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・「人任せで楽して一攫千金!」 そう考えていた頃が俺にもありました……

「い、いいわ……下りてきて、ニコラス……」

「ふふふ、かわいいわ。本当にっ、かわいくなったわね~、ストーム♪」


 自主的なパンツのパージを終えて少しの間ぼんやりとしていると、お呼ばれがかかったので階段を再び下りていった。


 扉の前にはモジモジと内股になって恥じらうストームちゃんがいる。

 その可憐で愛らしい姿を一目見ると、リリィさんの言葉につい賛成してしまっていた。


 かわいい。最近の彼女は、特にかわいくなったと思う……。

 一方でリリィさんはやけに堂々としていた。


「なぁに~、ニコラスくん?」

「いえなんでもありません」


 脱いだふりをしただけではないかと疑いたくなるほどに、さっきまでとまるで様子に変化がなかった。


「リリィさん、本当に、脱いだんですよね……?」

「ええそうよ~? 中、見ますぅ~?」


「み、みみみっ、見ませんよっっ!? ちょっ、ダメっ、下をまくらないで下さいっっ!!」

「あっ、開いたわ……」


 なんということだ。


 迷宮の門が開いたということは、目の前の女性2人の着衣から、マジで下着がパージされているという証拠に他ならない……。


 はいてない。

 はいてない。

 はいてないと思うと、気持ちがどうしようもなくソワソワとしてきた。


「み、見ないで……」

「あっ、ご、ごめん……っ」

「うふふふふ~……ノーマルカップリングも~、たまには悪くないわね~♪」


 リリィさんはなんでもいける口だった……。

 戸惑い意識し合う俺たちを、祈るように指を組みながらキラキラとした目で見守っていた……。


 リリィさんの妄想の中で、俺たちは何をされているのだろう……。

 知りたいという好奇心よりも、戸惑いや恐怖の方が遙かに勝っていた……。



 ・



 迷宮、それは男の子の憧れだ。


 パラディンとかウィザードとかプリーストとかニンジャとかショーグンとか、自分がいい感じの戦闘職にもしも覚醒したら、凄腕の英雄たちと迷宮で大冒険を繰り広げる。


 この世界の男の子だったら誰だって、そんな妄想を毎日飽きずにするものだ。


「う、うーん……。なんか、なんか超落ち着かない……」

「言わないでよ……っ、考えないように、してるんだから……っ。もーっっ、こっち見るなぁーっっ!」


「いやここ一応迷宮だし……」

「若いわぁ~♪ くふふ~っ、かわいいかわいいっ、2人ともとってもかわいいっっ♪」


 初めての迷宮は赤レンガでできていた。

 それがところどころ崩れ、隙間からは草や根がはみ出していい感じに荒廃している。


 壁の上部には乱れることなく常に一定の光を放つランプが設置されていて、それが辺りを揺らぐことなく静かに照らしていた。


「あっ、そうだわ~、ニコラスくんに~、強化魔法をかけておくわね~」

「えっ、そんなことができるんですか?」


「はいはーい、できますよ~。これが~、力持ちの魔法。そしてこれが~、素早さの魔法。それから最後にこれが~、頑丈さの魔法よ~♪」


 リリィさんの白く綺麗な指に右手を包み込まれた。

 そこから赤い光、青い光、黄色い光が順番に俺へと流れ込み、そのたびに身体が軽くなって弾むような元気が出てきた。


 一歩を踏み出してみると、体重がなくなってしまったかのように歩行までもが楽々になっていた。


「ふふっ、これでニコラスも一緒に戦えるわね」

「俺、別に後ろで応援しているだけでもよかったんだけど……」


「いいから働きなさい。特別にあたしが一緒に戦ってあげると言ってるんじゃない、光栄に思いなさいよ!」


 ストームちゃんが急に元気になった。

 そんな可憐な美少女に手を引かれて進み出すと、そこから先は俺たちの快進撃となっていった。


 最初の部屋を訪れると、そこにはオーガの群れが10数体いたのだけど、なんか……変だった。


「う、うわっ?!」

「大丈夫よ~、さ、行ってらっしゃーい♪」


「ちょ、何しっ、フンギャァーーッッッ?!!」

「いちいち騒がしい人ね……せいっ!」


 ストームちゃんの腰の剣は、火であぶったバターナイフだった。


 まるでバターみたいに軽々とオークのでっぷりボディを真っ二つに切り裂き、武器を持つ敵の手足をポンポンと宙に斬り飛ばした。


 そんな恐ろしいデッドラインに、俺はリリィさんの不思議な力により吹き飛ばされるように突き出されていた。


 リリィさんは俺の背中にそっと触れただけなのに、身体が敵に向かって吹っ飛んでいったんだ!

