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・喰らえ、ドラゴンラーメン!! - 王と大臣、あとバブみ -

 王様だから城で暮らしている。

 それは俺たちド平民の勝手な思い込みだ。


 なんとアイギュストスの王様と大臣は高級住宅街、いや身も蓋もない言い方をすると、なんとうちの近場で暮らしていた……。


「お迎えに上がりました、リリィ様、コスモス様、ニコラス様」

「あ、ども……」


 家の前に深紅の馬車が出迎えにきた。


 クッションがふっかふかの席に腰を落ち着かせて、ざっと1分(・・)ほど待つと馬車が止まり、下車をするようにうながされた。


 向こうにある角を右に曲がってちょっと進んで、さらに左に曲がったところがうちの家だった。


 王の住処にしてはあまりにちっぽけな、だが十分に巨大な豪邸がそこに建っている。

 屋敷は窓が縦に4つ並んでいて、小さな尖塔までそなえていた。


「ククク、不安か、我が主よ?」

「いや別に。それよか王様がご近所さんだったって衝撃の方が遥かにでかいかな……」


「そうかあいわかった。もし騙し討ちにされそうになったら、我が全てを吹き飛ばしてやるから安心せよ」

「いやわかってねーしっ、それ俺まで死ぬやつだろ……っ!」


 手加減に手加減をしてあの通りの破壊力なので、彼女ならば余裕も余裕なのだろう……。

 俺たちは屋敷の中へと招かれ、立派な中庭を誇るように設計された大食堂へと入った。


「おお、シスター・リリィ……やはり貴方は聖母のようにお美しい……」


 甲高く若々しい声が響いた。


 見ると黒髪の超美形の少年がこちらにやってきて、リリィさんの足下にひざまずき、差し出された白い手のひらへと接吻した。


 え、第一印象?


 『リリィさん相手にそんなことするなんてテメェッ、なんて畏れ知らずな美形なんだっ! いやスゲェよお前っ、俺ならブルッちまって絶対にできねぇ!』


 って感じの印象だ。

 俺は早くもその美少年にリスペクトを抱いた。


「あらありがとうございます、オジサン大臣♪」

「…………へ?」

「何っ、このたらしっぽいお子様が大臣だとっ!?」


 オジサン大臣は驚く俺たちにキザな流し目を送って立ち上がった。


 コスモスちゃんには大仰なお辞儀を、俺の方には様子をうかがうような好奇心の目を向けてきた。


「お初にお目にかかります、僕はオジサン七世にあたる、オジサン・ムーディと申します。貴方がコスモス様とニコラスですね」


「うむっ、クソ根暗そうないいショタキャラではないか! 気に入ったぞ!」

「コスモスちゃんっっ、お大臣様にそういう言葉は使い止めようねっっ?!」


 普段は食器の配膳すら手伝おうともしないのに、なぜ今回に限ってコスモスちゃんが付いてきてしまったんだ……。


 オジサンは俺より年下に見えるのにニヒルな微笑みでこちらを見て、それからお気に入りのリリィさんの腰に手を回して奥へと導いた。


「祖母が貴女に夢中になったのもよくわかります。ああ、シスター・リリィ……僕は遺伝レベルで、貴女にバブみ感じずにはいられません……」


「あらお上手ね、ふふふ~♪」


 いやだけどアイツ、やっぱすっげーな……。

 あの勇気、本物だ……。


 俺は年下のオジサンくんに、さらに激しいリスペクトを覚えながら、冷たいコスモスちゃんの手を引いて2人を追従した。


 だってほら、ここでエスコートしておけばコスモスちゃんも機嫌が良くなるし、何をしでかすかわからないドラゴンをその場に放置するよりも、ずっとマシだから……。


「国王陛下、ニコラスとコスモスをお連れしましたわ」

「うん、ありがとう、リリィ。ああもう俺、お腹ぺこぺこだよーっ」


 奥の席に進むと、そこにコッテコテの姿をした王子様がいた。


 袖がヒラヒラと広がった白いシャツ、そこにくっついたまぶしい銀のボタン、白く細い脚の生えた半ズボン、ふわふわの金の巻き毛をした青年が、


 実は王様だったなんて言われて、どこの誰が信じる……?


「やあ、君がニコラスだね! 噂は聞いてるよ、ヤマオカファミリーとやり合ったそうじゃないか」

「ど、どうも国王陛下……ええっと、一応ラーメン屋のニコラスです……」


「俺はカタン・アイギュストス。歳も近そうだし、そんな畏まらずにカタンって気軽に呼んでよ」

「え、ええぇぇ……っ? いや、そういうわけには……」


 見た目が愛くるしい上になんかやたら気さくだ……。

 俺は『君、本当に王様?』と聞きたくなったけれど、そこは心のどんぶりの中に押し込めた。


「あ、ニコって呼んでもいい? ニコ兄ちゃんっていうのも悪くないなぁ……」

「……陛下、そこまでにしましょう。ニコラス殿をからかっても腹は膨れませんよ」


「あっ、それもそうだね。ははは、お腹空いてたの忘れてたよっ」


 なんか、想定していた展開と違う……。

 それにこの人たちって、リリィさんのドストライク確実の美少年ってやつなのでは……。


 そう思ってリリィさんに流し目を向けてみると――

 あれおかしいな。

 やさしそうに微笑みながら2人を見ているだけだった。


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