・ストームドラゴンあらため―― - 癒着と書いて友情 -
帰り際、小さなシルバーゴールドのイルカ像をお土産に貰った。
それはデフォルメ化されたイルカのまるまるとしたデザインもさることながら、驚きの職人技で編み込まれた長く緻密なチェーン部分も特徴だ。
さらにこのチェーンには返しが付いていて、どこかに吊して飾れと言わんばかりの工夫が施されていた。
当然、その愛らしい見てくれはマリーやストームちゃんにも大好評だった。
しかしだ。
これをくれた王と大臣はこうほのめかしていた。
『それを見せ付ければ憲兵たちもまあ、我々の存在を薄々察することでしょう』
『ニコと俺たちの友情の証だと思ってよ』
うん、まあ、ぶっちゃけるとそういうブツ。
このイルカ像は、王家お墨付きの証だ。
『控えろぅ、このイルカ像が目に入らぬかぁ~っ!』
ってやれば、国家権力の犬どもはこの俺の前に『ははぁ~~っっ!』とひれ伏すってことだ。
友情って素晴らしいなって思った。
・
「ねぇニコラス、あたしあなたに相談があるのだけど……少し、いいかしら……?」
「いいけど、急にどうしたの?」
会いに行ける近場の王とご近所大臣のところから帰ってくると、もうその頃には太陽が西の空に移動していた。
家ではマリーが俺たちを待っていてくれて、彼女に懐柔の成功を伝えると、まるでヒヨコのように跳び跳ねて喜んでいた。
それからマリーは浜辺に旅芸人一座がやってきているとはしゃぎだして、それに興味を持ったコスモスちゃんとリリィさんと一緒に出かけていった。
ストームちゃんと俺は家に残った。
ストームちゃんだって最初は行きたそうにしていたのに、急に気が変わったとか言い出して、ここに残ることになっていた。
「ねぇ、ニコラス……」
「ん、どうしたの、急に?」
「イエロードラゴンは、マリーでしょ……?」
「え? ああ、うん?」
「カオスはコスモス。ホーリーはリリィよね」
「……ああ、もしかして、あだ名の話?」
俺たちは屋根のないテーブルに向かい合って腰掛けていた。
次々と浮かんでくる話題を順番に譲り合いながら、余暇のなんでもないお喋りを楽しんでいた。
アイギュストスの麗らかな夕日の下で、ストームちゃんの長く青白い髪が風にそよいでいたりもした。
表情の方はというと、なんだか急に神妙な感じだった。
「なら、あたしは……?」
「ストームちゃん」
質問にさらりと返すと、彼女はムッとしたようだった。
「違うのっ! あたしも……あたしも、人間の名前が欲しい……」
「ああ……。でもちょっと意外だな、それって心境の変化ってやつ?」
「ち、違うわよっ! だって、ストームだなんて女の子の名前として変じゃない!」
「まあそれは確かに」
「それに正体がストームドラゴンだと、気づかれちゃうかもしれないわ……っ」
「ま、あり得ない話でもないね。それじゃ、なんて名前にするの?」
そう返すと、ストームちゃんはしばらく無心にこちらを見つめ続けた。
彼女は少し気が強いけれど、黙っていればとても女の子らしくて超絶に可憐な女性だ。
いや、ただ黙っているだけで
『普段に増して可憐に見える』というお得な特質を持っている、とも言える。
よってただ見つめられているだけで刺激的だった。
「え、まさかこれって……。俺がストームちゃんに新しい名前を付ける流れ……?」
「べ、別にっ、ニコラスが付けてくれなくてもいいんだからっ!」
「ああそう、よかった。実は俺、ネーミングセンスに自信が――」
「でもこの身体はあなたの理想が形になった姿でしょ! 責任取ってあたしに名前を付けなさいよっ!」
「なら最初から素直にそう言ってよっ!?」
「ふんだっ、そのくらい察しなさいよっ!」
両手を腰に当てて、理想の美少女が子供みたいに唇を突き出して怒っている。
出会ったその時からそうだったけど、ストームドラゴンって存在は怒りっぽくて不器用だ。
でもそこがたまらなくかわいいと思った。
そんなしょうがないストームちゃんに微笑んで、俺は彼女の顔を見つめながら新しい名前をぽつぽつと考えていった。