7話
「今日からここが、坊主の家だ。そして今日から……坊主は俺たちの家族だ」
そう言って笑ったロイの顔を、10年経った今でも覚えている。
今となっては取り戻せない日常だから、こうやって思い出すのも悪くないだろう。
マリターノは木の根もとに座り目を閉じる。
風船に空気を吹き込む時のようにゆっくりと、どこまでも。
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「ここはサルージ村って言ってな、坊主にゃまだ分からねぇだろうが木材で有名なんだ。色が良いってな」
「そうなんですか」
楽しげに語るロイの顔を見て、朝から元気な人だと冷ややかな目線を寄越すマリターノ。
彼は今朝がたこの世界で初めての自殺に失敗しており、気分もテンションもどん底である。
「……昨日は遅くに帰ってきたから紹介してなかったな。コラ、ユイ、新しい家族だ。仲良くしてやってくれ」
後ろを見ると、マリターノの様子を伺うように二人の子供が遠巻きに眺めていた。
恐らく男の子がコラ、女の子がユイだろう。
拾ってもらった手前、雑な対応をするわけにはいかず、近付いて握手をする。
名前を言おうとして、ふと考えてしまう。
でも、本当は考える必要なんてなかった。
だってそんなのは、ここに来た時点で決めていたから。
「初めまして、マリターノ=サンブレルです。よろしくね」
前世の僕は、もう死んだ。
けれど、今回の僕はまだ死ねないし、死ぬことが出来ない。
知りたい。
自分がここに存在する意味を。
「よ、よろしくねっ!わたしのことはユイって呼び捨てでいいから!」
「……よろしく。コラです」
コラは言い終えるとユイの背中に隠れてしまう。
ユイはそんなコラを見て微笑み、よしよしと頭を撫でる。
ユイは絹のように綺麗な白髪を腰まで伸ばし、整った顔立ちで屈託のない笑顔を浮かべている。
コラは少しぽっちゃりとしており、おどおどしているが性格の良さが滲み出ている。
「じゃあー……マリターノ君、コラ君!一緒に遊ぼっか!」
この日から、ユイの背中は変わっていない。
とても大きくて、優しい。
そして、もう一つの意味でも。
彼女は変わらなかった。
この10年間、身長の変化は一切ない。