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・エブリデーでホリデーなナイスデー - ドラっぽ -

「失礼なやつらだったな……」

「は、はぅ……っ」


「あれ、どうかしたの、マリー? あれ、なんか、どことなく違和感が……」

「えとえと……あの……やっちゃいました、です……」


「何を?」


 まさか驚いて、本当に漏らしてしまったとか……?

 俺はマリーを傷つけないようにひかえめに、それとなくマリーのイスの下をのぞき込んだ。


「えっっ?!!」

「は、はい……。尻尾……ビックリして、切れちゃったのですよー……」


「え、嘘っ、それ尻尾? うわぁっ!?」


 マリーの背中の方に回り込むと、長さ2mほどの大きな尻尾が砂の大地の上に落っこちていた。


 それはふさふさの金色の毛で覆われていて、長さからしてイエロードラゴンの尻尾の真ん中から先のようだった。


「トカゲかよ……」

「え、えへへへ……」


「いやそれよか、大丈夫? 痛いなら今から医者に行こうよ」

「え、痛い? なんでなのですかー?」


 痛くもなんともないらしい。

 マリーは後ろを振り返って、しきりに自分のお尻の辺りを気にしていた。


「いや、平気なら全然いいんだけど……。でもこの尻尾、どうしようか……」

「はい、もったいないから持って帰りましょうっ!」


「マジでっ!?」

「はいなのですっ!」


 前略、学長せんせ。元気にしていますか?

 俺はもう毎日が新規イベントキャンペーンの連続です。


 テイムしたドラゴンたちとのカルチャーギャップに、もしかして俺の価値観の方が狂っているのではないかと、常識の壁をドラゴンクローにぶち壊されまくる苦悩と勉強の日々です。


 マリーは自分の尻尾を持ち帰って、いったい、どうするつもりなのでしょう……。

 学長せんせ、どうか、お身体をお大事に……。


「お買い物に付き合ってくれてありがとうなのです、ニコラスお兄ちゃんっ♪ とってもとっても、マリーは楽しかったのです!」


「いえいえ、それは俺もだよ」

「あの、だから……もし、あの、よかったらまた……マリーと……。マリーとまたデートして下さいっっ!!」


「うん、それはいいけど……」

「やったーっ!! 絶対ですよっ、絶対っ!!」


『これってデートだったんだ?

 そして本当に、この尻尾を家に持ち帰るつもりなの?

 つーか具体的に何に使う気なのっ、ねぇっ!?』


 という疑問を彼女に投げかけようにも、美しいブロンドを揺らながら跳ね回って喜ぶマリーを見ていると、話題を変えるような気にはなれなかった。


 こうして俺たちは来た道を引き返した。


 2mにも及ぶ金の尻尾をマリーが肩に抱え、先端の軽い方を俺が支えて、力持ちな少女と珍品に往来の人々を驚かせながら、俺たちは外壁だけご立派な自宅へと引き返した。



 ・



 戻ると広い敷地に立派な天幕が設営されていた。

 6本の杭がロープで天幕を張力で膨らませ、その下に広々とした生活空間を作り上げていた。


 今まであったテントの方は保管庫に役目を変えたようだ。

 それは眺めているだけで、なんだか前に進んでいるかのような気持ちになる立派な新居も新居だった。


「おかえりなさ~い♪ あらっ、あらあらあらっ♪ ふふふ~、切れちゃったのね~♪」

「やっちゃったですよー……」

「いや、だからってなぜ持ち帰るし……。そりゃまあ、捨ててもおけないけどさ……」


 天幕の奥には毛布が重ねられていた。

 薪も用意されていて、中央にはそれをくべるための大きな囲炉裏が用意されている。


 それと買収に出かけたはずのリリィさんがもう帰っていた。

 また出かけたのかストームちゃんの姿はどこにもなかった。


「あ、ところで例の件は……?」


「はいはい、黄金色のお菓子のことですね~♪ オジサン大臣は、お主も悪よのぅ……と合わせてくださいましたよ~♪」

「わぁぁーっ、大成功ですねーっ!」


 よくわからない。

 わからないけれど、リリィさんは上手くいったと明るくマリーにうなづいた。


「アイギュストス王様も~、グルだったみた~い♪ そういうわけで~」

「え、なんですか……?」


 それからリリィさんは俺の肩をおもむろにポンと叩く。

 相手が相手なのでノーモーションからのセクハラかといざ警戒すれば、うん……。


 さわさわとやらしく撫で回されたかな……。


「マリーちゃん、今から最高の食材を用意できるかしらー?」

「えっとー……なんの食材なのですかー、お姉ちゃん?」


「もちろん、ラーメンよ♪ それからニコラスきゅんっ♪」

「うっ……?!」


 もう片方の肩に手を置かれた。

 リリィさんは胸の大きな美人のお姉さんだ。


 それが俺の肌や髪に残った潮の香りをかぎ回りながら、姿だけたおやかに微笑んだ。


「明日、その食材を持ってお屋敷に行くと約束したわ。国王陛下と大臣に、出来立てのラーメンを作ってくれるかしら? んっ、スーハァァッ、スーハァァッ……♪」


「そ、それはいいですけどっ、は、離して……っ、こ、怖い……っっ」


 俺はリリィさんの前から逃げた。

 そして天使そのものであるマリーの後ろに逃げた。


 それだけでリリィさんは元のやさしい彼女に戻ってくれた。


「えへへ……おにーちゃんにギュッてしてもらえたです♪ 今日は良い日なのですよーっ♪」

「と、尊い……っ♪ ああっ、こういうのも新鮮でいいわぁ……っ♪」


 リリィさんって、つくづく妄想の世界に生きている人なんだな……。


 彼女の頭の中で俺とマリーは今何をやらされているのだろう。

 もちろん、そんなこと知りたくもなかった。


「ではでは~、この3人で~、今からお買い物にいきましょうか~♪」

「あっ、いいですねーっ! マリーはお兄ちゃんとお姉ちゃんとお買い物っ、行きたいのですっ!」


 その買い物から帰ってきたばかりなんだけどね。

 まあでも、なんでもかんでもマリー任せはよくない。

 マリーから目利きの技術を教わろう。


 俺たちはもう1度町に出て、その日の残りは国王をうならせるラーメンの下準備に時間をたっぷりと割いたのだった。


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