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・喰らえ、ドラゴンラーメン!! - わからない、文化が違う!! -

「今日は俺の――ああいや、私のラーメンを食べて下さるということで、腕によりをかけてがんばらせていただきます。特に今日は特別な――」


「えーっ、硬いよぉー、ニコラス~っ。もっと俺と友達同士みたいなしゃべり方をしてよーっ!」


「んなまねできるかーっ、王様相手に不敬な言葉使いなんてできるわけねーでしょうがよっっ!? あっ、やべ……いや、これはその……っっ」


「アハハハハッッ、へーっ、ニコは普段はそういう感じの人なんだねっ!」

「陛下に畏まる必要はありません。我らアイギュストス王家の権力など、たかだか知れていますから」


「うんうんっ、ノリでニコを処刑できるくらいの権力はまだあるけどねっ!」

「ちょぉっ!?」

「法律上は余裕です。何せラーメン屋ですからね」


 俺、自分が思っていた以上にヤバい橋を渡っていたんだな……。


 そういった意味では、コスモスちゃんと早い段階で出会えたのは幸運だったのかもしれない。

 不幸と幸福の両方を持ってくる厄介な疫病神そのものだけど……。


「ワハハハッ、気に入ったぞ国王! 同じニコラスいびり仲間として、今日は最高のラーメンを食わせてやるっ!」


 でっかいため息を吐いて、俺はしばらく頭を抱えた。


 なんだこいつら……。

 調子、狂う……。

 コスモスちゃんと波長が合うとか想定にないよ……。


「で……今朝、うちの者が搬入した食材はどこですか? お腹が空いているそうですし、これからすぐに調理に入ろうかと思うのですが……」


「それならば既に厨房に。僕がご案内しましょう、さ、こちらへ、ニコ(・・)


 俺より小さな美少年オジサンに、背中を抱くように押された。


 女性をリードすることに慣れ切った、洗練された大人の気品をその少年から感じた。

 『悔しいっ、なんかやさしみ感じちゃうっ』って感じだった……。


「申し訳ありません、僕たちは昨日からこのイベントが楽しみで楽しみで……。いえ、知り合いのラーオタから、散々に本物のラーメンを食べたと自慢をされましてね……。セカンドソンではもう2度と食べないと言わせるだけのその腕前、本物か確かめさせていただきましょう」


 と言って、オジサン・ムーディは俺の手にジェントルタッチで触れた。

 ビクンッと背筋が震えて、俺はオジサンの魔の手から厨房の奥へと飛ぶように逃げた。


「期待しておりますよ、ニコ」

「あ、ああ……ど、どーんとこいっ?!」


 え、なんで……?

  リリィさんに惹かれていたのなら、なんで俺の手なんかをやらしい手つきで触れるの……っ!?


 動揺する俺を見てオジサンは薄く微笑み、リリィさんとのすれ違いざまに親しげなハイタッチを交わして去っていった。


「ワハハハッ、あやつは面白いやつだ! ニコラスの友人にしてやろう!」

「ええ、それに趣味もとっても合いますし~♪」

「趣味ってなんの趣味だよっ?! あ、いや知りたくないっ、答えなくていいからっ!」


 とにかく調理に集中しよう。

 俺は厨房の端っこで待機していたシェフの助けを借りて、ここの調理器具の使い方を一通り教わった。


 シェフは影こそ薄いけどとても良い人だった。


 今日のために深夜までじっくりと鶏ガラから煮込んだスープがある。


 これは言わば手間暇の結晶だ。

 骨がドロドロに溶けるまで、煮込んではあくを取る地道な仕事を夜更けまで続けてやっとこさ完成させたスープだ。


 その鍋に薪の火をかけた。


 リリィさんの方を見れば、あの甘い白キャベツを手慣れた手付きで刻んでいる。


 えっと、具体的に言っちゃうと包丁無しの手刀でだけど……

 まあよしっ!


 そのキッチンの傍らには、新鮮な三つ葉と、細ネギ、白ネギ、辛みの少ない赤いタマネギが並べられていた。


 それらもドラゴンの超スペックを無駄づかいして、これからあの残像となった手に刻まれてゆくのだろう……。


 それから1つ、悪い話がある。

 もちろんそれはコスモスちゃんだ……。


 手伝う気皆無のコスモスちゃんはおもむろに食堂の方に戻っていった。


 あっちで何かやらかさないか、彼女を知る者としてただただ不安だ……。


「あれ、チャーシューは……?」

「あら~? あら……あららー? ない、ですねー……?」


「ええっ、ないじゃ困るよっ、ど、どうしようっ!? あの鶏チャーシューがなきゃ、ただの野菜ラーメンじゃんっ!?」


「あっ、お肉ならここにありますよー?」

「えっ、肉? 肉なんか仕入れていな……いけど、あれ……確かにあるね……。肉だ……」


 木箱があって、それをリリィさんが開けると、中に1本の赤身肉が入っていた。


 でも形状がどこか不思議だ。

 それはやけに長細い肉だった。


 持ち上げてまな板の上に乗せると、その肉の断面には一本の骨が通っていた。


「それを使いましょう。お肉の入ってないラーメンなんてダメですよ~、コスモスが暴れてしまいます。……あら? ニコラスくん、どうかされましたか~?」


「お、俺……俺……っ、これっ、知ってる……っ、見覚えある……っっ」


 これって、アレ(・・)じゃね……?

 今朝これをここに搬入をしたのはあのマリーだ。

 そしてマリーは昨日、これを家に持ち帰っている……。


「し、ししし、しぽ……しっ、尻尾……っ、これっ、これっ、昨日のマリーの尻尾だろっっ?!!」

「あ~~っ♪ そういうことでしたか~っ♪」


「なーにのほほんとしてるんですかっっ!? じ、じじ、人肉……っ」

「ふふふ~っ、ドラゴンの尻尾肉を使った、ドラゴンラーメンですね~♪ ジュルリ……」


 いや……いやいやいやいやっ、それ共食いじゃん……?

 いや何っ、ドラゴンの世界では、切れた尻尾はみんなでお祝いに食べるものなのっ!?


 わからない、文化が違う!! 違いすぎ!!


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