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・かんすいが入ってなければラーメンではない

 と、思うじゃん?

 ここから闇ラーメンで稼ぎまくって、バラ色のラーメン屋生活!


 と、思って、みんなで一丸となってがんばり始めたじゃん?


 いや、ところが……。


「無念、なのです……」

「我は認めんぞ! かんすいが入ってなければラーメンではない! 詐欺だ!」

「いや、コスモスちゃんはずっと家でゴロゴロしてただけでしょ……」


 俺とマリーがいくら奔走しても、肝心の『かんすい』が手に入らなかった。


 ラーメンのあの独特の風味やしこしこ感は、かんすいがなければ生み出せなかった。


「カオスちゃんは、何もしないのが仕事なのですよ~」

「うむ、そういうものだ」

「いや、このダメドラゴンをこれ以上甘やかしたらダメだって……」


 ラーメンがご禁制なら、その精製に使われるかんすいもまたご禁制だ。

 いかに流通の要所であるこのアイギュストスでも、かんすいの入手は困難を極めた。


「何もしないでゴロゴロしているのも案外大変なのだぞ?」

「いやニートの苦労なんか知るかよっ!?」


 怠惰、傲慢、暴飲暴食。

 それこそがコスモスちゃんの本質だった。


 こんなに自信たっぷりなニート、この世界のどこを探してもコスモスちゃんの他にいないと俺は断言するよ!?


「うむ、ならばこうしよう……」



「……どらごんれーだぁ~っ!!」



「いや、だからなんなの、そのノリ……」

「わーっ、丸くてかわいいですね~、それー♪」


 コスモスちゃんはこの前のアレを取り出して、簡単にマリーに用途を説明して手渡した。


 要するにラーメン屋の方は今のところ手詰まりなので、ドラゴンレーダァを使って新しい竜を探す。

 というプランのようだ。


「イエローよ、仲間を集めよ……。ニコラスには、人間の時代を終わらす才がある……」

「いや何物騒なこと言ってんの君っ!?」


 コスモスちゃんって大丈夫なんだよねっ?

 これっていつものノリで、ちょっと大げさに言っているだけだよね……っ!?


「カオスちゃん、気持ちはわかるですけど……マリーは、人間さんと仲良くしたいです」

「うむ、冗談だ……」

「俺の耳には冗談に聞こえなかったんだけど……」


「ならば本気かもしれないな」

「うわっ?!」


 コスモスちゃんは突然に人の頬をチロリと舐めて、理解し難いけど俺が美味しかったみたいで、口をモゴモゴさせて味を反芻させていた。


「でも仲間、増やすのは賛成なのです」

「ま、そうだな。もう1人くらい仲間がいた方が店の運営も安心だ」


「ニコラスお兄ちゃん、美味しいから……他のドラゴンさんに、食べられちゃうかもしれないですけど……」

「えっっ?!!」

「む、それは困る……。おお、ならばこうしよう。顔のここに、カオスドラゴンと書いておこう」


「あっ、それなのですっ! 反対側に、マリーもマリーって書くですよー!」

「俺は冷蔵庫のスイーツじゃねーよ……」


 インクが手元になかったので最悪の事態は免れた。


「じゃあ行こうか、コスモスちゃん。今回はどっちが竜になる?」

「うむ、我はこの町が気に入った」


「え、はい……?」

「だがそろそろ波音を聞きながら過ごすのも飽きた。しばらくは図書館に忍び込んで暮らすとしよう。後は任せたぞ、イエロー、我が主よ」


 えっと……コスモスちゃんって、自由過ぎない……?


「残念なのです……。あ、でもでも、カオスちゃんがこない方が、上手くいくかもですね~♪」


 コスモスちゃんは天然物の疫病神か何かかな……。


 しかし言われてみればそうだ。

 コスモスちゃんはいついかなるときも、ろくなことをしない。


 アイギュストスの市民には悪いけど、自発的に残ると言ってくれるならそれはそれでよかった。

 何もしないでいてくれたら、それだけで最高だ。


「おお、そうであった。これを持って行け。……らぶらぶてすたぁ~!」


 コスモスちゃんはまたどこからともなく黒いバックを取り出して、そこから俺にひし形をした宝石を渡した。

 よく澄んだ桃色の綺麗な石だった。


 しかし気のせいか、こちらが受け取るとその桃色の輝きがより眩しくなったように見えた。


「えっと……これは何?」

「ぉ、ぉぉ……っ、これは、なんたることだ……」


「コスモスちゃん? どうしたの……?」

「はわぁ~っ、ピンクダイヤモンドよりっ、キラキラなのですよ……っ!?」


 コスモスちゃんはなぜか黙り込んで、俺の手の中の宝石に目をまん丸に広げていた。


 それから顔を上げて、かと思ったら急に下げて、どういうわけなのやらモジモジと恥ずかしそうに腰を揺すりだした。


「よ、よいか……?」

「別によいけど、これってなんなの……?」


「そ、それは、ら、らぶ……ラブラブテスター……」


 誰が命名したのやら知らんけど、最悪極まったネーミングセンスだな……。

 ドラゴンレーダァの30倍は酷いぞ。


「こ、これは……も、持ち主と、向かい合っている相手の……か、感情が、色となって現れる道具なのだっ!!」

「な、なんだってぇぇーっっ?!!」


 つまり、このキラッキラッのピンク色の輝きは、コスモスちゃんの俺に対する感情……?


 嘘っ、コスモスちゃんの俺に対する感情って、食欲と獣欲の2色だけじゃなかったのっ!?


「こ、こっちを、見る、な……」

「あ、ごめん……」

「はわっ?! マ、マリーに向けちゃダメなのですよぉーっっ?!」


 マリーの感情は暖かなオレンジ色だった。


 俺に対して、暖かな気持ちを向けてくれていることがわかってしまって、コイツはえげつないなとすぐにポケットにしまった。


「暖色が良い感情。暗色が暗い感情。もし遭遇した竜が黒に近い色が示したらすぐに逃げろ」

「わかったよ。ちなみに、黒ってどういう感情?」


「純粋なる殺意だ」

「怖っ!?」


 しかしこれがあれば、食われる前に逃げられそうだ。ありがたく受け取った。


 その後、俺とマリーは商人の荷馬車に乗せてもらって郊外まで出ると、人気のない林から空の旅を始めた。


 まさかコスモスちゃんが、あんなキラキラの桃色の感情を俺に向けてくれていたなんて……。

 思い返すと気持ちが浮ついてしょうがなかった。


 あの恥じらう姿が何度も脳裏に浮かんで、ついつい口元がにやけてしまっていた。


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