菊枝
それからも僕達は長い時間、マスターと話していた。
僕に関する事は残念ながら満足に聞けなかったが、島の事に関する情報を得ることができた。
ここは忘れ名島というところで、島には約20名ぐらい住んでいるらしい。
そして周りにも似たような大きさの島が沢山あり、住んでいる人もいる。
マスター曰く、他の島から流されてきたか、往来の船から落ちたのじゃないか?との事だが、そんな事あるのだろうか?
「沙絵、、、、さんは、ひとりで住んでいて寂しくないの?」
いくら心の中で沙絵と呼び捨てにしてても、呼びかける時には躊躇われた。
いくら本人がいいと言っても、なんせ、今日会ったばかりの娘なのだから。
「もう、沙絵でいいって言ってるのに。寂しくはないよ、みんな優しくしてくれるし。」
喫茶店からの帰り道、沙絵と一緒に同じ家に帰るという事実に改めて気づき緊張が走る。
なんせ今日初めて会った女の子と2人っきりでひとつ屋根の下。
しかも、相手は妙に親しげで、好感を抱いてくれている感じを受ける。
さらに贔屓目に見ても可愛いときた、
これは僕が置かれている状況を多少放置しておきたくなる事案ではないか?
そう、僕だって健全な男なのだ。
なんて事を、自分の部屋でぽつんと考えていると、やけに台所から騒がしい音が聞こえてきたので、ちらりと様子を見に行った。
「君がまさきだね?私は菊枝、よろしく。」
エプロン姿の沙絵と一緒に料理している女の人がいた。
いかにも仕事ができそうな、キレイ系のお姉さんだ。