦闘面じゃただのヘナチョコの畑のミミズ以下なんだけどーっ!?」
「今から、君を、スーパーヒーローにしてあげます……」
「へ、マジ? あっ、あん……っ♪」
サイネリアちゃんは小柄な身体をクルリと反転させて、何をするつもりなのか背中を俺にぶつけてきた。
といっても彼女は幽霊だ。
実際は肉体と霊体が重なるだけだった。
「あ、あれ……。う、動か、ない……?」
「おお、なんて貧弱な、肉体……」
自分の身体が動かないのに勝手に動いた!
いや何を言っているのかわからないと思うが、俺もわからねぇ!
独りでに俺の右手が動いて、ワキワキと顔の前で指を動かしている!
「あ、借りるね……」
「もしかしてあなた、ニコラスに憑依したの?」
「理解、早くて助かります……。じゃ、やろっか、ニコラス。あなたの戦闘力を、これから、極限まで、引き出します……」
「ノーセンキュゥーッッ!! 身体返してーっっ?!!」
「面白そうじゃない。どうなるか見せてもらうわ」
ルピナスちゃんがボス部屋の扉を押し開いた。
すると俺は凍り付いた。
凍り付きながらも乗っ取られた身体が前進していった。
扉の向こうには、超恐いお顔をしたオーガさんがおるっ!
「ナマハゲオーガね。楽しそうな相手だけど2人に譲るわ」
「サンキュー、若者……。じゃ、突撃……」
「止めて止めて止めて止めてっ、ギャァアーッ、死ぬぅぅぅーっっ?!!」
俺の身体は大ボス、ナマハゲオーガに突撃した!
するとなんてことでしょう。
独りでに動く肉体が氷の野太刀を生み出し、それを颯爽と構えると、ギュインッとダッシュが超加速する!
「喋らないで、舌噛むよ……っ。えいっ!!」
「ヒギィィィーッッ?!」
オーガの迎撃をかいくぐり、氷の刃が敵を縦横無尽に引き裂いた!
敵のホウチョーソードをギリギリの紙一重で回避し、反撃し、またヒラリと俺の身体が攻撃を自動でかわす。
そうして最後は、怪物の首をズドンッと一太刀で刈り落としていた!
「かっこいい……やるじゃない、ニコラスッ!」
「まーね……憑依解除。じゃ、乙……」
よかった、生きてる……。
身体がやっと自由に、動――かない……っ?!
「うっっ……?!」
「貧弱無比……。もっと、運動した方がいい……」
心拍が異常加速した。
苦しい、単純に超苦しい!
いくら激しく呼吸をしても酸欠状態になった肢体は全く動かず、俺は煤けた床にぶっ倒れて、陸に打ち上げられた魚のようにあえでいた。
「ひ、との……ぜぇっぜぇっ、から、だ……ぜぇっ、う、うぐ……っっ」
「だ、大丈夫っ、ニコラスっ?! ねぇ、ニコラスッ、しっかりしてっ!」
「へーきへーき……」
「平気じゃないわよっ、もうっ! ニコラスが死んだらどうするのよっ!」
ルピナスちゃんって、正直じゃないだけで根は凄くいい子だ……。
うつ伏せに倒れて込んで苦しむ俺を、やさしく背中を撫でて介抱してくれた。
「乗っ取ってみた感じ……変な肉体。異常に丈夫……でも、ザコ……」
「て、てめぇ……っ、うっ、げほっげほっ……」
結局、立ち直るまで10数分の足止めになってしまった。
それとすっかり忘れていたけれど、敵はナマハゲの包丁をドロップしていた。
トンッとやると、スパーンッと斬れるヤバい包丁だった。
「料理人なんだし、それはニコラスが持ったら?」
「大丈夫かな、これ、まな板ごと真っ二つにならないかな……」
鞘付きの包丁を腰に差して、まだ少しクラクラとする身体で前へと進んだ。
いや、でもここから先の話は少し割愛しようと思う。
なぜかって、あまりに一方的で盛り上がらなかったからだ。
ルピナスちゃんという最強の雷魔法戦士を先頭に、俺たちは迷宮の奥深くへと下っていった。
瞬殺、瞬殺、瞬殺の進撃は、やがて地下12層目にて、再び特別なボス扉を俺たちにくぐらせた。
だけどその大ボスのヒュージスライムも、最強ルピナスちゃんに開幕5秒で瞬殺されてしまったので、特筆するべきところは何もない。
何も……。
ボスドロップは熊ちゃんのぬいぐるみだ。
どう見たってカスドロップだったのに、ルピナスちゃんとサイネリアちゃんが熊ちゃんの取り合いを始めていた。
「これはあたしのよっ! だって、あたしが倒したんだものっ!」
「ちっちっちっ……若者よ。ボクがその気になれば、あんなの3秒で倒してた……」
「ニコラスの身体を借りてでしょ! ニコラスはあたしたちの共有財産よっ、つまり所有権はあなたにはないわっ!」
「ちょっと待って、なんで君らは俺のことを何かと物みたいに扱うのさ!?」
「こうなったら……決着、付けるしかない……」
「上等よっ!!」
「ニコラス、身体、借りるね……」
「はい、と答えるわけねーだろっっ?! ルピナスちゃんとやり合ったら全身炭化して死ぬってのーっ!!」
死にたくないので勝負はジャンケンにしてもらった。
ジャンケンを知らない2人にルールを説明して、どうにか俺が即死しない方向で決着を付けてもらった。
「やった……。いざというときは、これを、身体にしよう……」
「あっ、負けたのは悔しいけどっ、それってなかなかいいじゃないっ!」
「いや目の前でぬいぐるみがいきなり動きだしたら、怖いって……」
というか、俺たちの目的はこの熊のぬいぐるみではない。
ラーメン屋として店を持つためには幻惑の秘宝が必要だ。
そこで誘導もかねてぬいぐるみを腰に抱えてボス部屋の奥に進んでみれば、その先に大宝箱が飾りたてられた祭壇を見つけた。