 当然、迎撃された!


 そう、ヒデブゥな体型をしたオークは軽やかな一本足打法になって、棍棒をフルスイングでニコラスに叩き付けたのだった!


 オークさんの痛恨の一撃!!

 しかしニコラスはなぜかダメージを受けなかった!!

 棍棒はへし折れた!!


「まあっ、思っていたより頑丈ね~っ!」


「ちょっ、思っていたよりってそれどういう意味ですかっ!? どういう結果を期待して俺を吹き飛ばし――危なぁっっ?!」


 オークBさんの巨大な戦斧がニコラスに降り注ぐ!


 ニコラスは白羽取りを発動させた!

 戦斧はニコラスに掴まれるなり、ピタリと静止して微動だにしない!


「ニコラスっ、ちゃんと攻撃しなさいよっ!」

「え、攻撃……? あ、そっか……え、えーい……?」


 ニコラスの攻撃。

 ニコラスはヘナチョコローキックを放った。

 ぺしっ……。


 ビックバン級の足払いはオークBを超高速きり揉み回転させて、残りのオークたちをまとめて薙ぎ払った!


 ニコラスは戦いに勝利した!

 オークたちは光となって姿を変え、なんと13枚のふんどしに姿を変えた!


「えっ、ふんどし!? せめて金目の物に変化しろよっっ?!!」

「よかったじゃない。せっかくだし、はいたら……?」


「元オークのふんどしなんてっ、なんとなく汚らしくてはけるわけないでしょっ!?」

「そうね~……ニコラスくんは~、ふんどしよりも~……うふふふふふふっっ♪」


 何を妄想しているのかわからないが、リリィさんが怖いので俺とストームちゃんは先を急いだ。


「ニコラスパーンチッ!!」

「気が抜けるからそういうの止めてっ!」


「ニコラスドロップキーックッ!!」

「ニコラスッ、あなた、あたしの話聞いてないでしょっ!」


「そう言われても俺、戦闘スキルなんて最初からないし……」


 慣れてくると楽しかった。

 自分よりでかい怪物がパンチ一発で吹き飛び、羽根のように軽い身体が虫タイプの瞬発力すら凌駕する。


 今の俺は本の中のスーパーヒーローだ。


「ラーメン屋ならラーメン屋らしくしなさいよっ!」

「ラーメン屋らしさ……?」


「経験を戦いに活かすのよっ!」

「となると、こんな感じ? ニコラースッ、製麺チョーップッッ!! こうかな?」


 オークタイプのグレートモールを避けずに頭で受け止めて、それから包丁で麺を斬るような動きでマッハチョップで反撃した。


 ババババッッとやると、敵は光となって滅びた。

 ドロップは鯉の柄に彩られた高級そうなふんどしだった。


「攻撃前に、叫ぶのを止めてもらえばいいんじゃないかしら~……?」

「いやだって、こんなのノリでごまかすしかないじゃん……。今だって少し激しく動くと――あっ、あうっ?!」


 パンツ、それは男にとってもはや皮膚も同然と言ってもいい。


 重力、慣性、遠心力。

 ありとあらゆる物理学的な力が『ベチンッ、ベチンッ!』と男を苦しめる。


 鍛えられないのだ。

 その部位だけは、どんなに極めた武人だろうとも男であり続ける限り、鍛えられないのだ……。


「う、うぅ……まだ終わらないのかしら、この迷宮……」


 戦闘中のストームちゃんは華麗で鮮やかだ。

 剣と共に舞い踊る姿が女神か妖精のように様になっていた。


 けれども戦いが終わると、俺たちは内股になってモジモジとせずにはいられなかった。


「わたくし、永遠にこの時間が続いてほしいわ……。あ、ニコラスきゅんっ、鯉のふんどし、早速はきましょうか~♪」


「いや、はくわけがないでしょ……。生地は上等だから、持って帰ったら金にはなりそうだけど……なんか、気分的に、触りたくない……」


「な、なんで、ホーリーは下着なしで平気なのよ……っ」

「あら~、わたくしのこと~? 祭司用の衣装は下着を着ないの。だから~、慣れちゃった~♪」


 リリィさんは鯉柄のふんどしをむんずと掴み、荷物袋に詰めていった。


 それ、持って帰って何に使うの……?

 そう問いかける勇気は俺たちにはなかった……。


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