・ラーメン滅竜亭始めました - 誰に断ってラーメン提供してんだテメェ! -
ラーメン。
それは常に酔っぱらいと共にある。
酔っぱらいといえばラーメン。
ラーメンといえば酔っぱらい。
酔客たちが言うには酒を飲んでいい感じに気持ちよくなってくると、無性にラーメンが食べたくなるそうだ。
「提供しておいてなんだけど、それ身体に悪くない……?」
「バカ野郎! 酒もラーメンも適量なら薬りゃ!」
「いやお客さん、んな呂律の回らない口で言われても……」
まあそんなわけで、夜が更けるにつれてうちの店は酔っぱらいだらけになっていた。
今も店の前にはお水系のお姉さんやおじさん。
財布にいくばくかの余裕のある方々が地べたに座り込んで、アットホームに盛り上がりながらうちのラーメンをすすっていた。
開店初日だというのに、客足は想定を大きく越える絶好調だ。
「お待たせしてごめんなさい、そこのお姉さん、ご注文の鶏ガララーメンよ……っ」
「待ちかねたわぁ~っ! ……ああ、なんて温かないい匂い……あら? あら大変っ、これ美味しいじゃないっ! あのボッタクリのラーメン屋なんかて目じゃないわ~っ!」
「だよなぁーっ、変に安いから最初はどうかと思ったけどっ、断然そうだよなぁー!?」
酔っぱらいたちが箸やフォークを掲げて、大げさに感動するお姉さんに賛同していた。
だけどラーメンはお値段は適正のはずだ。
なぜならばラーメンの価格は、店主の俺ではなくマリーが原価から逆算してくれたからだ。
俺はマリーにこうしますと言われて、
『はい』と答えただけだ。
お前、店主としてそれはどうなんだと仮にツッコミを入れられたら、俺はあえてこう答えよう。
原価とか適正価格とか、そんなの俺みたいなただの元学生にわかるわけないじゃん!!
「えとえと、ですねー? じゅうぶん、マリーたちは、ぼったくってるのですよー?」
「うむ、我がそうさせた。我らが面白おかしく暮らせるように気持ち高めにせよ、とな」
「あのさ、コスモスちゃん……」
「なんだ、我が主よ?」
「そういうことお客さんの前で言わないでよっっ?!」
「おおすまぬ、口が滑った」
「何が口が滑ったよ……。カオス、あなたはなんにも考えていないだけでしょ……」
「うむっ、自分では何も生み出さずに享受と消費だけをして暮らしたい」
コスモスちゃんは貴重な席を1つ占領したまま、いったいいつの間にそういう関係になったのやら、向かいのお水系のお姉さんとワインをボトルで飲み交わしていた。
「ニコラス、手が止まってるわ。もうちょっとだからがんばって」
「あ、ごめん……。ところでもうちょっとってなんのこと?」
「もうちょっとで品切れよ」
「えっ、もうそんなに売ったっけ……」
そう俺が問い返すと、ストームちゃんが喜びに緩んだ笑顔になって、屋台の鍵付きの引き出しを引いた。
そこにあったのは銀貨銀貨銀貨の海だ。
原価からすれば気持ちぼったくりのラーメンが、銀貨の山に変わって俺の口元まで緩めていった。
ラーメン屋って、意外に儲かるんだな……。
「あ、話戻すけどお客さん、そのぼったくりのラーメン屋っていくらくらいで売ってるの?」
「そうねぇ……メニューにもよるけど、お水系のその日の稼ぎが1杯で全て吹っ飛ぶくらいかしら?」
「えーーーーっっ!? そんなの、いけないのですよーーっっ!」
いけないというより、よくまあそこまで金を出してラーメンを食べようと思うもんだな……。
美味いのは認めるけど、1杯が1日分の稼ぎだなんてぼり過ぎにもほどがある。
「それでもどうしてもっ、食べたい時があるのよ~……。だからその時は差し出すのよ、その日の稼ぎを……。フ、フフフ……」
ラーメンは、麻薬……?
お水系のお姉さんは人生に倦み果てたような重い言葉尻と遠い目で、自分がラーメン中毒者であることを貝出汁よりもしみじみと語った。
「酒場のねーちゃんとのラーメンデートは鉄板だぜ。今度はお気にを連れてくんからまたよろしくな、若旦那」
「本当? その言葉は素直に嬉しい」
「俺、決めたっ、決めたぜ! 今日からは俺、この兄ちゃんのラーメンしか食べねぇっ!」
「そうねぇ~。これを食べちゃったらぁ~、あたしもアッチはもうないと思うの~」
「うむ、酒を持参すれば我がいつでも飲みに付き合ってやろう」
「やだ嬉しい~。こんなに綺麗なホステスさんにお酌されたかったの~!」
と言いながらお水系のお姉さんとコスモスちゃんは、お酌の概念のないアウトローなラッパ飲みでまたワインボトルを交互に口に付けていった。
もし神が地上に遣わした究極のダメ人間がいたとしたら、それはコスモスちゃんだ。
コスモスちゃんとの生活は、毎日がどん引きとダメ人間記録の更新日だった。
ところがそこにもうちょっとだけ上等な人間がやってきた。
「オラァ、そこのラーメン屋! 誰に断ってラーメン提供してんだテメェッッ!!」
水夫の格好をした暴れん坊たちが5名だ。
そいつらは恐れ知らずにもストームちゃん(と、ついでに戦闘力クソザコミソッカスの俺)が作業する屋台を取り囲んだ。
バカなやつらだ。
こちらには最強のドラゴンが3体だ。
しかも1体はうっかりでこのアイギュストス市を吹っ飛ばせる爆弾そのものだというのに、愚かにも俺たちにケンカを売ってきた。
というわけであえてもう一度言おう。
バカなやつらだ!