・試作! 貝出汁系ドラゴンラーメン! - 正気かお前らっ?!! -
時刻はもう夕方だった。
だがかつて世界を滅ぼしかけた竜は言った。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃっ、絶対今夜はラーメンを食べるぅぅーっっ!!」
今夜はどうしてもラーメンが食べたい。
本格ラーメンを食べていないのは自分だけだ。
今夜は絶対にラーメン。
のじゃロリキャラに幼児退行してでもラーメンだ!
とわがままをもうした。
「はいはい、わかったわかった……。悪いけどマリー、お使い頼める……?」
「いいですよーっ。またラーメンが食べれるなら、ご飯遅くなっても全然大丈夫なのですよ~っ」
「そ、そうねっ。この身体でラーメンを食べたら、いっぱい食べられて最高よねっ!」
そういうわけで満場一致だ。
新ラーメンの試作もかねて閉店間際のパン屋に駆け込んで、小麦粉を確保した。
マリーが買い物に行っている間に7人前の生地をこねて、スープの材料が届くとストームちゃんとコスモスちゃんに残りを任せることになった。
むしろの上に木綿を敷いて、その上にラーメンの生地を乗せて同じように挟み込めば、作業台がなくとも足踏みでどうにかなった。
「アサリさんでラーメン、作れるですかー?」
「師匠から聞いたんだ、ラーメンのスープは色々あるって」
鶏ガラからスープを仕込むのは時間がかかるので、今回はたっぷりのアサリを寸胴鍋で煮た。
師匠いわく、貝出汁系ラーメンだそうだ。
塩で味を調整しながらじっくりと茹でていった。
「いい匂い……。意外と合うかもしれないわ」
「俺もそんな気がしてきたよ」
「楽しみですねっ、楽しみですね~っ!」
スープが仕上がってきたら、具材として白ネギの千切りと、刻み玉ねぎを少量。それにアイギュストス産のワカメの準備をした。
「我が主よ、我の分は野菜を抜きにせよ。白ネギも玉ねぎも辛くて嫌いだ! ワカメとアサリの剥き身だけにしろーっ!!」
「あ、ワカメはセーフなんだ……」
「うむ、ワカメは許す。どっさり入れよ」
「磯臭くないかな、そのトッピング……」
師匠は言っていた。
ただしこの貝出汁系ラーメンは癖が強い。
油断すると磯くさくなって食べられたものではないので、気を付けるアル、と。
「おお、そうだった。また肝心なものを忘れていたな」
「はいはい、また手を煮ろとか言うんでしょ……」
「手って、どういうこと……?」
そういえばストームちゃんには、俺の身体が出汁になるとは説明してなかったっけ……。
ああ、知らなければずっと幸せだったろうにな……。
コスモスちゃんはまたあの黒いバックを取り出して、片手で中をまさぐると――
「そうは言わん。……ふ~ろ~が~まぁ~!」
「えっ、そのバックどうなってんのっ!?」
バックから銀色のバスタブを取り出した。
もちろん、片手で。
「はわぁ~……魔法みたいなのです……」
「それで、これをどうするのよ……?」
「我が主よ、手だけでは物足りない。服を脱いで入れ」
初めて会った日のことを思い出した……。
あのときもラーメン風呂にぶち込まれて、ニンニクがデリケートな部分にしみたりして大変だったっけ、ははは……。
「井戸水、くんできますね~♪」
「我は風呂釜を火にかけよう。……よし、入れ」
「火傷するわ、アホーッッ?!!」
コスモスちゃんは薪を組むとその上にバスタブを乗せて、闇のブレスで簡単着火した。
その一方でストームちゃんは不思議そうに俺の側に寄って、しきりに鼻を鳴らし始めた。
「な、何、ストームちゃん……?」
「初めて会ったときから、思ってたのだけど……スンスンッ……。ニコラスって……」
「く、臭いか……?」
「やっぱり!! 凄く美味しそうな匂いがするわっ!!」
「ヒ、ヒィ……ッ?!」
「クックックックッ……当然よ、こやつは最高の出汁そのものなのだからなっ! さ、服を脱いで入れ!」
「コレを煮るの……? お、美味しそうだわ……っ」
「正気かお前らっ?!!」
そうこうしているうちに驚異のドラゴンパワーでマリーが井戸水を確保し、いい感じのほかほか風呂がそこに完成していた。
「はい、どーぞ、ニコラスお兄ちゃんっ」
「あ、あんたが美味しそうなのがいけないのよ……っ!!」
「入れ。さもなくば皆で剥く。あのアサリのようにな、ククククッ……」
それはそれでなんか背徳的というか、わぁぃというか、尊厳を蹂躙されそうなので俺は今のうちに屈服することにした……。
みんなを遠ざけて服を脱ぎ、暗い夕空を見上げながら風呂に浸かり、俺は思った。
「俺、何してるんだろ……」
ラーメン屋のラーメンがラーメン屋本人を出汁にして作られてると知れたら、鞭打ちの刑どころじゃねーだろな……。
ドラゴン用の出汁は出汁として、低温でじっくりと煮られていった……。