冴えない男のプロローグ
ゆったりですが頑張ります。
2XXX年、1人の冴えない男によりある偉業が成し遂げられた。
その冴えない男が産まれるずっと昔、その男の祖先であるこれまた冴えない男はどうしようもなくオタクであった。
この男をAと呼ぶ事にしよう。
そのAは、日々栄えつつあるオタク文化の中でも「異世界」を舞台とするジャンルが好きだった。
冴えない主人公が異世界に行くことで花開き、最強の名を手にする、というような現実では絶対にありえない夢のようなシチュエーションに自分を投影し、その快感に酔いしれては現実を嘆いていた。
次第にAは異世界という都合のいい妄想と、現実という優しくない現状との区別が出来なくなっていった。
異世界は現実に存在すると信じ切ってしまった。
異世界に行きたかった。
しかし、どれほどに異世界を想っても所詮それは空想の世界でしかなく、結局生涯Aは異世界に行くことは叶わなかった。
それから100年と少し、現代日本は飛躍的に科学が発達していた。
そんなおり、ある冴えない男の庭から1冊の日記が発見された。
それは異世界という空想を求め、信じた男の、ただの妄想に過ぎない物語が書かれただけの、日記と呼ぶのも烏滸がましいようなものだった。
しかし、世代を越えても冴えない男同士。何か通ずるものがあったようで、ここ最近では異世界モノのストーリーは衰退してしまっていたにも関わらず、その日記を手にした男もまた、異世界という理想を詰め込んだ場所に想いを馳せることとなった。
そこからの男の行動は、それまでの冴えなさをまるで感じさせない程に欲望に忠実で、それでいて確実にその欲望を現実に近づけていた。
その男は科学者でもなんでもないただの男であったが、進化した現代の科学とその男のろくでもない熱意によって何故か完成してしまった。
そう、異世界へと通じうる扉が。
しかし、男はその扉から先へ行くことはしなかった。なぜなら、その身一つで異世界へ行けたところでそれは今となんら変わりない日常を過ごすことになると気付いていたからだ。
チートだ。チートが欲しい。そのチートで異世界ではチヤホヤされて生きたい。
男の欲望はとどまることを知らなかった。なまじ異世界への扉を造り上げただけあり、その男は自分にはその欲望をカタチにすることが出来ると確信していた。
そしてそれは現実のものとなる。
その男自身を犠牲にして。
冴えない男「喋らなすぎて口の中がパサパサするよぉ」