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・幻惑、あるいは夢を求めて

 おかしい……。せっかく住宅環境を整えたのに、なぜ毎晩こんな密度の高い夜を……?


 毛布にくるまって一人で寝たはずなのに、なぜ朝になると巣箱の中のヒナのような状態で目覚めることになるのは、なぜなのだろうか?


 特にコスモスちゃんに張り付かれた右足は、すっかり体温を奪われて触覚が麻痺しているレベルだった……。


 ああ、これをハーレムだと喜べる鋼のスケベ心が俺にあったら、どんなによかったことだろうか……。


 冷たく痺れる足でお先に起き出すと、俺は起き出してきたルピナスちゃんと一緒にチャーシューとスープの仕込みを始めた。


「コスモスには困ったものね」

「あ、うん……。できればスト――じゃなかった、ポリアンナちゃんも俺のことを寝ぼけて噛まないでくれると……」


「ルピナスよっ! あなたが付けてくれた名前でしょっ!」

「じゃあそっちも噛まないでよ……」


「違うわよ……。寝てると、無意識にあなたを噛んでるだけよ……」

「だからそれが怖いし困るっ、って言ってるつもりなんだけどっ!?」


「何よ……そんなに強く言わなくたっていいじゃない……。だって、あなたって、本当に美味しいんだもの……ジュルリ」

「人の顔を見ながら舌なめずりしないで……」


 夜通し煮込んでいたスープのあくをとって、調味液に漬け込んでおいたドラゴンチャーシューを蒸し焼きにしていった。


 それから2人で力を合わせて大変な製麺作業を済ませると、またニコラス汁を取らされた。


 そこまでがんばるとようやく、朝食のラーメンの出来上がりだ。

 起き出してきたみんなの食卓に、朝っぱらからのラーメンを提供した。


「うむっ、マリーの尻尾は最高だ!!」

「は、恥ずかしいのですよ~っ、カオスちゃん……っ」

「ふふっ、元気が出てくるわね!」

「チャーシューにすると~、ドラゴンの尻尾はまた格別ですね~♪」


 いや共食いだろ……どう考えてもこれ共食いだろ……っっ。

 と内心思いながらもこれはこれで美味い。


 でも家族の尻尾を食べることに、慣れてきてしまっている自分がちょっと嫌だ……。


 朝から超がっつりの贅沢ラーメンを平らげると、全身に力がみなぎっていた。



 ・



 さてそれでは今日の予定はというと、わざわざ早起きをして仕込みを済ませたのにも理由がある。


「じゃ、あたしたちはもう行くわ。お店はお願いね」

「まーかせて下さいですよーっ! リリィお姉ちゃんとマリーでっ、バッチリ切り盛りしておくですよーっ!」


 自分の店が欲しい……。

 どこかにどっしりと店舗を構えて、その店を俺たち色に染め上げたい。


 コスモスちゃんのプランはムチャクチャだとは思うけど、もしかしたら迷宮に眠る財宝を手に入れたら、本当に俺たちは店を持てるかもしれない。


 昨晩にその相談をすると、これにみんなが乗っかる形になっていた。


「屋台も楽しいですけど~、この街でお店を持てたら素敵だと思います~♪ がんばってきて下さいね~、ニコラスくんっ♪」


「うむ、我らの野望は我が主とモンチャックにかかっておる。せいぜいがんばってくるがよい!」

「ルピナスよっ!!」


「おおすまんすまん、ナスだったな。どことなく髪型もナスに似ておる」

「そっちこそ少し削ったらオスじゃないっ、このオスッッ!!」


「クククッ……このカオスドラゴンとやり合う気概があるのは、そなたくらいのものよ……。世界ごと滅ぼしてくれようぞっ、この白ナスめがーッッ!!」


「はわわわっっ、2人がケンカしたら街が滅びちゃうですよーっっ?!!」


 ちなみにコスモスちゃんの今日の予定は読書だそうだ。

 王家の蔵書を見せてもらえることになったと、昨晩とっても喜んでいた。


 失礼がないといいんだけどな……。

 まあでも、賭場にさえ行かないでいてくれるなら、もうこの際なんだっていいっか……。


「じゃ、今晩の営業はお願いな。帰宅が間に合うようなら俺も手伝うから」

「うーうん、無理はしなくていいですよー。お兄ちゃんはー、ルピナスちゃんと、デートしてくるですよ~っ!」


「デ、デデデ、デートなんかじゃないわよっ?!」

「いってらっしゃ~い、お土産よろしくね~♪」


 ケンカなんてしてないで早く行けと、リリィさんが結界魔法をルピナスちゃんにかけてくれた。


 するとルピナスちゃんはただちにストームドラゴンに変身し、俺はその竜の身体をはい上がって背中へとまたがった。


 今回は北方行きなので、脆弱な人間様である俺は厚いコートを着込んでいた。


「いくわよっ、ニコラス!」

「あの、お手柔らかにね……? うぉわはぁっ?!」


 天翔る翼が俺を一瞬でアイギュストスの天空に導いた。

 大都市はたちどころに小さくなっていて、海に囲まれた不思議な都市の姿を俺に見せ付けてくれた。


 それからしばらく、なんでもない世間話を交わしながら空の旅を楽しむことになった。


「どう、反応あった?」

「うん、持ってきて正解だったよ」


 実はこの遠征にはもう1つの目的があった。

 旅をしながら新たなドラゴンが見つかったら一石二鳥だと、今回はドラゴンレーダァを持ってきたのだ。


 アイギュストスはもう影も形も見えない。

 そろそろいいかとレーダァを起動してみると、これから俺たちが向かう北の方角にちょうど反応があった。


「北に新しいドラゴンがいる。ついでに寄っていこう」

「そう、よかったわ! 必ず助けましょ!」


「あっちが困っているとは限らないだろうけどね」

「まあそれもそうね。でも、それでもドラゴンは再び集う必要があるの。それにきっと、独りぼっちで困っているに決まっているわ」


 で、君たちは仲間を集めてどうするつもり……?


 そう問いかけるか迷ったけれど、やっぱりそれは止めた。

 それじゃ腹黒いコスモスちゃんはともかく、ルピナスちゃんを信じていないみたいだ。


「それはそうと、冷えてきたな……」

「そう……? キャッ!? そ、そんなにくっついちゃイヤよ……っ、もう……っ」


「寒いんだよ」

「セ、セクハラよっ、こんなのセクハラッ!! そ、そんなところ……嫌、押し付けないで……。エ、エッチ……ッ」


「そのセリフ、人型の時に言ってくれたらぶっ刺さったかな……」


 気温が下がり、彼方には白い雪山がそびえている。

 それでも俺たちは新たな竜と、コスモスちゃんが言う幻惑の秘宝を求めて北の空を翔けていった。


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