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寝子はお話が好き

「やっと午前終わったー! よしこれでサボれるぞー!」


翌日の四限終了後。

俺は先生が教室から去るのを見計らってイスから立ち上がりガッツポーズを取った。


「あ⋯⋯」


しかし思い出す。

昨日俺は「明日はサボらない」と自分で言ったことを。

俺は心の中で葛藤した。

保健室に行けば寝子がいて、また寝子と接しなきゃいけなくなる。別にそれはいいのだが、俺が寝子とは接しない方がいいと決めたんだ。だから会うわけにはいかない⋯⋯!


「くそ⋯⋯!保健室に行けば寝子が⋯⋯!」


「なにしてんの?」


「うがあーっ!!」


突然背後から声をかけられ頭を抱えていた俺は教室内で大声を上げた。

周りからの奇異の視線が痛い。


「ってなんだよ桜かよ⋯⋯、脅かすなよな」


日向桜。俺の同級生で、同じクラスの女子だ。桃色の髪にくりっとした目、なかなかのプロポーションで可愛らしい印象を与えそうだが、見た目は完璧ギャルで、校則違反の常連客でもある。

だが俺はこいつは根は真面目だと思ってる。出された宿題はちゃんとやってくるし、頭だっていい。

俺がそんなことを考えていると桜が頬を膨らませて言う。


「桜かよって、あんたそれはないでしょ! っていうか今日はサボらないわけ?」


「はっ! そうだったそれをどうするか俺は今悩みに悩んで⋯⋯!」


「あんたも大変そうね⋯⋯。サボらないならご飯食べ行くわよ」


そう言うと桜は先々歩いて行ってしまった。頭を抱えていた俺は追おうとしたが、あることに気付き足を止める。


「あれ? そういえば、司は?」


「俺のことかな?」


「きゃーっ!」


またも背後からの声に俺は女の子のような悲鳴を上げてしまう。

本日二度目の奇異の目が痛い。


「だから桜もお前もなんで背後から突然来るんだよ!」


結城司。紺色の髪にすっきりとした爽やかイケメン。こいつも俺と同級生で同じクラスの男子。勉強できる運動できる、しかもバスケ部の部長で、身長185cm。働きに出れば、女に好かれる3Kを揃えるであろうごく稀な、非の打ち所のないやつだが、一つだけ難点がある。


「ごめんごめん。――お、桜は今日もいいおっぱいだね。貧乳だけど」


「また言うかこの変態! いい加減その変態発言止めたら!?しかもさりげなく貧乳とか言うな!」


司の難点。それは女子へのスキンシップが激しいということだ。いや、これはスキンシップとは呼ばない。ただ一方的に変態発言してるだけだ。

桜だけに言うかと思ったら大間違い。校内で可愛い女性を見たりするとすぐに口説こうとしたり、いろいろと危ないやつだ。

イケメンだからいいと思ったら大間違いだぞ!

頬を染めて言う桜に対して、司は爽やかな笑顔で謝辞を述べた。


「ごめんよ。それでどこに行こうとしてたの? 健は今日もサボり?


「それが聞いてよ司! 今日はサボらないんだって!」


「へぇ、それは意外だな。なにかあったの?」


「いや、ねぇよ」


俺は寝子のことはここでは言えないから、視線を逸らし誤魔化す。


「そうなんだ。ねぇ、私お腹減っちゃった。早く食堂行こー」


「俺もお腹が空いたよ。ほら、健も行くよ」


「お、おう」


桜と司に声をかけられ渋々俺もあとをついて行った。




△▼△


俺たち三人組は既に食堂で飯を食べ終え、教室の窓側に座り、涼みながら昼休みを満喫していた。


「健がサボらないなんて、今日は何か起こるんじゃない?」


うちわで自分の身を扇ぎながら桜が言う。それに続いて司も口を開く。


「そうだね。健がサボるのはもうこのクラスでは当たり前のようになっているからな」


「そ、そういうときだってあるだろ。何か起こるって、大げさに言うなよ」


俺は2人の言うことを否定するような口調で言った。ちなみに俺はこの時もまだ保健室行くかどうか葛藤していた。2人には必死に隠しているため、バレてはいない。だが、多少なりともサボらないことに理由があると思っているはずだ。


