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暗くなった校舎裏にて

 さらに私は顔を近づけた。

「鈴とどんなことしてたの?」

 そして私が園田に囁くように問いかけると彼はまた頬を染めた。そして、急に顔色が悪くなる。今更ながら、自分が二股をかけたことに気がついたらしい。なんとも分かりやすい反応だ。

「ばれなかったらいいんだよ。私、園田のことほんとに好きだから」

 だから安心して。

 私の言葉を園田はそう受け取ったらしく、彼はまだ顔色が悪いながらも頷いた。敢えてさっきの言葉を私が補足すると「嘘だけど」が精々なところだ。

「俺も来馬さんのこと、ちゃんと好きだよ」

 どの口がそんなこと言うんだか。私にとっては都合が良いものの、鈴のことを考えると心が痛むような気がした。

 ごめん。鈴のこと裏切っちゃってる。けど鈴のことが好きなんだら仕方がないよね。この行為に罪悪感はもちろんあるけど、好きという気持ちから来た行為だし許される気がした。免罪符になるはずだ。

「鈴に負けたくない。だから今日、鈴となにしたのか教えて」

 私は彼の耳元でささやいた。


彼は私に言われるがままに、鈴と何をしたのか教えてくれた。

まず雨宮さんに手をとられた。

私も鈴と園田がしたように彼の手を取った。状況を詳しく聞くことも忘れない。指を絡めて手を繋ぐ。この行為を鈴とできたらどんなにいいことか。私は鈴と普通に手を繋いだことはあっても指を絡めあったことは一度もない。だって普通の幼馴染で、友達でしかないから。女友達同士で手をつないでふざけて指を絡めあっている子は何人かいたのに、私たちがしたことないのはなぜなのか。

 彼の手は分厚くて骨ばっていて、やっぱり男の人の手だった。私が求めているのは、夏でも白くて冷たそうな鈴の手だ。私は彼の指に自分の指を絡めて、必死に鈴の痕跡がないかを探した。

「来馬さんと手をつなぐの緊張するな」

 さっきキスしたのにね。

 なんて言って彼ははにかむ。実際に彼は緊張しているらしく、手が湿っていた。すべてが鈴と反対だ。

 そんなこと言われたって私から彼に返す言葉は「そうだね」とういう、一言だけなのに。私の疑似体験につき合わせて申し訳ない。ほんの少しなら私にだって罪悪感はあるの。だけど

「他にはどんなことをしたの?」

 私は彼をそっとせかした。辺りはもうだいぶ暗くなっている。これ以上暗くなったら、彼から鈴の痕跡を探すのに支障をきたすかもしれない。

 彼は私とつないでいた手をほどいた。そしておもむろに私を抱きしめた。

「私はどうしたらいいの?」

「俺の胸に頭を預けて、体に手をまわして」

 彼の言うとおりにして思ったのは、やっぱり男の人の体は固いという事だった。身長も鈴とは全然違うし、鈴の痕跡は全く見つからない。匂いだって全然違っていて、彼からは制汗剤であろう私のあまり好きではない香りがしていた。もう寒くなってきているのに制汗剤の香りがするのは、体育の授業があったからだろうか。

 鈴だったら柔軟剤の香りがしたんだろうな。あれは鈴の香りというよりは鈴の家の香りというほうが正しいのかもしれない。鈴の家族もみんなあの香りを身にまとっているような気がする。あの香りはなんとなく私を落ち着かない気持ちにさせるけど、好きなのだ。

「私ってどんな匂いがする?」

 気づいたら私はこんなことを口走っていた。

 私の耳のあたりで彼が笑っているのがわかる。ちょっとくすぐったいし、恥ずかしい。こんなことを他人に対して思える程度に自分は正常なのかと安心すると同時に、こいつはこうやって鈴に触れたのかと考えてしまう。私は自分のことより鈴のことが気になるのだ。やっぱり私はおかしくなってしまっている。

「あんまり匂いはしないよ」

 彼は匂いを嗅ぐように鼻を鳴らすとそう言った。

 雨宮さんとは違って、あんまり匂いはしないよ。なんとなく彼がこう言った気がした。もちろん私の思い込みだ。だけど、本当に彼がこう思ってくれていたらいいのに。

「こんな見た目してるから、意外に思った?」

「うん、意外」

 私はこんな言い方をするのはどうかと思うが、所謂、量産型女子の見た目をしている。周りになじむように髪色も校則に引っかからない程度に明るくして、制服も適度に気崩す。そして化粧もしっかりしている。そんな私はやはり香水でもつけていそうに見えるのだろう。

「自分から強いにおいがするのが好きじゃないの」

 だって、鈴の匂いがわかりにくくなる。本当は化粧もしたくない。化粧品の匂いは私の鼻をにぶらせる。

 化粧をして量産型女子になりきる。これは私にとってはそこそこ大事なことだ。なんとなく自分という存在を鈴と対極の位置に持っていきたくて、何にも左右されない鈴の対極について考えるとここに行きついた。そこそこという表現を使っているのは私にもこれが正しい考えなのかがわからないからなのだが。

 どうでもいい考え事を切り上げ、私は彼の体に回していた手を外して彼から離れた。

「もう暗くなったから、今日は帰ろ」

 熱源から離れた私の体は少しずつ冷えていく。なんだか少し寂しい気がした。

 暗くなっていてもう園田の表情は見えない。向こうからも私の表情は見えていないだろう。

 私はただ単純に人肌が恋しかっただけなのかもしれない。だから触れられない鈴の代わりに園田にこんなことを持ちかけたのだ。

 私にだって間違っていることはわかっている。

 この表情を誰にも見られることがないことに私はそっと安心するのだった。

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