・試作! 貝出汁系ドラゴンラーメン! - いや、それってどんな兄弟杯? -
こうして隠し味の出汁が取れた。
煮られているうちに麺もいい感じにストームちゃんの剣で細く切りそろえられて、全ての仕込みが完了した。
風呂上がりでのぼせ気味の俺は麺を茹でて器に移すと、そこに特製スープを流し込んで、具の盛り付けをした。
これにて完成だ。
「うっ……無理、俺、このラーメンは食いたくない……」
つーかどこの世界に自分の全身を使ったラーメンを食いたがる変態がいるよ!?
「お、美味しい……っっ!! 昼間のあれより、さらに美味しくなっているわ!!」
「わぁぁっ、アサリさんの味がいっぱいなのですよーっ!」
「むぅぅぅ……カオスドラゴンとして矛盾しておるが、自分で打った麺というのは美味いものだな。ん、ズズズッ……」
だがドラゴンたちはラーメンに夢中だった。
骨抜きと言ってもいいくらいに、2人前というがっつりボリュームの麺を音を立ててすすっていた。
ドラゴンの味覚って、いったい……。
「はぁぁ……美味い……。服従の道を選んだかいがあったというものよ……」
「服従しているやつはマスターの財布を勝手に使い込んだり、ましてや風呂に沈めたりなんて……しねーよ……」
最初は食欲がわかなかったけれど、あまりにみんなが美味しそうに食べるので気になってきた。
なのでせめて麺だけでもと、1人前のラーメンに手を付けてみることにした。
もちろん、みんなみたいには箸を上手く使えないのでフォークで。
「う、美味……っ、美味い、けど……これ、ううぅぅん……」
「美味しいですよねっ、アサリさんの味がいっぱい出てて、玉ねぎもシャキシャキなのですよ~!」
「あたし……寝ぼけてニコラスを食べないか、自分が心配になってきたわ……」
「止めて、そういうの止めてよぉ……」
なんてことだ。
食人ドラゴンがまた1匹増えてしまった……。
美味い。だけど出汁は俺。
俺の尻が浸かったスープが、これだ……。
やっぱ、気持ち悪……っ。
気持ち悪いと思いながらも、俺はあっという間に麺を平らげてしまっていた。
スープはアサリの味わいが濃縮されたお楽しみだ。
いや、楽しみの、はずだった……。
アサリのスープは飲みたい……。
だが、う、うう……。
「飲まないなら貰うぞ」
「あっあっ、カオスちゃんずるいのですよーっ!」
「あ、あたしが狙ってたんだからーっ! そんなの条約違反よーっ!!」
とかスープを見つめながら悩んでいたら、やっぱりとても俺に服従しているとは思えないコスモスちゃんに器を奪われた。
まあ、いいか……。ってなった。
「む……まあいい。新たな友情の誓いとして、このスープは3人で分け合おう」
いや、それってどんな兄弟杯……?
「わかったわ。いつまでもあんたと張り合うなんてキリがないもの。乗ったわ!」
「いいですね、いいですねっ。みんなで分け合うのがいいと思うですよ~♪」
「それ、俺から巻き上げたスープだけどな……」
「はわっ、そういえばそうでした……っ!」
そんなわけだった。
ドラゴンたちは兄弟杯ならぬ、姉妹ドンブリを交わし、疑似ドラゴンズクラウンである俺を一応の中心とした新たなる友情と野望を誓った。
俺の方は貝出汁系ラーメンのコツを会得し、いやこれかなりいけるんじゃないのかと、初の屋台デビューを妄想したりもした。
さあ、明日からは俺も本物のラーメン屋だ。
白鶏スープと貝出汁スープの二枚刃で、このアイギュストスにラーメン伝説を築いてゆこう。
その夜、新たな困難が自分を待ちかまえているとは知らずに、俺は決意を新たにしたのだった……。