・営業二日目 - よし、逮捕だ -
「ニコラスッッ!!」
「は、はいっ、なんでしょうかお客様?!」
「こっちは昨日の昼から並んでいたんだぞ、早く作らないと逮捕するぞっ!!」
「作りますっ、作りますから逮捕は勘弁して下さい、お巡りさん!!」
おかしいなぁ、おかしいなぁ……。
ドラゴンを4体もテイムしたはずなのに、国家権力の犬には勝てなかったよ……。
ちょうどゆで上がったラーメンをスープにからめて、ストームちゃんが鶏チャーシューを2倍盛りつけると、お巡りさんの前にラーメンが配膳された。
「ふんっ、まったくけしらん!! ニコラス、お前という男はつくづくけしからん!!」
「すみません、お代は結構ですのでどうかご勘弁を……」
「ズズズッ……これは、美味いっ!! だが貴様、本官を買収するつもりかっ?!」
「いえそういうつもりではなくて……っ」
と言いつつも、お巡りさんはそれはもう美味しそうに、幸せそうにラーメンをすすっていた。
大切に大切に鶏チャーシューを少しずつつまみながら、それをスープで喉の奥に流し込んで、ゆっくりとじっくりと人迷惑に箸を進めていった。
やがて俺たちが整理券番号15番目のお客様にラーメンを提供した頃、やっとお巡りさんはスープまで完食し、カウンター席から立ち上がった。
「よし、逮捕だ」
「だからなんで全部食べてから言うんですかーっっ?!」
「けしからん! 本当にけしからんやつだ、お前は! 見ろ、この列をなす中毒者たちを! 本官の予言通りになったではないかっ!!」
「いや、ただ美味かったから並んでくれただけじゃ……」
「なぁにぃぃっ?! 本官を昨日の昼から並ぶほどのラーメン中毒に変えておいて、よくもぬけぬけとっ!!」
「俺のラーメンのファンなのか法の執行者なのかハッキリして下さいよっっ?!」
「両方だっ!!」
お巡りさんは暴力的にカウンターを叩き、せっかく盛り上がっていた雰囲気を静寂で染めた。
法律を破っている俺たちの方が悪い。
それはそう。
それでも俺はラーメンの美味さを伝えたい。
「まあまあ、今日のところはわたくしに免じてお目こぼし願えませんか~?」
「シスター、お前もニコラスの仲間か? むっ……」
今、金色の何かが一瞬だけ見えて、リリィさんの手から憲兵さんのポケットの中へと消えていったような……。
「ニコラスくんは~、実はわたくしのご主人様なのです……」
「えとえと、おかわりどうですかー? こっちの、貝出汁ラーメンも美味しいんですよ~?」
「むっ、ぜひ貰おう」
気を利かせたマリーが新しいラーメンを配膳すると、憲兵さんカウンターにまたどっかり腰掛けて、今度は凄まじい勢いですすりだした。
完食はあっという間だった。
「ふぅ……貴様のラーメンはやはり最高だな。では、またくる」
見逃してもらえたらしい。
憲兵さんは2杯分のお代と賄賂の金貨をカウンターに置くと、ご機嫌のスキップで店を立ち去っていた。
「はぁぁ……っ、もうこないでほしい……」
「あれはまたくる顔なのですよ……」
「大変でしたね~……。お墨付きを貰えるよう、わたくしがんばりますね~……」
ぐったりとした俺をストームちゃんが控えめに肩を叩いて慰めてくれた。
まあそんなわけで、かくして今夜の営業も品切れによる大成功で幕を閉じた。
明日はこれないし、次は場所を変えるとお客さんたちに断って、俺たちは眠気と共に帰路についたのだった。
「お巡りさんが現れたときはどうしようかと思ったけど、今夜も楽しかったわ! それに女将さんって、なかなか悪くない響きね……」
「そうか? なんかおばちゃん臭い感じしない?」
「もうっ、わかってないわね! 女の子にとって女将さんは憧れなのよっ!」
「そうね~。男の人の~、酒場のおやじさんみたいなものかしらね~♪ んふふふ……今夜が楽しみだわ……」
「お兄ちゃん……むにゅむにゅ……。キャベツは……鼻に入れちゃ、ダメなのですよ……むにゅ……」
昨日は夜通しでホモ本を読まされて、今夜は前回に増して眠い……。
だが眠れば何をされるかわからない。
わからないのだけど……。
「安心して下さい、ニコラスくん。今夜は何もしませんから無理をしないで眠って下さいね?」
愚かな俺はそれを信じた。
帰宅するとマリーと一緒にテントで横になって目を閉じた。
「ふ、ふふふ、うふふふふふ……」
「ちょっとホーリー……ううん、リリィ。ニコラスに変なことしたらあたしが許さないから」
「あら、それは残念……。ところでストーム、貴女もそろそろ人間の名前を持ったらどうかしら? あっ、そうだわ、ニコラスくんに付けてもらうのはどうかしら?」
そこから先の言葉は記憶にない。
目覚めたときには左右をリリィさんとマリーに囲まれていて、顔面がなぜかベタベタしていた……。
理由についてはもちろん、考えることを積極的に放棄することにした……。