・喰らえ、ドラゴンラーメン!! - 竜の尻尾ラーメン -
「うむ、話は聞かせてもらった。あの面白オジサンどもに我から伝えておこう。ジュルリ……」
「何言ってんのっ、あのマリーの尻尾だよっっ!?」
「ワハハ、誰の尻尾でもよいではないかっ。おーい、聞けー、国王に面白オジサンよっ、今回は凄いぞぉーっ! ニコラスはなぁ、これからっ、ドラゴンの尻尾ラーメンを作るそうだぞーっ! ドラゴン料理に舌鼓を打つがよい、人間ども!」
コスモスちゃんの勝手な行動は、国王陛下とオジサンに大受けも大受けだった。
まあ、うん、ドラゴン料理に憧れる気持ちは俺もわかる……。
でも、でも、マ、マリーの尻尾、マリーの尻尾だと思うと……。
ほ、包丁が、ゆ、揺れ……っ。
「交代しましょ~♪ ニコラスくんは~、手を煮て♪」
「打ち首にされかねんから今回は止めようよ、それ……。ていうか、リリィさんは平気なんですか……?」
「ええ、若いドラゴンにはよくあることですから~♪」
「えぇぇ……っっ?!」
ダンッ!
と、人間離れした力でリリィさんが尻尾を輪切りにしていった。……もち、手刀で。
それをオーブンで焼いて、食べやすく方眼紙状に切り目を入れればドラゴン肉のローストだ。
スープと麺をからませて、甘いキャベツと少し辛い生タマネギ、竜の髭のように刻んだ白ネギを乗せて、三つ葉と細ネギと輪切りのドラゴン肉を添えれば、ドラゴンラーメンの完成だった。
2人分の麺が食堂に配膳され、王と大臣の前で美味しそうな湯気を立てることになった。
「ねぇリリィさん……あれ、美味しく食えるの……?」
「とっても、美味しいですよ~?」
「なんで味を知っているんだ……共食いじゃんかよ……っ」
「美味しいですし~、捨てるのはもったいないからいいじゃないですか~♪」
俺がドン引きしている一方でカタン王たちはいたく興奮していた。
夢にまで見たドラゴン肉が乗った、だいぶというかムチャクチャ食べにくい鶏出汁ラーメンに、目を輝かせながら箸を伸ばした。
そう、箸だ。
そいつらは、ラーメンを、実に食い慣れていた……。
「ほぅ……これはこれは、フフフフ……ヤバいですね、陛下」
「うん、確かにこれを食べたらもうセカンドソンでは食べられないなっ。ああ、なんて味わい深いスープなんだ……。この甘いキャベツもいい……これこそが理想のキャベツだよっ!」
「ドラゴンの肉の方は……おお、やわらかい……。これほどの厚みがあるというのに、ホロホロと口の中でほどけて……それが最高級のスープとからみ合って……これは美味い……」
「ラーメンは麻薬……。今日までは懐疑的だったけど、確かに言ったものだよね……。本物のラーメンは、正しく麻薬だね、オジサン……」
2人はわき目もふらずに一心不乱でラーメンを平らげた。
ドラゴン肉の圧倒的ボリュームの前だというのに、5分も待たずしてどんぶりの中を空にしていた。
「凄い、こんなに美味しいラーメンは食べたことがないよっ! ニコッ、君はラーメン作りの天才だよっ!」
「なるほど、これがリリィさんを魅了したのですね。ああ、僕たちばかりすみません、今度はみんなで食べましょう。おかわり!」
「そう言ってくれるのは店主としてメチャクチャ嬉しいんですけど、その前に、本題の方を……」
そう持ちかけると、2人はなんの話だって顔をした。
「ああ、リリィさんが言っていた目こぼしの話? もちろんいいよ」
「フッ、シスター・リリィも人が悪いですね。ニコラス殿をやる気にさせるために、あえて黙っていたのですか」
「え、何それ聞いてないよっ?!」
なんてことだ。さらに詳しく聞くと、昨日の時点で既に買収は済んでいたそうだった。
リリィさんはやさしそうな笑顔で笑ってごまかして、コスモスちゃんまでグルだったみたいに意地悪に口元を引きつらせていた。
「な、面白い男じゃろ?」
「ええ、それにとてもかわいい人です……」
「ニコのラーメン、今度はこの足で食べに行きたいね、オジサン」
「わははっ、そんなに我が主が気に入ったか。ならば我らに、屋台ではない本物の店も持たせてくれてもいいのだぞ?」
コスモスちゃんはダボダボの制服の裾で口元を覆って、だが潜ませる気皆無の大きな声で無理難題を要求した。
「ごめん、コスモスのことは好きだけど、それはちょっと無理だよ」
「まあ理想を言えば、どっしりとどこかで店舗を構えてくれた方が、私どもとしては通いやすいのですが……。ラー禁法がありますからね……」
どこに看板を堂々と掲げて、麻薬扱いされている物を売る店があるのかって単純な話だ。
「むむむむ……ならばこうしようっ! ならば、幻惑魔法を使えばいいっ! 強力な催眠で、ラーメンではなくうどん屋あたりだと思わせれば万事解決だ!」
そんなメチャクチャな……。
うどん屋だと思って入った店でラーメンが取り扱われていたら、さすがにお客さんもおかしいと思うでしょ……。
「少し待っておれ、それっぽいアーティファクトがある迷宮を今から検索してやる」
「え……? ちょ、待ってっ、今ここで、あれをあれをやるつもりなの……っ!? 待ってっダメだってコスモスちゃんっ?!」
王と大臣を無視して、コスモスちゃんはふわりと宙に浮かび上がると、それから5,6分ほども空気を読まずにくるくると回り出した。
その間、俺たちが何をしていたかと言えば、しょうがないしどんぶりの中のドラゴンの尻尾の骨が裏になるか表になるかで、チンチロリンと食器を鳴らして遊んで待った。
「うむ、見つかったぞー。紙とペンはあるかー?」
「ではこちらの陳情書の裏に」
それ、落書きしたり人に渡したらダメなやつでは?
そうツッコミを入れる間もなくコスモスちゃんは紙とペンを受け取り、受信した何かを地図へと変換した。
幻惑の力を持った目当ての秘宝が遙か北方の迷宮にあると、頼んでも聞いてもいないのに俺たちに教えてくれた。
「陛下、一つよろしいですか?」
「なーに、オジサン?」
「祖母の記憶のまま全く老いないリリィさんに、迷宮を探る力を持った気位高き乙女。そして人を魅了する異常な味わいを秘めるラーメンを作れるニコラス殿の才……。彼らは、どう考えても、人間ではありませんね……」
「そうだね、でも俺はいいと思うよ。人と人が行き交う土地アイギュストスに、たまたまそういう人たちが流れてきただけのことだよ。俺は好きだなぁ、ニコ……」
「奇遇ですね、僕もです」
うら若い王と大臣が耳打ちをし合ってやけに親密にしている。
その視線がこちらに向けられると、どういうわけか背筋に得もいえぬ悪寒が走ったのは、なぜなのだろうか……。
「俺、ニコともっとお友達になりたいなー……」
「は、ご命令とあらば、陛下のため喜んで。僕もお友達になりたいですしね……」
このアイギュストスには、俺の知らない価値観を持った色々な人たちが星の数ほどいた……。