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・続、ドラゴンで簡単ごり押し迷宮攻略! - 嵐竜&聖竜 vs ただの迷宮ボスごとき -

 さらにフロアを進み、B10へと到達するとそこは一本道の階層だった。


 モンスターの姿もなく、ただただ暗く長く続いてゆく通路を歩いてゆくと、赤く大きな扉が俺たちを待ちかまえていた。


「教科書が正しかったら、この先にはいるのは手強い怪物かもしれない……。こういうフロアがあるって、そう書かれていた……」


 俺たちはその扉を慎重にゆっくりと音を立てないように押し開いて、隙間から中の様子をうかがった。


「あ、懐かしいわ。あれはアイアンゴーレムね」

「人間の背丈から見ると~、ずいぶんと大きいんですね~、あのオモチャ♪」

「いやいやいやいやいやいや……っっ」


 遠目なので正確ではないけれど、そのアイアンゴーレムの背丈は二階建ての建物くらいはあるように見えた。

 しかもその左右の手には、巨大な両手剣が握られている。


 戦えば死ぬ。


「ニコラスは本当に臆病ね」

「そこがかわいいんですよっ、そこがヘタレでいいんですっ♪」


「いやただの人間様を、ドラゴンの物差しで測ればそりゃそうなるだろうよ……。てかヤバいっ、あのゴーレムはヤバいって! ここは後退して綿密に戦術を立ててから――」


「大丈夫よ~♪」

「ふふふっ、やっと本気が出せそうね」


 それは【男の子が一生のうち1度くらいは言ってみたいセリフランキング・トップ10】に入るやつだ。


 ストームちゃんは扉を押し開き、アイアンゴーレムの前にズンズンと進んでいった。


 それを見て俺は思ったね。

 ストームちゃんって、主人公っぽい……。


 そしてその主人公ムーブをする可憐な女性は、見る見るうちにアイアンゴーレムをも超える巨体に変身していった。


 忘れもしない。

 あの狂える暴竜ストームドラゴンだった。


 その巨竜は、敵の目前だというのに風と電撃のブレスをゆうゆうとチャージし始めた。


「ニコラスくん、下がっていてちょうだいね~」

「あ、はい……雑魚キャラ引っ込みます……」


 ストームドラゴンの隣にリリィさんが立ち、これも瞬く間に白き竜ホーリードラゴンに変化した。


 ホーリードラゴンは白く輝くブレスを吐き、大剣を横薙ぎに構えて迫り寄っていたゴーレムを霧のような不思議な力で押し返した。


 ストームドラゴンの前足が大地を踏み締め、床の石畳をえぐった。

 ブレスをぶっ放すために大地にしがみついたのだ。


 その刹那、ストームドラゴンは暴風と電撃の力を嵐を口から吐き出し、アイアンゴーレムを赤熱させ、あまりにも激しいその嵐でバラバラの鉄クズに変えていた。


「ふぅ~っ、スッキリしたーっ!」

「もうストームちゃんったら、ニコラスくんの前だからって張り切り過ぎよ~?」


 俺は思ったね。


 ドラゴンたちがもしその気になれば、地上の町という町の全てを消し飛ばすなんて、造作もないんじゃないかとそう思った。


 そのくらいにストームちゃんのブレスは圧倒的なパワーだ。

 本来俺たち人間が倒すことすら困難な巨大アイアンゴーレムを、ストームちゃんは遊び感覚で瞬殺していた……。


「あら、これは何かしら……?」


 ほどなくしてアイアンゴーレムはアイテムに姿を変えた。

 ふんどしではなかった。

 ブーメランパンツでもなかった。


 見たこともない変な四角い箱だった。


「電子レンジ……と読むのかしら~?」

「この迷宮はゴミばっかね……」


 使い道がわからないし、でかくて重くて持って帰るのもかったるいので、拾わずにその場に捨てた。


 ゴゴゴゴ……と、

 目の前で開いてゆく奥の部屋に何か輝く影があって、そちらの方に気を取られたのもある。


 近寄ってみるとそれは金キラの宝箱だった。

 大きさは横50cm近くで、中身の方は確認するまでもなかった。


 金貨や銀貨が絢爛豪華な箱からあふれ出ていた。


「いっせいのーでで開きましょ」

「さんせ~さんせ~♪」

「コスモスちゃん、嘘は吐いていなかったみたいだね。……いっせーのーでっ!」


 宝箱の中は金貨と銀貨の海だった。

 その光り輝く海の中に、ブドウ酒が満たされた金のゴブレットまで入っていた。


 当然気になってストームちゃんはゴブレットを取り、それからそれを掲げて――


「ぷはーっ!」

「いやなぜ飲むしっ!?」

「あーんっ、ずるいわ~っ、ストームちゃんっ!」


 腐敗とか、毒とか、罠とか、そういう常識を吹っ飛ばして飲みやがった……。


「だって美味しそうだったんだもの! ドラゴンはラーメンも好きだけど、お酒も好きなの。ふふ~ん、今日はいい冒険だったわ、ねっ、そう思うでしょニコラスッ!」


「酔うのも早ぇぇな……」


 しかしこの奥はどうなっているのだろう。

 そう気になって終点を見てみると、その先には下り階段があった。


 といってもその階段は途中で途切れていて、そこから下は果てしない奈落が広がっていた。

 壁の方には『工事中』とだけあった。


 ふんどしまみれだったり、宝箱からブーメランパンツが現れたり、迷宮って謎過ぎだ……。


「とにかく財宝は手に入った。後はこの金で、オッサンだかオジサマだかいう大臣の前でジャラジャラやるだけだね」

「うふふふっ……楽しい買収工作になりそうね~♪ そうだわっ、黄金色のお菓子に見立ててお出ししましょうっ♪」


「ニコラスッ、荷物は全部あたしに任せてっ! 重い物は全部あたしが持ってあげるっ! ニコラスは何もしなくていいから楽にしててねっ!」


「え……あ、はい……。はい……?」


 お酒が入ると人が変わる人は世に多いけれど、ストームちゃんの場合は特に極端だった。


「えへへ、なんだかいい気分っ♪ ニコラス、あたしに何か命令してよっ!」

「え、えぇぇ……っ?」


 ストームちゃんから角が取れた。

 素直でやさしくて世話焼きな忠犬キャラに大変身した。


 そしてその変化の分だけ、こっちは激しく当惑せずにはいられなかった。


「酔った勢いで好きがあふれちゃったのね~♪ 本当に、かわいい子……♪」

「あたしのご主人さまでしょ! 早く命令してっ、命令されたい気分なのーっ!」


「えっと……じゃ、うーん……なんか歌ってみて? 帰り道、暇だろうし……」

「ふふふっ、それっ、とってもいい考えね!」


 ストームちゃんにお酒はもう二度と飲ますまい。


 ついついやさしい彼女に甘えてしまいたくなるが、後で正気に戻ったときに発狂するのが目に見えていたので、丁重に扱う他になかった……。


 俺はあの日、ラブラブテスタァを漆黒に染めた激おこプンプンドラゴンの殺意を忘れない……。


 どんなに俺好みの可憐な美少女でも、その中身は巨大アイアンゴーレム瞬殺する怪獣なのだと……。


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