2話
すっかり夜の帳が降り、暗闇で満たされる道をマリターノは歩いていた。
鈴の音を鳴らす虫や、辺りを彩る鳥の声、仄かに照らされた家の中から聞こえる談笑。
砂利で舗装された道を踏みしめる音もまた、彼の耳に優しく響く。
どうやら宛もなく歩いているわけでもないらしく、その歩みは実に確かで、力強ささえ感じられる。
「……ふぅ、着いた」
目的地に到着したのか歩みを止め、目線を目の前の家に合わせる。
ドアをノックする。
「マリターノです。コラの奴呼んでくれますか?」
「よぅ坊主、ちょっと待っとけ!」
中から骨太な声が聞こえ、続けてバタバタドスドスと玄関に向かってくる音がする。
少し間を置いて、
「すまん、遅れた」
そう言いながら顔を覗かせる男。
昼間、ユイと一緒に帰った男……コラ=ドゥラノワ。
眠いのか、目を擦っている。
「こんな時間に呼び出して悪いな。昼間だとどうしてもユイがいて話せなくてな」
「……手短に済ませよう。用件はなんだ?」
▽▲
現実から目を背け自らの命を絶とうとして。
息が出来ず命の灯火が消え行く様を感じ、醜くも死にたくないと思った。
あんなに死にたいと願ったのに、最後の最期で無様なものだ。
しかし、僕は死んだ。
次に目が覚めたとき、世界は一変していた。
周囲は木に囲まれて日光はささず、うつ伏せで倒れていたのか口の中まで入った土を血の混じった唾と一緒に吐き出す。
状況は一切不明で。
けれど、どうしてだろうか。
脳はやるべきことを明確に分かっていた。
「家に……帰らなきゃ…………」
頭は混乱していたし、体もどうしてか重かった。
帰るべき家族の顔も、性格も、名前さえもわからないのに、足は動いていた。村に……家に、帰らなくては。
何故か頭に残っている道を辿るけれど、そこには村なんてなく、ナニか強大な力で粉々に壊された村の残骸があるばかりで。
「そん、な……」
一瞬物凄い頭痛がし、それが止むとただ虚無だけが残った。
そんな、立ち尽くしてぼーっとしている俺に、たまたま通りかかった男が声をかけた。
「おいっ!そこの坊主!!こりゃあ一体どういうことだ!?」
後でロイ=ドゥラノワと名乗ったその男は、問答無用で俺のことを引き摺って質問攻めにしてきた。
身寄りがないことを察してか少しの間住まわせてもらい、こうして俺の新しい人生は幕を開けた。
どうやら僕は、転生してしまったらしい。