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・滅竜と一緒♪ - 君が始めたドンパチだろがっっ?!! -

 と、そこまではよかった。新しいドラゴンはいったいどんなやつなんだろうかとか、どんな人間の姿に変身するんだろうかとか、色々とワクワク感があった。


 潮の満ち引きで生まれるアイギュストスの白い道を、商人の荷馬車に乗せてもらって水面を眺めて進むのも悪くなかった。


 でも問題はそこから先だ……。


「ねぇ、コスモスちゃん……なんか今、弓矢とか飛んでこなかった……?」

「うむ、たまにある」


「ああ、たまにあるんだ……」

「この腐れた姿だからな、矢くらい飛んでこよう」


「……じゃあ、もう少し高度を上げない?」

「疲れるから嫌だ」


 ヒュンッと、射程の長いロングボウかアーバーレストか何かが俺の頭上をかすめた。


「コスモスちゃん……? あの、正面に何やら街が見えるんだけど……ねぇ、迂回は?」

「せん」


「しろよっ!?」


「愚かな。なぜカオスドラゴンである我が人間ごときを恐れねればならぬ。いっそ反抗的なあの町を、我の闇のブレスが灰燼に帰す姿を主に見せてくれよう……」


「すんなって言ってんだろっ!? 止めろよっ、絶対止めろよっ、これフリじゃねーからなっ!? 滅ぼしたらコスモスちゃんには二度とラーメンを作らないからなっ!!」


「そ、それは、困る……。ぅぅ……全く最近の若者は、ドラゴンの伝統をなんだと思っておる……」


 あの町の人間も、まさか自分たちがラーメンに救われただなんて予想すらしていないだろう。

 かつて世界を滅ぼしたカオスドラゴンが自分の町に迫ってくるなんて悪夢だ。


 コスモスちゃんがルートを変えると、俺は身を屈めながらドラゴンレーダァを確認した。


「ねぇコスモスちゃん、もう少しだけ高く飛ばない……?」

「なぜだ?」


「なぜもクソもあるかよっ、これって世界を滅ぼしたカオスドラゴンの復活を喧伝してるようなもんだろっ!?」

「言われてみればそうであるな。地上ではさぞ愉快な混乱が起きているであろう、いや愉快愉快」


 もう家に帰りたい……。


 コスモスちゃんは地上に巨大ドラゴンゾンビの飛来というクソ迷惑をまき散らしながら、のん気な鈍足でまったりと空を翔けていった……。



 ・



 竜の翼は曇りの領域を抜け出して、暖かな朝日が照らす晴れの領域へと入り込んだ。

 かれこれ出発してより2時間近くは飛んだはずだ。


「あ、近いな……。この先の……ん、なんか白くてでかい建物が見えない?」

「うむ、あれは人間どもの傲慢と勘違いと腐敗の象徴だ」


 右手を風除けにしながら、俺は彼方にあるよくわからない白い塊を眺めた。


 コスモスちゃんのへそ曲がりな比喩表現をヒントに、それがなんであるかしばらく考え込むと、ある結論に至って血の気が引いた。


「ま、まさか……。まさかあれ、大……聖……堂……?」

「さよう。大聖堂とかいう思い上がりと傲慢の結晶よ」


「ちょ……っ?! ちょい待ちっ、ちょっと待ったコスモスちゃんっ!?」

「うむ?」


「止まってっ、止まりなよっ、ここからは着陸して人間の姿でドラゴンを探そうよっ?!」

「……面倒だ。いっそあんなもの、全て吹き飛ばしてくれようか」


「止めろ止めろ止めろ止めろっ、俺が同罪にされるから止めろつってんだよぉぉーっっ?!」


 前略、マリー。

 仕入れルートの開拓は上手くいっていますか?


 君のことなので心配は何もしていませんが、一方でニコラスお兄ちゃんと世界は今ちょっとしたピンチです。

 このままではドラゴンと人間の戦いが勃発するかもしれません。


 とかやっているうちに聖堂はもう目前、なう。

 世界の危機も迫っていた。


「我が主よ、あれを滅したら今夜のラーメンは抜きか……?」

「なんで大聖堂1つと今夜のラーメンが天秤で釣り合うのか理解できねーよっ!? ヒェッ?!」


 大聖堂の目の前で滞空する巨大ドラゴンゾンビとコントをやっていると、矢とか神聖魔法の嵐が飛んできて俺は身をかがめた。


 ちなみに最強の権化コスモスちゃんには当然のごとくノーダメだった。


「我のニコラスを狙うとは不届きなやつよ……」

「コスモスちゃんの巻き添え食らっただけだってのっ!!」


「だとしても許せん……」

「昨晩俺をマフィアの前に突き出しておいてよく言うよな、おいっ!?」


「よし、決めた。やはり滅ぼそう♪」

「止め――」


「虚飾の肥溜めで太ったウジ虫どもよ、滅っせよ……」


 カオスドラゴンの3つの首から、あの全てを破壊する闇のブレスが放たれた。


 一つは絢爛豪華な黄金の鐘楼台。

 一つは大理石で作られた美しい大噴水。


 最後の一つは二階部分の屋根だけを狙ったかのように吹き飛ばしていた。


「や……止めろ言ったよな、俺っっ?!! な、なんて、なんてことをしてくれたんだよぉっ!?」

「はぁっ、スッキリだ……♪ これでかつての鬱憤も少しは晴れるというものよ」


 地上の人々はほうけていた。

 恐怖していた。

 怒り狂っていた。


 怒濤の勢いとなって矢と魔法がコスモスちゃんにぶち込まれ、だというのにカオスドラゴンはケロリとしていた。


「俺の言うことを少しは聞けよっ! もう一生ラーメン作ってやんねーぞっ!!」

「それは困る……」


「ヒェッ、とにかく撤退だ、撤退! このままじゃ俺が死ぬ!」

「それも困る……。やれやれ、軟弱な我が主だ」


 聖堂を半壊させた下手人は天高く舞い上がり、後方の森に着陸すると人間の姿に戻った。


「疲れた~っ、もう歩きたくない~っ!」

「君が始めたドンパチだろがっっ?!!」


 追跡者がやってくる前に、賢者モードに入ったコスモスちゃんを引っ張って森を出た。


 コスモスちゃんは何もしないのが仕事。

 マリーたちが言うあの言葉は、カオスドラゴンが何もしないでいてくれたら世界にとってめっけもの。


 そういう意味も含まれていたのかもしれない……。

 まさにコスモスちゃんは混沌そのもの、カオスドラゴンだった……。


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