06_吸血鬼狩り、路地裏にて②
路地裏の隙間をから響く戦闘音。容赦無く地面や壁を抉る様に大きい方の吸血鬼が両碗を振り翳し当たれば無事では済まない事は想像するまでもない。
狭い路地裏ではあるが小回りが利くイヴはあまり問題は無い、しかしもう一人の吸血鬼と相対している青年の動きは先程奇襲を掛けた人物とは思えないくらい鈍い。
一体全体どうしたのか、もしや何処か負傷したのかと心配になり避けた際に近付いた隙をつき耳打ちをする。
「君大丈夫か?何処か怪我をしたのならすぐに下がって……顔赤くないか?」
「………ッ!!おま、っ…お前が急に変な事言うからだろ!!」
「変な事?……嗚呼君に恋をしてるって言ったことか?」
「い、まは戦闘中だ!!んなこと言うな馬鹿!!!」
ナイフを握る手が震えながら青年が声を荒げる、その顔はフードの隙間からでも分かるくらい赤く染まっている。原因は一体何なのか、どうやら先程のイヴの発言が原因の様子。
吸血鬼との戦闘直前に言われた動揺を誘う言葉、先程の言葉が頭をぐるりと駆け巡り上手く思考が働かない。決して青年の動揺を誘うつもりで言ったつもりはないのだが側から見ればそうとしか捉えられない。
その際に吸血鬼の攻撃が二人を襲う、いつまでも気にしていても仕方ないのが動きが鈍い青年を捉える様に両碗が襲おうとする。その腕に弾丸を一つ打ち込めばその片方の手を撃ち抜く。
「ァアアッ!!!グゥ、…まタァ、ッ……殺ス、殺スゥ、ッ!!!!」
「彼に手を出そうとしたんだ当然の報いだろう。……っ、と!」
「また僕達吸血鬼にその忌々しい銀を…っ、許さない、許さない…ッ!!!」
「しつけェッ!!!!」
イヴへと伸びかけた手を今度は青年が蹴り上げる、近付くなと威嚇する様に。勢いよく弾かれた手が痛み表情が歪む吸血鬼だがやはり決定打にはならない、ナイフは器用に避けられる。
身体の大きさが違う為に正装している吸血鬼に銃弾を命中させ辛い、何よりも青年に当たる可能性もあるために無闇に引き金が引けない。
出来ればもう少し大通りに出た方が動き易いがそう簡単に通してもくれなさそうだ。ならばやはり路地裏で仕留めるしかない、残りの銃弾数を思考回路に入れつつ決定打にしておきたい所。
何よりもやはり二人同時の吸血鬼相手は想像以上に厄介だ、どちらでもいい、片方を落とさない限り難しい。吸血鬼を誘い、隙を作るしかない。
「君出来れば鼻を覆った方がいい…!」
「は?お前いきなり何言って、……ッ!!!」
「……っ、はぁ、ほら君達が欲しかったのは私の血だろう?いいのか、このままだと床に垂れ流すことに、なるが…!」
誘う方法、吸血鬼相手なら一つしかない。痛みを覚悟しながら裾を捲り腕をナイフで切り付ければ一線が入り一気にじわりと血が滲む。
利き腕では無い方とはいえジクジク痛む感覚に思わず顔を顰めながらも誘う様に吸血鬼へ向ければ、甘い帰りは誘う様に鼻腔へと入り込む。
わかり易い位に涎を垂らし求める様にギラついた瞳をイヴに向ける吸血鬼、やはり血の匂いに誘われている様子に当てが外れなくて安心したとそのまま血を床に垂らし距離を取る。
「血ノ、匂イ……欲シイ、欲ジイッ!!血!欲ジイィッ!!!!」
「…っ、は、待て、!無闇に祓魔師に近付いては、ッ!」
「血ヲ寄越ゼェエエエエッ!!!!!」
どうやら大きい方の吸血鬼が釣れたみたいで一心不乱にイヴの方へと走って来る。焦る青年に問題無いと視線を向けそのままどんどん奥へと逃げ込みながら懐から別の銃を取り出す。
また銀の弾丸、と反応するがこのまま距離を詰めれば追いつかれてしまう。
その前にイヴの引き金の音色が響く、しかし不発、吸血鬼に届いて居ないのかそのまま突っ込んで来る様子に逃げる事をやめただ立つだけに留めた。
「おい、イヴ…ッ!!」
「──大丈夫だ、何の問題も無い」
迫り来る吸血鬼に対して冷静に見据える、其処から移動する事なく吸血鬼がイヴに襲い掛かろうとした瞬間、目の前が血飛沫に覆われた。
血飛沫が上がったのはイヴ、では無く襲おうとしていた吸血鬼の方。一瞬何が起こったのか分からない、ただ大きな図体と頭が綺麗に分かれそのまま宙を舞った頭は壁へと叩きつけられる。
悲鳴も無い一瞬の事、そのままイヴの隣を通り過ぎた身体もまた壁にぶつかりずるずるとずり下がり、静まり返る空間に顔についた血を拭うイヴの表情は淡々としている。
「まずは一人目」
青い目が光、もう一人の吸血鬼を見据える。
その姿は紛れもなく祓魔師と呼んで差し支えない姿をしている。