・ドラゴンで簡単ごり押し迷宮攻略! - 笑える入場制限 -
ドラゴンとドラゴンにお手玉にされるスペシャルデンジャラスコースのフライトプランを終えると、俺は大山岳地帯の遙か彼方、人跡未踏の大秘境に着陸することになった。
「大丈夫~、ニコラスくん? 気持ち悪いならお姉さんが~、背中を撫で撫でしてあげましょうか~?」
「いえ、とても嬉しいですけど、そこはあえて遠慮しておきます……。わー、気持ちだけでも嬉しいなぁ……うっぷっ」
「ごめんなさい、あたし、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったわ……」
「いいよ、もう着いたし……。でもさ、一言だけ言っておくね……。地上に落ちたら人間ってっ、トマトみたいに潰れて簡単に死んじゃうからもっと大事にしてあげようねっっ!?」
そう意思表示だけして俺は屋根のない石の遺跡を上り、その先に地下へと通じる下り階段を見つけた。
階段の先には門がある。
学校の教科書が正しければ、それが迷宮の入り口だ。
軽やかに美しい銀髪をなびかせてストームちゃんが階段を駆け下りる。
そこにリリィさんまでもが加わって、2人ははしゃぐようにルートを交差させながら、光るプレートの前に下りていった。
そう、迷宮の入り口には【ホワイトボード】と呼ばれる不思議な壁がある。
迷宮はそのホワイトボードに入場条件というものを提示して、そのルールを守った挑戦者にだけ門を開く。
「えっ、えっえっ、ええええーっ?! ちょっとっ、なんなのよぉっ、これぇ……っ!?」
「あらやだ、ふしだらな迷宮さんですね~♪」
少し遅れて俺も2人の後ろに立った。
暗がりだって夜だって安心のいつでも読める壁、ホワイトボードには、淡々とこう記されていた。
――――――今季の入場制限――――――
・入場数4名まで
・男と女の編成
・下着の着用禁止
・ただし、迷宮内でドロップした物は可とする
―――――――――――――――――――
「……はい?」
ちょっと待て。
下着?
下着の、着用、禁止……?
ただし迷宮でドロップした物ならOKって……。
まさかこの迷宮、下着がドロップしたりするってことか……?
「まあまあまあまあっ、どうしましょぉ~♪」
「なんでリリィはそんなにノリノリなのよっ!?」
「だぁ~ってぇ~♪ うふふふふ、だって楽しそうじゃなーい?」
「楽しめるわけないでしょっっ! こんなの女同士ならまだしも……ニ、ニコラスと……っ、一緒、なのよ……?」
ストームちゃんは顔を両手でおおってしゃがみ込んでしまった。
俺の方も階段に腰を下ろして、少しの間だけ気持ちを落ち着かせることにした。
あまりにも衝撃的な入場制限だった……。
「また騙された……。コスモスちゃんを信じたのが間違いだったよ……」
「そうね、そうよね……。もうカオスのやつっ、あたしたちを困らせたくて、わざとここを選んだに決まってるわっ!」
「それは~、どうかしらね~。だけどここまできてしまったのだから進んでみない?」
動揺する俺たちとは正反対にリリィさんは落ち着き払っていた。
ここで引き返すなんて選択肢は始めから俺たちにはない。
背に腹は変えられないからだ。
「ラーメン屋さん……あたし、お休みにするなんて嫌よ……」
「先日のあの騒ぎだしね。お偉いさんのお墨付きがなければ、次の営業は難しいだろうね……」
この迷宮の奥にあるかもしれない財宝が必要だ。
ラーメン屋の営業をこれからも続けてゆくためにも、ジャラジャラと鳴らすための金貨が必要だ。
「あの子を信じてあげて。コスモスはとても困った子だけど、こういう時に人を騙したりなんてしないわ」
俺たちが恨み言を言う中、リリィさんは変わらずにコスモスちゃんを信じていた。
コスモスちゃんは困った人だけど、ああ見えて仲間思いだ。
そう言いたいんだろう。
「でもそうだとしてもっ、こんな迷宮を選ばなくてもいいじゃないっっ! アイツッ、後できつく一言言ってやるんだからっ、絶対!!」
「はーい、そういうことで~。脱ぎ脱ぎしましょっか~、ニコラスくん♪」
「フッギャーーーッッ?!!」
だがしかし、そんなリリィさんを信じた俺がバカだった。
人のズボンを狙って、元シスターの白い両手がぬらりとこちらに伸びてきた。
俺は本能的な恐怖に震え上がり、子鹿ちゃんのように跳ね上がって階段を駆け上り逃げた。
リリィさんは後を追ってこなかった。
どうやら冗談だったみたいだ……。
それにしてもコスモスちゃんめ、覚えてろ!
いつか君のラーメンに、一番搾りの雑巾汁をたらしてお出してやるからな……っ!