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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

モス・ナイトメア

作者: 碧凪空

注意:虫登場&う○ちネタ、苦手な方はお戻りください。


「……何してんの?」

 王城の自然豊かな森林エリアに程近い庭で、分身しているかのように機敏な動きであちらへこちらへ移動する友人を見て、僕は思わず呟いた。

「あぁ、これはね、この虫を捕まえているんだ。ウサギみたいで可愛いでしょ?」

 そう言って見せてくれたのは、真っ白な翅の蛾だった。触覚の部分が大きく、そこだけ見れば兎の様にも見えなくもないが。だがしかし、王都育ちの俺は虫に馴染みがないので可愛いとは同意しかねる。

 友人は、その虫を捕まえて籠に入れてはまた次の虫を捕まえている。と、尻の所でひんやりしたナニカがぶりぶりと広がっていく。

「あ、言い忘れたけどこいつら、何かに止まって排泄する習慣あるから」

「それを先に言え!」

 ばっと後ろを確認すると、終えた一匹が僕の尻から飛び立っていき、後には茶色いそれが残されていた。ていうかこいつらの体よりでかいじゃないか!どうなってるんだ!?

「大丈夫、こいつら草食だから。臭くないよ」

「そういう問題じゃねぇんだよ。この歳になって俺が漏らしたみたいじゃないか…」

 俺に粗相をした個体を捕まえた友人がニコニコしているのと対照的に俺は頭を抱えた。


「いてっ」

 突如、友人が悲鳴を上げた。

「どうした?」

「いや、なんかに噛まれた様な…」

 っ。俺も右手の甲に痛みが走る。みれば、例の蛾が右手に止まっていた。慌てて手を振り払う。

「おい、こいつに噛まれたんじゃないか!草食じゃないのか!?」

「そのはずなんだけど…っ!」

 友人の声が途中で途切れる。俺も言葉を失って呆然と見上げた。

 何故これだけの羽音に気づかなかったのだろう。気づけば、周囲は無数の蛾に埋め尽くされていた。しかも何故か、一体一体が大きい上に、目の近くには口があり、似つかわしくない牙を剥いている。

「逃げるぞ!」

 友人の手を取って走り出す。目指すは建物の中だ。無数の羽音に追いかけられる恐怖と闘いながら、なんとか扉の中に滑り込んだ。しかし。

「どうなってるんだ!」

 思わず悪態が口を突いて出る。建物の中は、無数の排泄物があり、外ほどではないにせよ蛾たちが飛び交っている。

「これ、多分魔獣化だ」

 元々持っていた網で一匹捕まえて観察していた友人が、ポツリと呟く。

「だからでかいし肉食なのか。それで、なんでこの王城のど真ん中に魔獣化が起きたんだ?」

「多分、持ち込んだ人間がいる。それも城の、この建物の中に」

「おいおい、俺たちは飛んで火に入る夏の虫って事かよ」

「止めないと。こんな個体が広がったら…この種のイメージが悪くなる!」

「そこかよ!?」

 キリッと言い切る友人に突っ込みを入れつつ、俺も杖を召喚する。

「浄化ぁ!!」

 気合いと共に魔力を解き放つ。目に見える範囲の蛾がすっと大人しくなり、今まさに俺たちに襲い掛かろうとしていた幾匹かがぽとりと墜落する。

「あぁ……」

「嘆いてる場合か!こいつらどっから現れた!?」

「……あっちだ!」

 連れ立って走りつつ、目の前に大群が現れるたびに浄化の魔法で一掃する。

「あぁ、踏み潰さないで!」

「んな気を使っている暇はねぇ!!」

 どんどん現れる間隔が短くなっていやがる。


「ここか!」

 そこは、この建物の正面玄関。天井が高く、広間の様になっているスペースに、幾つもの箱が置いてある。

「あれ、巣箱だ!」

「よし、浄化——っげほっ!?」

 詠唱しようとした瞬間、一層の羽音と共に粉塵の様なものが吹きつけ、口元を覆うのが間に合わず幾らか吸い込んでしまう。同時に目も閉じたから、何も見えない!くそ、どうなってるんだ!?

 体内で魔力が反応する気配——毒か!

 どさっと、五月蝿いほどの羽音に紛れて後ろで頽れた音がする。

 世話が焼ける。無詠唱で魔力を練り上げ、守りの結界を起動する。羽音が遠ざかったのを認識し、目を開ければ視界一面茶色と白の斑に染まっていた。仕方ない、全力で——

「悪しきもの、仇なすもの、皆乍ら祓い清めたまえ。浄化ぁ!!」

 魔力の衝撃波を放ちながら、浄化の魔法が広がっていく。なんか爆発音が聞こえた気もするが、知らん。

 ぼとり、ぼとりと蛾たちが地に堕ちていく。ようやく視界が広がれば、あたり一面蛾だらけで気持ち悪い絵面になっていた。


 爆発していたのは、巣箱だと友人が言っていたものだった。

「何でこれが爆発なんか……」

 友人が検分しながら呟く。その箱の内側にバラバラになった死骸の残骸を見つけて、俺は一つ思い至る。

「巫蠱か」

「ふこ?」

「東国の呪術の一つだ。本来は壺に蜘蛛や百足を詰め、残り一匹になるまで共食いさせ、怨念を育てるという」

 そして、その残りの一体を呪物にして誰かを呪うための呪術。

 とはいえ、本来草食性の蛾を集めただけでは成立しないはずだが。

「さっき俺たちはこいつらに喰われた。つまり、魔獣化して肉食になっていたわけだ。そんな魔獣を狭い箱に閉じ込めれば——ほら、似たようなもんだろう」

「じゃあ、箱が爆発したのは、ここに怨念を集めた個体がいたから?」

「多分な」

 とはいえ、魔獣化したきっかけも、そもそもここに巣箱を集めた奴が誰なのかもわからず、謎は多いわけだが。

「許せないよ」

 ん?

「可愛いこの子たちをこんな目に遭わせた奴を、僕は許す訳にはいかない!」

 おぉ、友人が燃えている。

「力を貸してくれ!」

 ばっと差し出された手を、気楽に握り返す。

「ま、俺の専門でもあるしな。何より、売られた喧嘩は買う主義だ」

 首根っこ洗って待ってろよ、犯人の野郎!

過日作者が見た悪夢がベースです。齧られた!?って起きたので悪夢なのは間違いないけど、2次元と3次元同時出演とかツッコミどころ満載で既にギャグの気配も濃厚だったカオスな夢でした。

なお、尻にフンしてくるのとか鱗粉ごと巻き上げて詠唱阻害してくるのとか、夢でみたままです。なんなら「そいつら人の尻に停まってフンしてくる習性があるよ!」と笑顔で言われた時は夢ながらどうしようかと思った。

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