異変、再び
本当なら彼にもう一度会って聞きたいところだ。
しかし、普通でもほぼ初対面の人間に何処かで会いましたっけ?て聞いたら怪訝そうな顔しか返ってこないだろう。
それに加えて、初対面の時のあの様子じゃ、絶対まともに答えてくれそうにないだろう。
安川さんに確認するのはもう少し後だな。
となると、このよく分からない状況は続くということか?
思えば、この1週間、ただ沙絵と菊枝さんと過ごしただけのような気がする。
思えば、沙絵も謎な存在だな。
記憶を無くしたどこの馬の骨と分からない人間を居候にして、若い娘が大丈夫なのだろうか?
まあ、僕には悪いことする勇気はないけどね。
見た目は同い年ぐらいだけど、僕なんかよりずっと落ち着いてるし、大人なかんじだ。
時々、ドジっ子というか、天然な所も見せるけど、そういう所も愛嬌になってるんだろうなぁ。
島の人たちには本当に可愛がられているようで、歩いているだけで、よっ、沙絵ちゃんって声をかけられることが多い。
デートか?ってよくからかわれるけど、沙絵はいつも違いますよ〜と軽くかわしている。
あっさりかわされる僕の存在って何?なんて事も思わないでもないが、まだあって1週間だし、仕方ないのだろう。
一緒についてきてくれるのは、沙絵の優しさだ、きっと。
考えがだんだんまとまらなくなってきた。
「もう、寝よう」
立ち上がって電気を消そうとしたその時、襖の下の方で、もごもごと動く黒い影のような物を見つけた。