・竜の額に抱かれしモノ - ドラゴンズクラウン -
「わはははっ、ちと計算を間違えてなっ! ま、喜べっ、ここが我らの新たなキャンプ地だっ!!」
「借家の方がナンボかマシじゃねーか……っ」
「そうよ、あのコテージ、凄く素敵だったのに……」
4人で暮らすにはあのコテージは狭かったとはいえ、俺もあのコテージが超気に入っていた。
というか、敷地のど真ん中にあるあのテントで4人で暮らすのは無理がある、無理しかねぇ……。
「我は気に入っている。このシュールさがよい!」
「ねぇ、昔からコスモスちゃんってこうなの……?」
「ううん、ここまでデタラメじゃなかったわ……。むしろ、もっと真面目なドラゴンだった……」
真面目に邪悪。それはそれでたちが悪いな。
とにかくカオスドラゴンはとんでもないやつだと、俺とストームちゃんは共通の見解に落ち着いた。
「ブーブー……せっかく稼いでやったのになんだその態度はっ! もっと喜べ!」
「ありがとう、心臓が止まるかと思ったよ……」
「うむ。我が主よ、この草ボーボーの敷地を新たなる拠点とし、飛躍するがよい」
ともかく敷地の中へと入った。
入り口の側にはあの中古の屋台が置かれていて、まあ隠れてラーメンを作るには悪くなさそうな拠点だった。
「……うん、悪くないね」
「そうか……よかった。また怒られたらどうしようかと思ったぞ?」
段々とここが気に入ってきた。
俺は敷地のあちこちを回ってみた。
どこもかしこも野草だらけだった。
けれどコスモスちゃんとストームちゃんが、テントの前でまだ睨み合っていることに気づいた。
「ストームよ、過去の因縁は水に流してやろう」
「なんで世界を滅ぼしかけたあんたがそのセリフを言うのよーっ!?」
それはコスモスちゃんだからだ。
コスモスちゃんは素直にごめんなさいができるようなドラゴンではない。
「クククッ、まあ聞け……。そしてアレをよく見よ……」
「アレって、ニコラスのこと……?」
遠くから見ていると指を指されて注目された。
コスモスちゃんはとっても悪そうな顔で、意味深に口元をひきつらせた。
「この男は、竜の王冠だ……」
「ナニソレ?」
「我が主よ、そなたは黙っていろ」
「いや俺のことだろっ!?」
コスモスちゃんがテイム済みなんて、絶対嘘だ……。
普通ならもっと……
『ご主人様~、えへへ~、ヤァァンッ♪』
みたいな雰囲気になるはずじゃん! なってねーしっ!!
「バカなことを言わないで。ドラゴンズクラウンは既に失われた。カオス、それはあなたが一番知っていることじゃない……」
「クククッ……正しくはドラゴンズクラウンの代用品に成りうるものだ」
いや物じゃねーしっ!
マスターは俺の方だしっ!
「代用品……」
「そうだ。この男、我が主を利用すれば、ドラゴンはかつての繁栄を取り戻すことになる……」
「……え、俺ってそんな重要ポジにいたの?」
「我が主よ、そなたは黙っていろ」
「俺、重要ポジで我が主だろ!? ドラゴンズクラウンってなんなんだよっ!?」
よくわかんないけど、ドラゴンズクラウンこそがコスモスちゃんの野望らしい。
俺を利用するつもりなんだそうだ。
普通、利用するやつの前では言わないよな……。
「竜族の秘宝よ。ドラゴンズクラウンを所有する者は、全ての竜を従える力を持つ。そういうアーティファクトなの……」
「それが本当なら、手に入れた時点で天下取ったようなもんじゃん」
そんなアイテムが本当にあったら凄いな。
手に入れれば世界征服だって簡単だ。
……そりゃ、ムッチャクチャに揉めるだろうな。
「いいかストームよ……。全ての竜を、このラーメンオタクにテイムさせる……」
「え、なんで?」
「さすれば、この男はドラゴンズクラウンそのものとなる。竜を統べるドラゴンテイマーの才……。そして竜族を魅了する魔性のラーメン屋の才……」
なぜだかわからないけれど、ゴクリとストームちゃんが生つばをのんだ。
「この2つがあれば、全ての竜はこの偽りのドラゴンズクラウンの下に集うであろう……。ワハハハッ、我は自分の慧眼が恐ろしい……。人間どもの時代は、もはや終わったも同然だ……」
あの……水を差すのもどうかと思うので、心の中で言わせてもらうけど……。
その話を俺にバラした時点で計画が頓挫してるだろ、それっ?!
こちとら人間の時代を終わらせる気なんてさらさらねーよっ!?
「わかったわ。バラバラになったみんなを、また1つに束ねるってことね……?」
「うむ……。間接的にではあるが、まあそういうことにもなる……」
「乗ったわ」
「そうかっ、ならば我らは仲直りだ!」
コスモスちゃんとストームちゃんは握手を交わし、人間にはわからない事情の下に結託した。
マリーもストームちゃんも孤独だった。
ドラゴンたちをテイムして、孤立したドラゴンを仲間の元に導く。
それが彼女たちの願いならば俺も手伝いたい。
そう伝えようと口を開くと、塀の外から呼び鈴が鳴っていた。
「はわっ、本当にここだったですかーっ!? わっわっ、テントがあるですよっ!?」
「おかえり、マリー」
「あっ、お兄ちゃんっ! ただいまです。お荷物、お届けに参ったですよ~♪」
運搬業者を引き連れてマリーが帰ってきた。
男たちが外の荷馬車から梱包されたかんすいを中へと運ぶと、彼らはマリーに愛想を振りまいて去っていった。
「イエロー、そなたもよく帰ったな。して、それはなんだ?」
「へへへー、これはですね~。これこそが、マリーたちが探し続けたかんすいなのですっ! 仕入れルート、確保なのですよーっ!」
かくして俺たちは新たな仲間ストームドラゴンと共に、かんすいを持ってアイギュストスに帰還した。
これでやっと、本物のラーメンが作れる。
コスモスちゃんたちドラゴンの悲願。
そして共通の夢であり道楽であるラーメン屋経営。
全てはこれから作られてゆくラーメンの味わいにかかっていた。