・竜の額に抱かれしモノ - The house of BBA! -
「ふふふっ、素敵な家じゃない!」
「ただの借家だけどね。……気に入った?」
「もちろんよ! 海の上に家を建てるなんて天才的な発想ね!」
「……そうかな。まあ、そう言われてみればそうかも」
「ああ、人間の姿になってよかった……。まるで、宝石箱の中で暮らしているかのようだもの」
「その言葉は人類の1人として光栄に思うよ。じゃ、ここで待ってて、コスモスちゃんを中から連れてくる」
水上コテージの姿にストームちゃんは小さな子みたいにはしゃいでいた。
けれど俺が引き合わせると言うと、緊張した面もちで小さくうなづいて、桟橋を進む俺を見送っていた。
「ただいま、今帰ったよ。あれ、閉まってる……。おっ……」
鍵のかかった扉をガチャガチャとやると、中から足音が聞こえた。
すぐに扉のかんぬきが重たい音と共に引き抜かれて、扉が外へと押し開かれた。
「え……っ」
「あらぁん……?」
「あれっ、家、間違え……えっ、あれ……っ!?」
「あ~らやだぁっ!! かわいいお客様ねぇ~んっ♪」
「えっえっ、あれっ、ここっ、えっ、オバちゃん誰っ?!!」
だがしかし! 扉の向こうにいたのは謎のババァだった……。
モサモサの天パーに色黒の肌、娼婦みたいな半裸の格好をした、五十代くらいの化粧臭いババァだった……。
「ンフフフフ……ッ、こんなに若いお客様は何十年ぶりかしらねぇぇん……♪♪」
「ぇ……。いやっ、ち、違っ、お、俺は、ただっ、家に……っっ」
ババァは真っ赤な口紅が塗りたくられた唇を、すするようにジュルリと舐めたくった。
獲物を狙うかのようなその姿に、俺は本能的な、恐怖を感じた……。
だがここは俺たちの家だ!
番号も立地も間違っていない!
ここはマリーが借りてくれた、俺たちの借家のはずなんだっ!!
ってことは、誰だよこのババァッ?!
「素敵なお客様ね♪」
「ち、違いますっ、違うんです……っ、ヒッ?! さ、触らないでっ、止め、ヒィィィィッッ?!」
「坊や、なかなかオバちゃんの好みだわぁぁ……♪」
そのオバちゃんは言動といい格好といい、たぶん商売女ってやつだ……。
そして俺はっ、現在っ、お客様だと勘違いされてしまっているっっ!
「いや勘弁して下さい、頼んます……っ、これはっ、誤解なんですっっ!!」
「我慢しなくていいのよ……♪ 若いんだから、たまってるんでしょぅ、クッ、クココココッッ……♪」
ババァは凶鳥のような不気味な声で甲高く笑って、俺を愛の巣(ドクダミ風味)に引きずり込もうとしていた。
「止めてっ止めてっ、僕お金持ってませんっ!! っていうか見てないで助けてよっ、ストームちゃんっ!?」
「あらぁ~? そちらのかわいい子もお客様かしらん……♪」
「……し、知らないわっ」
えっ、やだ嘘っ、見捨てられたっ!?
「やだやだやだやだっ、止めて止めて止めて止めてっ、助けてってば、ちょっとぉぉーっ?!」
「文無しでもいいのよ、ツケにしておいて、あ、げ、る……♪」
「はぁ……っっ。なんだかよくわからないけど、わかったわ……」
あわや凶鳥の巣、あるいは蟻地獄、もといババァ地獄に引きずり込まれかけたところで、ストームちゃんが桟橋を渡ってきて、誤解を解いてくれた……。
ババァは未練がましく俺を見ていたが、ストームちゃんが男らしくも守ってくれて、俺は胸がキュンとした……。