表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『七行詩集』

七行詩 161.~180.

作者: s.h.n


『七行詩』


161.


ベルが鳴り 同じ車両に 飛び込んだ


知らない貴方が 僕に笑った


“先に降りるよ さようなら”と


惜しみながら目を 合わせれば


嫌がることなく 此方を見つめ返してくる


きっとまた会うよ 同じ電車に


乗っていることに気づいたら



162.


君が一緒にいるのなら


そっとしておくのも 君にしかできない


誰かが世界の悲しみを 全て引き受けたって


あの空は すぐに泣き止みはしないだろう


思いのままに 泣かせてあげて


そして 呼ぶ声に 気づけるように


誰より傍に 居てあげて



163.


新築の明かりが 並ぶ街


向こうの空き地を見に行こう


僕らの城を建てるなら


この場所なんてどうだろう


全てが夢の 話でも


君には変わらず居てほしい


その純白の肌や心を 守り抜きたいと思った



164.


自由に孤独は付き物で


自らの手で 首輪を外したその時が


最初の孤独の始まりである


しかし たとえ貴方が 我慢強く


待っていようと 運命は


貴方との 出会いを待っていてはくれない


選ぶなら “自由”に呑まれぬ 旅人であれ



165.


夏の夜は 祭りの囃子 人の波


浴衣に声に 頬は色めき


この日のために 咲かせた花は


惜しまれながらも 散ってゆく


けれど 丹精を込め 願いを込め


目いっぱい 夜空に広げた 絵画なら


人の心に 刻まれるから



166.


名も知れぬ 嘆きや悲しみの嵐に


破れてしまった 傘のため


貴方が風雨に さらされるなら


疑わず どうぞ私をお呼びください


私は貴方の 屋根となり


あらゆる所業の 盾となり


その身を守って 差し上げたい



167.


底知れぬ 不幸や憎しみの最中(さなか)


壊れてしまった 愛のため


貴方が涙に 濡れているなら


その愛を どうぞ私に 向けてください


熱情が心を押し潰し


どんな罰より 重くとも


私が代わって 身に受けたい



168.


貴方がまだ 生涯一番の笑顔を


人には見せて いないのなら


この苦しみに耐え抜いた


私だけに 見せてください


貴方に多くを 望めないのは


こうも大きな存在を 留める器が私にないから


私が欲するものは ただ一つだけなのです



169.


あの場所で 過ぎた全ての 出来事から


遠く 一年が過ぎた頃


私は貴方を忘れるでしょう


電車に揺られ 居場所は揺らぐ


闇だけが嘆き 君は華やぐ


君が起こした奇跡を


紗幕の向こうに 見続けた



170.


車窓から 見える夜景に 浮かぶ目は


帰る場所には 何もない


僕を待つのは 遠い未来の


出来事だけだと 知っている


この目で貴方を 見たのなら


“それ”は今ではないのか と


先走ることを 咎めないで



171.


たくさん歩こう ゆっくり歩こう


この道に終わりが来ないように


傍を流れる景色も 貴方も


そそくさと過ぎてしまわないで


この胸に 描き写す間を くれませんか


そして貴方の 季節を一つ


私に預けてくれませんか



172.


この部屋に 貴方の姿が見えないと


ライトはそれだけの仕事しかせず


陰に呑まれる か細い光


けれど貴方を 照らすとき


明かりは一つで 十分です


貴方の持てる輝きを


照らし出し 華やかな色が 満ちるのだから



173.


いつも一番新しいものが


素敵に思える日があれば


いつまでも変わらないものが


素敵に思える日だってある


僕がここから居なくなれば


この場所は僕を忘れるのに


こんなにも胸は 苦しくなる



174.


安らぎは ついに訪れる ことはなく


今も解かれぬ 束縛の中


淡い一筋の 光に縋る


貴方を想い 鳴き続け


八日目を生きた 蝉ならば


この身に最後が 迫ろうと


必ずや 誇りをもって 受け止めるでしょう



175.


赤子が大声で泣くとき


無理に止めてはいけません


泣くのは自分を 見て欲しいから


生きていることを 確かめるように


それを周りに 知らせるように


だから貴方も 大声で


私を呼んでくれたらいいのに



176.


控えめで 丸く小さな 顔立ちに


髪を明るく 染めてみた


強い自分が 欲しいから


仕事に生きると 決めてみた


その純白さえ 作り物でも


望んで手にする その心は


こんなにも強く 美しいのだと 伝えられたら



177.


この針に 糸を通すよな 関係に


思わぬ誤解やすれ違いを 


一つでも 残したくはなかった


ひとりになるのは 怖くない

 

貴方を失うことだけが 何より一番怖かった


何かを与えてやれないなら


神はどうして 貴方の傍に 私を置いたのか



178.


朱い空 船の到着を 待つ頃に


世界を広げて 帰る貴方を


迎えることができるなら


港の風は 懐かしく また新しくもあるのです


もうどれだけの 夜を越え


潮風は 心の隙間に 吹きつけたか


待つ身は優しく また騒がしくもあるのです



179.


待つことに 意味などないと 知りながら


一人待つことの慰めは


自らが もたれた壁の ぬくもりだけ


もし君が 時間通りに 来たとして


予報通りに 雷雨に見舞われ


二人の胸を冷やすだけなら


君が来なくてよかったと 思っているよ



180.


恋しさに 傷み流れる この涙が


貴方の血となり その全身に巡ればいい


そしてまた 私のために泣いてください


その一滴が 養分となり


胸に芽生えた 苗を育て


やがて樹になり 木陰に二人を憩わせるまで


恵みの雨を 降らせてください




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