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・ラーメン滅竜亭始めました - 鶏チャーシュー -

28話からエピソードが1話ずれていたので差し替えました。

お手数ですが、変だなと感じたら1話引き換えして下さい。


ご報告ありがとうございました。

ミスが多くてすみません。

 昼過ぎ。

 俺たち幼女の紐3名は、魚のフライと揚げポテトが名物のファストフード店から帰ってきた。


 次は自分のポケットマネーであれを食おう、これを買おうと心に決めて、俺とストームちゃんは今晩の仕込みに入った。


「バターたっぷりのさくさくクッキー!」

「サーモンお握り」


「アーモンドチョコ!」

「トマトパスタ」


「がんばりましょう、ニコラスッ!」

「ああっ、あのサトウキビってやつもかじってみたいなっ!」


 このアイギュストスは潮風と暖かな日差し、往来を行き交う人々の活気にあふれた素晴らしい都市だ。

 南北の美味い食べ物、珍しい品々がこの地に集まる。


 往来がこの都市の血管で、流通する金が血液そのものだ。


「ふふふっ、そうね! あれは2人で半分こにしましょ!」

「そうだね、あれは1人じゃ絶対飽きそうだ」


「シフォンケーキ! チーズケーキ! タルトタタン!」

「イカスミパスタ、ペペロンチーノ、ジェノベーゼ」


 そうなんだ。

 この町を満喫するには、お小づかいが沢山いるんだ。

 だが現在の俺たちはマリーの紐だ。


 よって俺とストームちゃんは欲しい物、食べたい物を買うために、今食べたい物を交互にリストアップしながら仕込みを進めていった。


 ちなみにマリーは仕込みまで手伝いたがるので、コスモスちゃんに引っ張られて図書館に連れて行かれた。


 今日は新刊が入るとかなんとか、コスモスちゃんは図書館の常連っぽいことを言っていた。


「あ、そろそろお肉いいんじゃないかしら?」

「鶏チャーシューな」


「そうそれ、それよっ。……ねぇニコラス、ちょっとだけ、味見をしてみてもいい……?」

「当然だよ」


 鶏チャーシューを作った。

 これは鶏の胸肉を使ったシンプルなやつで、脂身がほとんどないのでサッパリとして食べやすい。


 ニンニクとショウガ、ネギ、砂糖、塩と魚粉を使って漬け込んだ胸肉を、蒸し器を使って蒸したものだ。


「はぁぁ……っ、いい匂いね……」

「いや、なぜこっちを見て言う……?」


 蒸し器を開けると、鶏チャーシューの腹の減る香りがふわりと広がった。


「ごめんなさい。やっぱりあなた、美味しそうだから……」

「い、いや……。お、俺は君のことを信じてるからね、ストームちゃん……?」


「ううん、ごめんなさい、自信が、ないわ……。あたし、時々我を忘れることがあるから……」

「出会い頭に殺されかけたし、まあそこはなんとなく、わかる……」


 チャーシューはまだ熱々だけど、このままじゃかじられかねない。


 俺はクッキングナイフを取って、マリーが手配してくれた作業台の上でチャーシューを薄切りにして見せた。


 何かを切る仕事はストームちゃんの方がずっと得意だ。


 そんなふうに俺が褒めると、ストームちゃんはその気になれば真空波だけではなく、雷だって落とせると得意げに自慢していた。


 もしかしたら俺、既に小さな国くらいならこいつらで陥とせてしまうのだろうか。


「どうぞ」

「やったわっ、いただきますっ♪」


 彼女の笑顔は料理人冥利に尽きた。

 幸せいっぱいにストームちゃんは白い鶏チャーシューをつまんで、美味しそうにそれをほおばった。


 マジで、幸せそうだった。


「どう? 変なところとかない?」

「美味しいわっ!! 鶏肉って、こんなに美味しかったのね!!」


「本当? あっ、なかなか、これは……」

「も、もう3枚くらい食べてもいいかしら……?」


「いやなんで3枚からスタートなんだよっ!?」

「だ、だって……美味しいんだもの……」


「ストームちゃんが4枚食べたと知れたら、マリーもコスモスちゃんも4枚ずつ欲しがるだろうね。もっと沢山作ればよかったな……」


 もう1枚だけストームちゃんの口元に鶏チャーシューを差し出すと、彼女はちょっと戸惑った様子で口を開けたり閉めたりした。


「いらないの?」

「い、いるわよっ! あ、あーん……。お、美味しい……っっ♪」


 ストームちゃんは恥ずかしそうに目を閉じてチャーシューに食いついたけれど、俺の方はふいに指ごと持って行かれるのではないかと背筋が凍った。


「そ、そう、それはよかった……」


 危なかった……。

 もう少し手を引っ込めるのが遅かったら、強靭なあの顎に指先ごと食われていた……。


 食いしん坊なストームちゃんが唇を舐めるくらいに美味しかったのなら、このチャーシューは成功だ。


「ねぇ、ニコラス……? あのね、あたし、もう1枚だけ……」

「それは今夜余ったらね」


「余るわけないじゃないっ、こんな美味しい物っっ!!」

「大丈夫、初日から流行るわけないよ」


 嘘を吐いた。

 深鍋から香る白鶏スープも貝出汁スープも最高だ。


 この香りを嗅いだら、あの日の俺のように人々はラーメンへと釘付けになる。


 今夜の営業が今から楽しみだった。


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