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・すし詰めテント生活おやつ味

 夜更け。

 俺たちは焚き火を囲んでこれからのことを話し合った。


 明日からついに念願のラーメン屋を始める。

 午前に仕入れをして、昼から仕込みをして、夜になってから屋台を引いて営業をする。


 マリーが仕入れなどの外回り全般で、俺とストームちゃんが仕込みと調理担当だ。

 話し合いの要点だけまとめると、そういうことに決まった。


「カオス、あなたは何もしなくていいわ。何もしないでいてくれたら、それが一番だから」

「はい、マリーもそう思うですよ~。カオスちゃんは、何もしないのが仕事なのですよ~」

「うむうむ、皆よくわかっておる。ま、味見くらいはグルメであるこの我が手伝ってやろう」


 コスモスちゃんって、ドラゴンたちの中でいったいどういうポジションに位置しているのだろう……。


 かつて世界を滅ぼしかけた竜は、本人込みの満場一致で味見担当に決まっていた。



 ・



「へへへ~、おやすみなさいです」

「冷た……っ。ちょっとカオスッ、あんた死んでるんだからあっち行きなさいよっ!」


 それからまた少し経って、夜も更けてきたので眠ることにした。


 ただしそれは、あの小さなテントで4人一緒に横になることを意味していた。


 モチのロンで、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態になる必然のディステニーだった……。


「ニコラス、ストームが我をいじめるのだっ! やはり我にぬくもりをくれるのは、そなただけなのだ……」

「うっっ……?!」


 かろうじて3人ならば横並びで眠れたが、4人は逆立ちしても無理だ。


 コスモスちゃんはあっちに行けとたらい回しにされ、結果は中央に寝そべる俺の真上に落ち着いた。

 いや、俺の了承もなく開き直ったとも言う……。


「えへへ、お兄ちゃんと一緒、なのですよー♪」

「お、俺、やっぱり外で寝るよ……っ。っていうかそうしないと今夜中に俺が死んじゃう!」

「クククッ、恥ずかしがらずともよい。今宵は根こそぎ絞り尽くしてやるぞ……体温を」


 右手には愛らしいマリー、左手には顔をそむけるストームちゃん。


 ここまではまあいい。

 夢にまで見た女の子に囲まれたウハウハの夜だ……。


 だが俺の上には、よく喋る死体がのしかかっている……。

 こんなんなら焚き火の前で野宿した方がまだマシだ!


「ちょ、ちょっとニコラスッ、変なところ触らないでよっ!?」

「おっと、すまん。それは我の手だ。ニコラスがそなたの尻を触れたそうに見ていたのでな、我が代わりにな」


「ニ、ニコラスのエッチッ!!」

「んな戯言(たわごと)、間に受けんなよっ!?」

「えへへ~……」


 そんな中、少し眠そうな顔でマリーが手を繋いできた。

 別に拒む理由もないので握り返すと、幸せそうに笑い返してくれた。


 誰かと手を繋いで眠る。

 それはなんて幸福なことなのだろう。


「ぁ……っ」


 顔はそっぽを向いているけれど、俺の左手の隣にはストームちゃんの手がちょうどあった。


 そこでマリーのまねをしてシレッと手を繋いでみると、小さな声が上がるだけで拒絶をされるようなことはなかった。


「マリーは、もう、限界なのです……。おやすみなさい、なのですよ……」

「おやすみなさい、イエロー。ううん、やっぱりマリーでいいわよね」


「はいです♪ マリーは、マリーなのですよ~……」


 それを機会に言葉が途絶えた。

 次第にストームちゃんも寝息を立てるようになって、コスモスちゃんも俺の胸に頭を乗せて動かなくなった。


「ぅ……っ」


 困った、寝付けない……。

 コスモスちゃんが重いし、生冷たいし、左も右も上も封じられて身動きが取れない。


 死んでいるコスモスちゃんはともかくとして、人のぬくもりがこんなに温かいなんて知らなかった……。


 左を見れば銀髪の美少女の無防備な寝顔。

 右を見ればいつだって明るいマリーの無垢な寝顔。


 胸元を見れば寝息すら立てない死体(一応、美少女)が転がっている。


 1人の青少年として、正直言うと……なんかこう、これはしんぼうたまらんかった……。


 眠れない。

 眠れない。

 眠れない夜が2つの寝息と共に更けていった……。


「むにゅむにゅ……お兄ちゃん……」


 眠れない夜を死体にのしかかられながら胸を高鳴らせて過ごしていると、寝ぼけたマリーがおでこを俺の肩に寄せてきた。


 その姿はあまりに無垢で、果てしない年月を生きてきた竜にはとても見えない。

 とてもかわいらしかった。


「お兄ちゃん、美味しい……」


 ラーメンの夢でも見ているのだろう。

 明日はマリーのために美味しいラーメンを作ろう。

 そう思い、俺はやっと感じてきた眠気に目を閉じ――


「カプッ……♪」

「ウッッ?! ギャァァァァーッッ?!!」


 ドラゴンたちから見て世にも美味しいニコラスは、寝ぼけたマリーに噛みつかれて悲鳴を上げるはめになっていた。


「はへぇ……?」


 偽りのドラゴンズクラウンは、なんとドラゴン感覚では、やわらかくて食べやすいお手軽なおやつなのだった……!


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