少女は絵本を読んでいた
風邪をひいてしばらくダウンしていましたすみませんでした( ;∀;)
思い出した約束の場所。
そこにはきっと彼女がいる。
遠い昔にした約束、忘れても心の奥で残っていたもの、だから僕は約束を守らなければならないんだ。
たどり着いた約束の場所に彼女は立っていた…その手には赤い鮮血に染まった…カッターナイフを持って…
ある日、眠りについた僕こと、上春光也は夢を見た、そこはどこかよくわからない場所、そして懐かしいような初めて見るようなそんな気にさせる一本の木がそこにはあった。どこか心地よく感じるその場所は一体何なのだろうか?
そこから続きを見ようとするが、遠くから聞き覚えのある声が光也の意識をどこかに引っ張っていく…。
……き…な……さ…い
お…き……さい……さ…ですよ…
「起きなさい、朝ですよ」
次の瞬間、視界に光が入り込んでくる。
「ふはぁぁぁぁぁぁ」
変な夢から覚めたせいか体がだるい、それでも無理やり起き上がるとあくびをしながら伸びをする。
「早く起きなさい学校に遅刻するわよ?」
声が聞こえた方を向くと、そこには夏森杏奈という光也の養母が立っていた。
「おふぁようございます」
寝ぼけた顔で声にならない声で朝の挨拶をした僕はベッドから出てリビングに向かった。
「それじゃ…私仕事行ってくるね」
杏奈さんは、それだけ言うと家を出て仕事に行ってしまった。
朝食を取りつつテレビを見ていると気になる情報が入ってくる。【続いてのニュースです。半年前に起こった、殺人事件の続報です………】とアナウンサーが淡々と読み上げつづけている。しばらくニュースをなにも考えずにみていると。
「おーい光也、学校に行くぞ」
と、玄関から許可もなく家の中に誰かが入ってくる、入ってきたのが誰か確認をする前に張本人が僕の目の前に現れる、視界に入ってきた男は僕の親友の田端雅之だった。
「おい、なんで人の家の中に勝手に入ってるの?」
「まぁまぁ、気にするなよ」
雅之はそう言って、パジャマ姿の光也を見ると、何を思ったのかは知らないが人の家のリビングであおむけになりくつろぎ始めたのだ、そんな雅之の様子をため息をつきながら見ていた光也は自室に戻り準備を始めるのだった。
「悪い…おまたせ」
制服に着替えた光也はくつろいでいる雅之に声をかけた、よく人の家でそこまでくつろげるものだと感心していると雅之は立ち上がり光也と共に家を出た。
住んでいる家から学校に行くには、電車を一本乗らなければならないので走って駅に向かうと、すでに踏切の耳に響くサイレン音が鳴り始めていた。
「やべっこれ乗り過ごしたら遅刻だ、スピードあげるぞ」
「えーマジかよ…」
僕の返事を聞かずして雅之はさらにスピードを上げ距離が広がっていく。それに追いつくべく、光也も息を切らしながらもスピードを上げ距離を詰める。
スピードを上げたおかげかなんとか、電車に乗り込むことが、『駆け込み乗車はお止めください』と聞こえた気がしたが間に合ったので結果オーライである。
「はぁ…ぁ…何とか間に合ったな…うぇ…吐きそぉ…」
「当たり前だ、いきなりあんなスピードで走り出すからだ…」
「言っとくが…俺も…かなり…体力はない方だぜ…」
「あのな…僕なんかお前と違って勉強もできないんだからな…」
そう、何を隠そう雅之は超エリート中のエリート、成績も学年首位であり、しかも誰が見てもイケメン思えるほど整った顔立ちをしている。それが今光也の隣で話している男なのだ。
「なぁ…光也一つ相談してもいいか?」
それでも光也は知っている、彼の唯一残念な部分を…
「どうして、俺彼女ができないんだろうな?」
「お前…それ嫌味か…」
光也だけが知っている雅之の唯一の短所…それは人からの好意にかなり鈍感なのである、それ故に彼に好意を向ける女子はかなりいるのだが、本人は無自覚というのが彼に彼女ができない一番の理由なのだ。
「なんだよ、嫌味って…」
「別に…顔はイケメンなんだからお前がそう言うと嫌味にしか聞こえないんだよな…」
「はは…これでも結構悩み事とかあるんだぜ」
「知ってる」
そろそろ周りの視線が怖くなってきたので視線を向けると、雅之もそれを察してくれたのかしずかになる、電車の揺れでバランスを崩さないようにつり革を握りながら、窓の外の景色をジッと眺めていると、学校のすぐそばの駅に到着すると、同じ高校の制服を着た人たちが、ホームに降りていく。
「ほらっ行くぞ」
雅之に背中を押された光也は電車を降り、改札を抜けると自転車で走る同じ高校の生徒や、電車ではなくバスで来たものもおり道路を列になり歩いているそれはまるで小さな波のようになっていた、光也たちもその波に乗るように列の中にはいり、駅から学校までおおよそ五分という道のりを歩いて行った。
学校に着くと何やら校内が騒がしかった、何事かと思った光也は思考を巡らせる。
……記憶が確かなら、このクラスは陰気な奴らの集まりで、こんなににぎわうことなんてない筈なんだが…
いつもと違う異様な光景の中で棒立ちになっている光也にクラスメイトの一人が近づいていてくる、不思議なことだか普段は陰気を貫いている奴の筈なのに今はバリバリな陽気な奴に見えるほどだ。
そいつは光也の前に立つと普段とは明らかに違うテンションで
「お前知らないのか?今日転校性が来るんだよ…しかもな…女子で可愛い子らしいんだ」
それだけを言うと、またクラスの輪に中に戻っていった。
「転校生か…」
独り言にもならない声で呟くと普段とは違う異様な空気に耐えられなくなり光也は教室を出た。
教室を出て向かったのは、職員室前にある図書室だった。この学校の図書室は気前がいいのか、朝休憩から開いている。クラスに友達のいない陰気な人にとっては、これ以上最適な時間を潰せる場所はない。
そう考えつつ図書室に入ろうとドアをスライドさせた時だった。
ガラッと心地のいい音が室内に響く。
「あっ…」
部屋の隅で一人の少女が驚いた顔をして立ち尽くしていた。その手には、三歳児向けの絵本がある、多分様子を見るに熱心に読んでいたところだったのだろう…悪いことしちゃったかな…と反省しつつ頭をぽりぽりとかいていると
「ちっ違うから!弟に読み聞かせしようと思っただけだから!別にはまって読んでたとかじゃないから!」
「いや今自分で…」
光也がそう言うと少女は顔を赤くして黙り込んでしまった。
「あー、なんか、ごめん…」
しばらく気まずい空気が流れた。その雰囲気に耐えられなくなった光也は一歩後ずさりながらドアを閉めると全速力で教室に戻った。
……なんなんだよ…朝から…異様な教室…絵本を読む女子高校生…
ついさっき起こったことを頭で処理しているとチャイムが鳴った、そしてむさ苦しい五十代の担任と一人の少女が入ってくる…が処理を終えた脳が疲れを訴えていたので机に伏せる、しばらくそうしていると睡魔が一気に襲ってくる、徐々に先生の話が遠くなっていくのを感じつつ、教室内がうるさくなるころには光也は眠りの世界に入っていたのだった。