・竜たちの成果報告 - ヤマオカファミリー -
「お疲れさま、マリー。これを使ったラーメンを作るのが今からもう楽しみだよ」
「はいですっ! 楽しみですねっ、楽しみですねーっ!」
「じゃ、最後にあたしからの報告ね。少し込み入っているから長くなるけど、ちゃんと聞くのよ?」
「なんで俺を見て言うんだよ……。一応少し前まで俺、学校じゃ優等生だったんだけど……?」
「何よ、ふふふっ。嘘を吐くならもっと上手に吐きなさいよ」
本当なのに一蹴された。
悔しかったので俺は背を伸ばして顔をキリッとさせて、彼女の報告の一部始終が終わるまで無言で耳を傾けた。
彼女の話を要約するとこんな感じだ。
このアイギュストスの町には、俺たちと同じ闇ラーメン屋であるセカンドソンと呼ばれる店がある。
通称は次男。
ここ一帯を束ねるマフィアであるヤマオカ・ファミリーのフロント企業だそうだ。
彼らはこの都市の大臣オジサン・ムーディと繋がっており、上納金とラーメンを納めることで、闇営業を目こぼししてもらっている。
「ならそのオジサンを買収すれば解決でしょ」
「そですね、マリーもそう思うですよー。大切なのはー、美味しいラーメンをいっぱい作ることなのですよ~」
一通り聞くと、俺たちの間で意見が割れることになった。
「だけどそれって収賄でしょう……。あたしは、なんだかいい気分がしないわ……」
「そうね~、少し乱暴な気もするかしら~?」
「なら代案は? 他にないなら袖の下でどうにかするしかないと思うけど」
反論者である俺自身も一緒になって代案を考えた。
しかし現実的なプランは他に浮かばない。
金貨や銀貨の音をジャラジャラと鳴らして、相手を抱き込むのが現実的だと思う。
「人間の町って楽しいけど、こういうところは凄く息苦しくてイヤになっちゃうわ……」
「ご禁制の物を流通させようっていうんだから、そこはしょうがないんじゃないか?」
「そもそもそこよっ! なんでラーメンが禁止なのよっ、わけがわからないわっ!」
「だからこそだよ。その矛盾を解決させるために、まずはオジサン大臣への橋頭堡を作るべきじゃない?」
ストームちゃんは高潔だ。
ただの井戸水を一気飲みして、『わかるけどわからない!』って顔でプリプリ怒っていた。
リリィさんの方はそんなストームちゃんの姿を見て、仕方なさそうにため息を吐いた。
「わかったわ。なら対外折衝役はわたくしに任せてくれるかしら? こう見えて、根回しは得意なの~♪」
「えーーっ、マリーはいらないですかーっ!?」
「あなたは十分がんばってるでしょ。なんでもかんでもマリーがやったら、あたしたちの出番がないじゃない」
そうだ。
それにマリーに汚れ仕事はさせられない。
俺とストームちゃん、それにコスモスちゃんにとってマリーは共通の妹みたいなものだ。
もし悪い子に育ったら俺たちはとても悲しい……。
「じゃ、ストームちゃんはこれから今夜の仕込みを手伝ってくれる?」
「あら……、遠征から帰ってきたばかりなのに今夜も営業する気?」
さっきまで不満そうに怒っていたのに、ストームちゃんに仕込みの手伝いをお願いすると、その表情が華やかな笑顔に変わった。
不正はしたくないけれどラーメン屋は続けたい。
その気持ちが笑顔を見るだけでわかった。
「何かとお金が入り用でしょ。今の狭いテント生活から早く脱却したいし……」
「まぁ……!? もしかして皆さんは、あの小さなテントで一緒に眠っているのですか~っ!?」
そうか、今夜はこの人と一緒か……。
その怖ろしい現実に気付くと、俺の目元には無意識の涙が浮かんできた。
「あ、新しいテント……今から買いに行かない……?」
その提案は賛成1反対3で却下された。
貞淑な女性を演じながら鼻息を荒くするリリィさんの姿には、不安と恐怖しか俺には感じられなかった……。