・亡霊ドラゴン・サイネリアとレッツフュージョン! - 超戦士、亡霊、小市民 -
北辺の迷宮はやけに暖かかった。
雪山にポツンとたたずむ地上部とは対照的に、その内部では赤々と燃え盛るたいまつが、これでもかと壁に掲げられて煌々と室内を照らしている。
当然、壁も天井も床も煤だらけだ。
たいまつの下には燃え尽きた残骸が山となって放置されていて、ただ床を歩くだけで小さな炭がパキリと音を立てる。
素人目なので断言はできないけれど、この迷宮に挑んだ者が過去にいたかもすら疑わしいほどに、この迷宮には人が歩いたような痕跡がどこにも残っていなかった。
まあ、そりゃそうだよね。
ドラゴンの翼がなけりゃ、人間様がこんな雪山の果ての、そのまた果ての雪原にこれるわけがないし。
それに情報源コスモスちゃんがいなければ、この迷宮は向こう1000年だって誰も訪れることのない超ローカル迷宮として、このまま超ボッチ道を貫いていただろう。
いやそれにしても暑い。
コートなんてとても着ていられなかった。
「へー、いいね……。2人とも、そんな面白いところで、暮らしてるんだ……」
「うん、サイネリアちゃんもきっと気に入るよ。アイギュストスは街がとても賑やかでね、そこらをただぶらつくだけでも小さな発見があって楽しいんだ」
フリーズドラゴンの新しい名前も決まった。
冬に咲く花をルピナスちゃんに訪ねたら、青色の花を咲かすサイネリアに二つ返事で決まっていた。
「ん……楽しみ。あと、サイネリアって名前……なんか凄く気に入った。この身体も、なかなか……いい趣味してますね、旦那、へへへ……」
自分の手足を何度も見下ろして、サイネリアちゃんはこちらの視線を受けながらクルリと少女のように回って見せた。
「同感だよ。その姿をイメージしたやつが言うと自画自賛になっちゃうだろうけど……アリだろ、これ。我ながら超いい仕事したと思う……」
「テイムされて、よかった……。これで、巨女扱いとは、さよならバイバイ……」
「俺も、テイムしてよかったよ」
あ、ちなみに戦況はというと、ルピナスちゃんのどすこい独り相撲だ。
スライムが現れればスライムを斬り、ゴブリンが現れればゴブリンを斬り、ストーンゴーレムすらもはい、真っ二つ。お疲れっしたー。
俺たちの出番は一瞬たりともなかった。
「ちょっとっ、2人とも少しは働きなさいよっ! なんであたしだけが戦ってるのよっ!?」
「そんなこと俺に言われても、俺ただの小市民だし、ラーメン屋だし……」
「ボク、ただの幽霊だし……」
「戦闘力皆無のニコラスはともかく、サイネリアッ、あなたはもう少し働きなさいよっ! ドラゴンでしょ!」
「えー。そんなこと……幽霊に、言われても……」
幽霊に働けと要求したところで、どだい無理な話じゃね。
「だったら静かにしてなさいよっ、後ろでそんな話されたらこっちの気が散るじゃないっ!」
「怒られた……。あ、もしかして、これが、キレる若者……?」
「それ言ったら老害って返されると思うよ、サイネリアちゃん……」
なんでルピナスちゃんはこんなに不機嫌なんだろう。
まるで八つ当たりをするかのように、ルピナスちゃんの剣と電撃が正面のスライムを無慈悲に蹂躙してゆく。
ルピナスちゃんはバカ強い。
どんなに相手がでかかろうと、余裕も余裕の瞬殺のフルコースだった。
「凄い、凄い……。やるね、若者……」
「はぁ……っ。なんとなく、あなたというドラゴンがわかってきた気がするわ……」
「皮肉じゃないよ、実際、凄い……」
「ふんっ、煽てようとしてもそうはいかないんだからっ!」
なんて言いながらも、褒められると張り切ってしまうところがルピナスちゃんだ。
そんな姿が年長者の目には微笑ましく映るのか、サイネリアちゃんはその後ろ姿をとてもやさしそうに見つめていた。
俺の方もちょっと感慨だ。
俺は今、本物のロリババァと並んで歩いているんだな……。
青い髪の小柄な少女サイネリアちゃんには、会いに行けるロリババァ的な魅力が詰まっていた。
ああ、テイムしてみて、本当によかった。