・ストームドラゴンあらため―― - ニコラス、飼いドラゴンに喰われる! 完!! -
「アナスタシアお嬢様」
「お嬢様じゃないわよっ!」
「コニー」
「しっくりこないわ」
「リーシャ」
「ん……悪くないけど、やっぱり別のにして!」
「じゃ、ドンゴロス」
「真面目にやりなさいよっ! あなた毎朝あたしの顔をみるたびに『やあ、おはようドンゴロス、今日も怒りっぽいね』とかっ、本気で言いたいのっ!?」
いちいち丁寧に突っ込んでくれるところがストームちゃんらしい。
間違いなく彼女こそが我が家のツッコミ担当だろう。
「うーん……山にいたし、電気も得意だから、ヤマピカリャーとか?」
「普通の女の子の名前にしてっ! これ以上変な名前を言い出したらっ、その指先っ、第一関節まで食いちぎるわよっ!」
「ちょ、ちょっと、そういう猟奇的な脅しは止めてよ……」
「ならちゃんと考えなさいよっ!
「そう言われたって、新しい名前をいきなり付けろと言われても……似合う名前なんて、そう簡単には出てこないよ……」
それにツンツンした人だし、アナスタシアとかかなり似合うと思うんだけどな……。
俺はダメ出しの連続に腕を組んで、それからどこかにネタは転がってないかと辺りを見回した。
テントに、井戸、空に、雲に、塩風と、小鳥。
あとちっぽけな花壇――
あ、そうか花や草の名前という手があったかと、俺はテーブルを離れて花壇の方に足を運んだ。
あれ、これって雑草かな……。
見ると端っこの方に見慣れない双葉が芽吹いていた。
「ああそれのこと? それはスイカの芽よ。昨日マリーが蒔いたの」
「えっ、あの種から芽が出たの?」
「そうよ」
「だけど、たった一晩で……?」
「そんなの当然じゃない、マリーはイエロードラゴン、またの名前をアースドラゴンよ。ふふんっ、植物を育てるなんて、あの子には簡単なことなんだからっ!」
「へー……それ、メチャメチャ実用的な能力だな……」
「ふふっ、あの子は凄いんだから」
「そんなの俺だって知ってるよ。えっと……メロンちゃん?」
「却下! なんだかあざとい!」
そうかな。
いかにも甘ったるい雰囲気で俺はかわいいと思うんだけどなー……。
「それじゃぁ……」
「次変な名前出したら噛むわ」
「普通の女の子は人を噛んだりしねーよっっ?!」
まずい。このままではなんとなくの流れで、おやつとして美味しく食べられてしまう……。
何か他にないのかと、俺は今日を生き残るために花壇をまた眺めた。
「ルピナス」
マリーが貰ってきたあの白い花、ルピナスの名前をストームちゃんに向けてつぶやいてみた。
しかし反応がない。
ブチ切れレベルで気に入らなかったから、俺を喰うかどうかの葛藤をあのかわいらしい頭の中でしているんじゃないと、いいなぁ……と思った。
「ま、待て、早まったことは考えるな……? 今すぐ別の名前を考えるからっ、お願いっ、食べないで下さい、ストームさんっっ!!」
ドラゴンテイマー・ニコラス、飼いドラゴンに喰われる! 完!!
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とはならなかったよ。気難しいストームちゃんの表情が華やいで、とっても嬉しそうに体をマリーみたいに弾ませていた。
「いいじゃないっ!! ルピナスッ、今日からあたし、ルピナスにするわっ!!」
「じゃあ、お食事の方は……」
「ふふふっ、今度にするわ♪ ニコラスは、あたしのことをこんなかわいい花みたいに思っていてくれたのね……っ、ふふふふ……っ♪」
「ま、まあね……?」
色々と言い返したいけど、今は止めておこう……。
俺は最強のドラゴンテイマーであるが、常にドラゴンに喰われるリスクと隣り合わせなのだ!
「あらためてよろしくね、ルピナスちゃん」
「ええっ、よろしくね、ニコラスッ! あたし、この名前が気に入っちゃったっ!」
「そ、そう……?」
「とっても! 人間の小さな小さな街で、小さな花の名前で生きるだなんて素敵だと思うわっ!」
「お、おう……そ、そうだね、ルピナスちゃん……」
大都市アイギュストスが小さな街だなんてことないと思うけど、つっこまんとこ……。
ともかくこうしてストームドラゴンは、小さな花のルピナスとなった。
これを機会により人間らしく、俺を捕食対象として見るのを控えてくれたら嬉しいなとか、そう思うニコラスでもあったのだった……。