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・滅竜と一緒♪ - 大聖堂の聖腐竜 -

「思い出せ、マリーのときを」

「急になんのこと?」


「鈍いやつだな。レーダァが示した座標にあの女がいただろう」

「うん、いたけど? あのお姉さん、綺麗だけどなんかヤバかったなぁ……」


「あのシスターは恐らく、ホーリードラゴンだ。どうやら人間に化けているようだ」

「マジで? ああ、マリーと同じなのか。ドラゴンって、なんでもありなんだな……」


 マリーのことがなかったら信じることはなかった。

 人間に化けて、人間と共に生きるドラゴンもいる。

 ホーリードラゴンもそうらしい。


「そうなるとさっきの頬擦りは……ま、まさか、しょ、食欲をかき立てられて息が荒くなってたの……?」

「クククッ、ドラゴンテイマーであり最高のご馳走であるそなたに、強く惹かれているであろうな。ふむ……」


 コスモスちゃんが悪い顔をした。

 俺の言葉が彼女に何かを思い付かせてしまったようだった。


「ククク、これは面白くなってきたぞ……」


「待って、ここから先は平和的に行こうね? 言っとくけどこれ以上やらかしたらマジでラーメン屋をストライキするからなっ!?」


「我は何もせぬよ。ニコラスよ、あの女にラーメンを作ってやれ」


「いや、でもあの人はシスターさんでもあるんでしょ? 本当にラーメンなんかに飛びつくのかな? 通報されたりしない?」


「大丈夫だ。ヤツは昔から清純派を気取っておったが……うむ、続きはお楽しみだ」


 どうも2人は知り合いらしい。


 だったら普通に接触して説得すればよかったのに、コスモスちゃんが大聖堂を吹っ飛ばしたせいで、(からめ)め手が必要になった。


「なんだ、その目は……?」

「別に。だけど見落としがあるよ、どうやってご禁制のラーメンをあの大聖堂に運び込むの?」


「む……それは、む、むむむ……言われてみれば、難しい問題だな……」

「なら諦めて正面から頭を下げて――」


「やむを得ぬな、ここは罠を仕掛けよう」


 コスモスちゃんは真顔だった。

 本気でやさしいあのお姉さんを罠にハメるつもりらしかった。


 俺は今、確実に悪の側にいるんだと実感を覚えた……。


「いや素直に正体を明かしてさ、ドラゴンのためだって説得すればいいじゃない……」

「却下だ! 万事この我に任せよ!」


「だから、君に任せることに不安しかないから罠とか止めようって、そう提案してるんだけど……?」

「まあ任せておけ」


 コスモスちゃんが自信いっぱいに笑っている。

 本人は奇策を思い付いたつもりなんだろうけど、俺には不安しかなかった。


 コスモスちゃんには正直な心とか、ボーダーラインというものが存在しない。


「わかった、少しだけ、少しだけ譲歩するよ。まずは具体的に、どうするのかを教えて……」

「信用がないな」


「そりゃそうだよ……。出会ったその日に監獄ごと町吹っ飛ばしておいてっ、信用なんて残ってるわけないでしょ……」

「ククク……あれはなかなか楽しかった」


「俺は全然楽しくなかったよっ?!」

「ふん、男のくせにタケノコの小さいやつめ」


「その綺麗な顔でそういう……下品っぽいことを言わないでよ……。はぁぁ……っ、つまりコスモスちゃんは、これからどうするつもりなの……?」


「うむ、特別にこの我が解説してやろう」


 嫌な予感というか、最悪の作戦を立案する確信しかなかった。


 それでも俺は前に進むために気持ちを落ち着かせて、途端に悪人顔になったコスモスちゃんから、作戦の一部始終を聞いた。



 ・



 正気を疑うような作戦だった……。

 シスターを釣る餌はなんと、エロ小説だった……。


 いやただのエロ小説ではなくて、こう……

 男と男が目を潤ませて見つめ合い抱き合う挿し絵の付く、一部界隈のお姉さま方に大人気の超濃ゆいやつだった……。


「ニコラスよ、これはな。俺様系サラリーマンが陰キャの部下にあの手この手四十八手で服従させられるヒューマンドラマだ。ノンケの先輩が少しずつ目覚めてゆく様が何度読み返してもたまらぬわ」


「おい、ヒューマンドラマって付ければなんでも通ると思ってたら、それ大きな勘違いだぞ……」


 というかその小説どこから出したの?

 常に持ち歩いているの?


 コスモスちゃんって都合よくもどこからともなく物を出してくれるけど、いったいどこから出てくるのこれ!?


「安心せい、パッケージは過激だが、中はただの文学だ」


「嘘だ……。というか待って、本当にこれであの綺麗なお姉さんを釣るつもりなのか? 物で釣るって作戦はわかったけど、これ餌の方が大いなるミスチョイスじゃないの……?」


「目に見えるものばかりが真実とは限らぬ。それよりも我が主はラーメンの準備をしろ。ホーリードラゴンは必ずこれで釣れる。あの女はお腐れ様向けの耽美本に目がないからなぁ、クククッ……」


「いや、でも、嘘だろ、そんなのあり得ない……」

「貴様は女に幻想を持ち過ぎだ」


「持っていたいんだよっ!」


 餌で釣っておびき寄せ、ラーメンを食べさせて籠絡する。

 シンプルだが悪くない。


 だが問題は、餌が最初から腐っているという深刻な一点だった……。


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