3話
いつものように背中に引っ提げた剣を抜き、素振りを始める。
ロイによって拾われた後、この世界の記憶なんてないのに自然と早朝に起床し、そして剣を振っていた。
彼にはわからないことがたくさんある。
否、現状わかることの方が少ないのかも知れない。
しかし、目標は明確に定まっていて、そこへの道もまた、明るく照らされている。
無心に剣を振る。
ただひたすらに、知らない体に培われた技術で。
"知りたい"
ここに自分が存在する意味を。
この体の主のことを。
己に眠る不思議な力の謎を。
『"知る"には力がいる。……知るだけではない。この世界では、何かを得るにはそれ相応の力が必要なのだ。強く有らなければ喰われるぞ。世界の摂理にな』
いつだか、ロイは彼にこのようなことを言った。
彼にこの言葉の真の意味が理解できているかは分からない。
「強く……ならなきゃ……」
うわ言のように吐かれた空言は空に溶ける。
煌めく朝日を背後に置き、伸びた影を睨み付ける。
決断の時は、近い。
「焦っているようだな、坊主」
その声にハッとする。
焦って振り向くと、そこにはロイ=ドゥラノワの木にもたれ掛かっている姿が見えた。
「僕、何か変なことでも言ってました?集中すると周りが見えなくて……」
「いやなに、"強くなりたい"って聞こえてな」
肩を竦めて、そう言う。
二メートルはあるであろう体格とスキンヘッドの彼は、柄にもなく優しく笑ってみせる。
「俺もなぁ……昔はそうやって、馬鹿のひとつ覚えみてぇに強さを求めたもんだ」
遠い昔を思い浮かべるように、泡沫の思い出を慈しむように。
瞳に宿る感情は、幾ばくかの哀惜を宿す。
そして、男は語り出す。