「まぁ、たしかにそうね。あ、そろそろ5限始る時間。私支度してないから早くしないと」


「俺もだ。健もサボらないなら5限の準備早くした方がいいよ」


そう言って俺を置いて2人は5限準備をするため、廊下のロッカーに向かっていった。


「俺も5限の支度するか」


そう呟き、俺も教室から廊下へと出た。




「結局来ちまった⋯⋯」


5限開始を知らせるチャイムが鳴ったとき、俺は保健室の扉の前へと立ち尽くしていた。

5限の準備をするため、俺はロッカーの方へと向かうはずだったが、気がつくとここに立っていた。もう癖みたいになってるのかもしれない。

保健室の扉を開け中に入る。すると、こっちに気がついたようにあかりちゃんが言う。


「今日はいつもより来るのが遅かったな」


「ちょっと行くかどうか悩んでてさ。まぁ結局来ちゃったけど」


俺がそう言うと、あかりちゃんは「ほう」と目を細めてから言った。


「寝子のことが気にかかっているのか?」


その核心に触れた問いに、俺は一瞬だけ戸惑う。しかし、その一瞬の戸惑いをあかりちゃんは見抜いていた。


「図星か。寝子がどうかしたのか?」


「いや⋯⋯もう寝子には関わらない方がいいかなって思って」


「何をマイナス思考になってるんだ。君以外に誰が寝子と関わるんだ。君がいなくなったら寝子は独りになるんだぞ?」


「まぁたしかに⋯⋯」


できることなら、もっと関わってもいいと思う。だけど、何か関わったら嫌な予感がするんだ。


「どうせ今日もサボりだろう。幸か不幸か、今日も保健室には君以外いない。好きにするといい」


「そうさせてもらうよ」


そう言って、俺は迷ったが結局1番端の――寝子がいる場所に近いベッドを選んだ。

昨日と同じようにベッドにダイブする。

保健室のベッドは家のベッドと違って少し硬い。もっと寝やすくしてほしい。

そんなことを考えながら、俺はベッドに横になってからしばらくの間眠った。

それなりの時間眠った後、俺の目は覚めた。


「結構寝てたな⋯⋯」


身体を起こして少し伸びをする。壁に立てかけてある時計を見ると、授業時間の半分以上は眠っていたと分かる。そして俺はふとおもいだした。


「そういえば寝子は⋯⋯」


「なに?」


「うわっ!」


突然の寝子の声に、俺は身体をビクつかせる。

いつも思うが、俺は突然声をかけられたりするのに弱い。その証拠に、桜や司に話しかけられたときもめっちゃビビってたし。まぁ、そんなのはどうでもいいか。


「な、なんだ寝子。いつからその状態でいるんだ?」


今の寝子の状態はカーテンの隙間から頭だけをちょこんと出し、こっちの様子を伺っている状態だった。可愛いなおい。


「健が目を瞑った頃かな? ずっと見てたよ」


「まじか⋯⋯。俺ずっと寝顔見られてたのかよ」


今更になって恥ずかしくなってきた。

口開けてたりしてだらしない寝方してないだろうな、俺!


「ねぇ、健は今日もおサボり?」


「ああ、そうだよ」


「そうなんだ」


寝子はそう言うと、カーテンを開け、俺のベッドの方に侵入してくる。そして手を上げ――そのまま振り下ろす。俺は殴られると思い、反射的に目を瞑った。


「めっ」


「いたっ」


しかし、俺の予想は大きく外れた。寝子は握り拳を作ると、俺の頭を優しくポンと叩いた。反射的に「いたっ」という声が漏れたが、全く痛くはなかった。

俺は突然のことに唖然としてしまう。


「寝子? 一体どういうこと?」


「あかりんからおサボりは悪いことって教わったから、めっ、ってしただけだよ」


「な、なるほど⋯⋯」


俺は思わず唸ってしまう。

⋯⋯待ってくれ。それは可愛すぎないか? その見た目にその行動は反則級のダメージを俺に与えるぞ寝子!?

橘先輩がいなければ、危ないところだった!


「でも、おサボリはよくないけど、健がここに来てくれるのは嬉しい」


「どうしてだ?」


俺が聞くと、寝子は薄く微笑み、言った。


「だって健とお話ができるから。私、お話が好きなの。だから健とお話できるのがすごく嬉しい」


「そ、そうなのか。それはよかった」


まさか寝子からそんなことを言われるとは思わなかった。

俺とお話できるのが嬉しい? 寝子、嬉しいことを言ってくれるじゃないか⋯⋯。


「だから健、一緒にお話しよ?」


「え、あー」


俺は曖昧な答え方をする。

それも無理はない。俺の心が危ういんだ。これ以上寝子と話していたら、いろいろ危ない。橘先輩がいるにも関わらずだッ!

何か逃げる方法は――。

そう考えていたとき、ちょうどいいタイミングで5限終了のチャイムが鳴った。

俺は立ち上がり、寝子に言った。


「わるい寝子! 6限はサボらず出るからまた今度な!」


「あ、待って」


寝子に呼び止められるが、俺は構わず保健室から出ようとする。


「不良少年!」


が、寝子の声を振り切ったと思うと、今度はあかりちゃんに呼び止められる。


「な、なに?」


「SHRが終わったらまた保健室へと来てくれ」


「え? まぁわかった」


俺は何か用があるのかと思ったが、あえて聞き返さずそのまま教室へと向かった。

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