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・エブリデーでホリデーなナイスデー - 誰がロリコンだよっっ?! -

 アイギュストスは知れば知るほどに不思議な都市だ。

 気まぐれな潮の満ち引きがこの都市を宿場町にして、南北の陸を繋ぐ立地がここを流通の大動脈にしている。


 行き交う人があまりに多すぎて、この国では人の顔をいちいち覚えてなんていられない。


 たくさんの人がやってきて、たくさんの人が去ってゆく都市。それが海運都市アイギュストスだ。


「おにーちゃーんっ、へっへへ~♪」

「何、マリー?」


 マリーと一緒に海の方まで歩いた。


 マリーは俺の二の腕にしがみついて、弾む足取りでこっちを見上げたり、海を見て声を上げたり、断崖の高さに悲鳴を上げたりしていた。


「なんでもないですよ~、なんでも~♪ マリーは今、楽しい気持ちでいっぱいなのですよーっ♪」

「う、うん、そうみたいだけど……。あのさ、マリー……」


「なんですかー、ニコラスおにーちゃんっ♪」

「あの……いや、なんでもない……」


 でもこれ、職質とかされたらどうしよう……。

 俺の弱点、それはずばり、国家権力の犬どもだ!


 今や俺というドラゴンテイマーは最強である。


 そう表現したところで言い過ぎというほどでもないのだが、カオスちゃんをのぞいてうちのドラゴンたちは、お巡りさん相手だと態度弱すぎ!


 君らさ、もうちょいマスターである俺を守ろうとしてくれてもいいんだよっ!?


「あ、海岸の方に下りてみる……?」

「行きたいです! あっ、一緒に泳ぐですかー!?」


「この格好で? 脱いだら俺が逮捕されちゃうよ……」

「あ、そうでした……。あっあっ、でもでもっ、いいこと思い付いたですよーっ!」


 アイギュストスの周囲は多くが断崖で海と陸が途絶されている。

 だけれど長い歴史の中で、人々は下の海岸や港と行き来ができるように、地道にがんばってきたんだろう。


 そういうわけで俺たち崖ぞいの下り坂を進んで、水上コテージや屋台の目立つ海岸まで下りてきた。


「で、何を思い付いたの?」


「あっ、砂浜に夢中で忘れてましたっ! えとえとですねっ、おにーちゃんをですねーっ、海に沈めるのですよーっ♪」


「いやそれ死んじゃうってのっ?!」

「あ……てへへ~、ちょっと間違えたです。おにーちゃんを、海に漬けるですよ~」


「いや、意味はだいたい同じじゃないかな……」


「そうじゃないですよー。美味しいおにーちゃんを、しょっぱい海に漬けたら、もっともっと美味しくなるですよーっ!」


 童顔な顔立ちが世にも愛らしいドラゴン娘は、明らかにマスターを捕食者目線で見ていた……。


「あ、うん……。そうかもね……」

「あーーっ!? おにーちゃんおにーちゃんっ、この石見て下さいっ! まんまるなのですっ!」


「ホントだ。へー、海って不思議だね……」

「あっあっ、またありましたっ! こっちの石は、白くてまんまるですっ!」


「おおっ、それも綺麗だね。凄いな、海って凄いんだな……」

「マリー、ここに引っ越してきてよかったですっ!」


 そんな2人でふうにはしゃいでいると、地元民とか、コテージ暮らしをしている旅行客に笑われたような気がした。


 そりゃお前らにとっては当たり前のことかもしれないけど、俺たちにとっては石が丸いだけで驚きなんだ。


「またあったですっ! じゃーんっ、これなんて宝石みたいなのですよーっ!」

「もしかしたら、翡翠とかも転がっていたりしてね」


 俺たちは人々に笑われようと、お構いなしに海岸を気ままに歩いた。


 お気に入りの石ころをポケットいっぱいに詰めて、それから一番美味しそうに見えた屋台のオープン席に座った。


 舶来のレモンを使ったぬるいアイスティーを頼んで、小腹が空いていたのでエビの串焼きと、カットスイカを頼んだ。

 小づかいがあるって最高だった。


「あま~いのですっ! 今マリーは、おしっこ漏ちゃいそうなほど幸せなのです……っ!」

「大きな声でおしっことか言わないで、食事中だって……」


「あ、ごめんなさいなのです……。でもでもっ、それくらい今日は嬉しいのですよーっ!」


 イスの下で、マリーの尻尾がぶんぶんと激しく揺れていた。


 なんでこの姿を人々は疑問に思わないのだろうと以前は不思議だったけれど、どうも魔法の力で上手くやっているそうだった。


「……で、何やってるの? まさか、それ(・・)を持って帰るの?」

「はいです。このスイカ、気に入ったからお家で植えるですよ」


 スイカって、種だけで実ったりするんだろうか……。


「あとはー、おにーちゃんを海に沈めれば、完璧なおやすみなのです♪」

「海は遠慮しておくよ……」


 全身を塩味にして帰ったら、寝ぼけたストームちゃんあたりにマジで喰われそう……。


 あ、でも今日からはあの立派な天幕暮らしだ。

 家に帰るのが楽しみだな……。


「ピエエッッッ?!!」


 だけどそうやって歳の少し離れた兄妹みたいにゆっくりとしていると、通りを横切っていた水夫たちの台車から農具の山が崩れ落ちた。


「ああやっちまった……」

「何やってんだバカ野郎っ、売り物を傷付けんじゃねぇっ! おう、悪かったな、お嬢ちゃん」

「は、はひっ……」


 水夫って、やっぱ荒っぽいな……。

 自分のイスの下に入り込んでいた鉄のクワを、俺は水夫の1人に差し出した。


「ありがとよ、とっぽいにーちゃん!」

「バカ野郎っ、素直に感謝しやがれアホッ! じゃあな、ロリコンのにーちゃん!」

「誰がロリコンだよっっ?!」


 水夫たちはその後も騒がしく言い合いながら去っていった。

 ところで『とっぽいってどういう意味?』という疑問を残しながら……。


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