・聖竜、あるいは聖腐竜 - めっ♪ -
ところが、これからどうやってこの女性とお付き合いしていこうかと1人悩んでいると、なんでか知らないけど出て行ったばかりのコスモスちゃんが飛び戻ってきた。
彼女は俺の顔を見ると明るく華やかに笑い、ためらいのない元気な声でこう言った。
「金だ金っ、金を少し貸すがよいぞ、我が主よ! 2倍に……いや3倍して返すっ、はよ金を出せっ!」
「ちょ、ちょっと待って……賭場に、行ったんだよね……? 戻ってくるの異常に早くね!?」
「うむ、全部すった」
「はいっ!? いやどんな賭け方したらものの一瞬ですれるんだよっ!?」
「5番人気の馬が今日は勝ちにいくと言っておったのだ! それがあやつめ、ハナ差で負けおって! これでは全財産賭けてやった我がバカではないか!」
「バカは君だってのっっ!!」
馬を見る目はあるみたいだけど、お金の賭け方があまりにも破滅的過ぎる……。
これからこの究極のダメドラゴンの紹介をしなければならないと思うだけで、もう頭が痛くてたまらなかった……。
「それはそうとホーリードラゴンを無事使役したようだな。よくやったな、我が主よ」
「あら……?」
「む? 数百年ぶりで我のことを忘れたか? ホーリードラゴンよ、我だ」
「昼間、大聖堂を吹っ飛ばしたバカドラゴンがいたでしょ……。これ、この子……コスモスちゃん……」
「まあっ、コスモスなの!? まあまあ貴女のそういうやんちゃなところ~、変わりませんね~♪ めっ♪ ですよ~?」
「わはは、怒られてしまったわ。……む、どうしたー、ニコラスー?」
大聖堂吹っ飛ばした張本人は、めっ1つで許された。
カオスドラゴンとホーリードラゴンとの間に軋轢があると、勝手に想像していた俺がバカみたいだった……。
「いや別に……。君らがそれでいいなら、いいんじゃない……」
「それよりも我が主よ、ん……っ」
いかにも皆まで言うなという態度で、コスモスちゃんは右手をこちらに差し出してきた。
いや、いきなり手を突き出されてもわからんし、わかりたくもない……。
「コスモスちゃん、バクチはもう止めようよ……」
「金はホーリーの金を使えばよかろう。ん……っ」
「ん……っ、じゃねーよっ!」
「いいから財布を置いて先に帰っていろ。我は一稼ぎしてから帰る。なーに、有り金尽きたら滅して取り返せばいいのだ! ヤクザどもに人権などないのだからな!」
「ではお金はわたくしが。これで二人っきりで帰れますね、ニコラスくん……♪」
「話がわかるではないか! ではさらばだニコラス、がっぽり稼いで帰るからそのつもりでおるがよいぞ!」
甘々なリリィさんが大きすぎるおこづかいを与えると、コスモスちゃんは元気いっぱいに夜の町へと消えていった。
また無謀な賭け方をして、全財産をする姿が目に浮かぶようだった……。
「それではニコラスくん、わたくしと一緒にご本を読みながら、好みの男性について朝まで語り明かしましょう♪」
「何が悲しくてリリィさんみたいな美人を相手に、ホモ本を朝まで読み明かさなきゃいけないんですか……」
「はいはーい、この中で好みの男性はいますか~?」
「いません……」
その日は酷い夜になった。
それはきっと、この門前町のヤクザたちにとっても、俺にとっても同じだ。
あんまりにもしつこいので、妥協して挿し絵の中のショタキャラを指さしたときのリリィさんの驚喜然としたニヤケ顔が忘れられない……。
『まあ、やっぱりそうなのね!』
と、とんでもない勘違いをされてしまった……。
・
リリィさんは大聖堂の人々に惜しまれながら去った。
残りたいなら残ればいいと俺が提案すると、彼女は少し悲しそうにそれを断った。
彼女はどちらにしろあと数年でこの大聖堂を去るつもりで、ちょうどいい契機だったと答えた。
各地の聖堂で10年ばかしを過ごすと、寿命も老いもない彼女は友人関係を全て捨てて、遙か遠方の聖地に移る。
そんな生活を今日までずっと続けてきたそうだ。
「各地を巡る不老不死のシスター。そこだけ聞くと神秘的で悲しげなんだけどさ……」
「ハァハァ……しょ、少年……美少年が今、わたくしの背中に……ウフフフフフッッ♪」
その白く美しい巨体は、白馬のように輝いていて神秘的だった。
だが現実は常に残念である。
ホーリードラゴンはニコラス青年を背中に乗せて空高く飛び立つと、人様にはとてもお見せできない不気味な笑い声を上げていた。
これのどのへんがホーリーなのだろう……。
「リリィさん……」
「なぁに、ニコラスくんっ♪」
「すげぇいたたまれない気分になるから、そういうこと言うの止めてもらえたりします……?」
「だってだってわたくしっ、美少年を背中に乗せて飛ぶのが夢だったんですもの~っ、ウフフフッ♪」
あっ、これが貞操観念逆転世界……?
ドラゴンの姿をしたエッチなお姉さんは、背中越しに好みの青年の肉体を堪能し、喜びに震えてしきりに翼を羽ばたかせた。
「うっ……」
「これからはず~~っと、お姉ちゃんと一緒ですよ~、うふふふっ♪」
ホーリードラゴンの正体は、あまりのねちっこさに全身に鳥肌が立つほどの、ドセクハラドラゴンだった……。