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第二話「龍人の少女」

 エストスやレイミアたちのおかげで連絡をとることができた俺は、彼らが迎えに来てくれるまでの一か月の間に魔道書の欠陥を修理できる可能性を持つ『女神の心臓』をこのドーザという町で探すことになった。

 だが、目の前には魔王軍が狙っていた物だからと同様に『女神の心臓』を探す、俺のことが大嫌いなクソ勇者がいるわけで。


「なあ、目的は二人とも『女神の心臓』なわけだろ? だったら別々よりも一緒に探したほうが効率がいいんじゃないのか?」


「そんな問題ではない。仮に見つけたとしても、君は魔王軍幹部と繋がっている。魔王軍が『女神の心臓』を狙っている以上、僕はその企みを阻止する必要がある」


「だ、か、ら‼ 俺は魔王軍の味方じゃなくて、シアンの仲間だっての! 所属とかないから!」


「僕は魔王軍の敵だ。そして君は魔王軍幹部の味方だ。所属がどうであれ、君と手を組む理由にはならない」


「あああぁぁァあああ‼‼ 腹立つゥぅぅう!」


 あまりにも頭が固いクソ勇者のせいで思わず声を荒らげてしまった俺は、その声に全てのストレスを乗せて放出してから、さらに深呼吸をして心を落ち着ける。

 こいつとここで喧嘩をしても意味なんてないんだ。むしろ、敵と出会ったときにこいつが味方なら誰にも負けない。ここで怒りに任せて別行動は避けるべきなんだ。

 落ち着け。今年で二〇歳だろ、俺。大人になるんだ。


「じゃあ、こうしよう。見つけるまでは一緒に行動して、見つけたらまたそれをどうするか話し合う。一旦、見つけてからのことを保留にしよう」


「では、『女神の心臓』を僕とお前が手にする前に、またこうして無駄な話をするわけか」


 危ない。ぶん殴るところだった。

 もう一回、ふか~く深呼吸。


「ああ、そうなるな。いずれにせよ、ここで無駄に話を続ける必要もないだろ」


 数秒、地面を見つめて考える時間を空けてから、


「……わかった。では一時休戦だ」


 そう言って、アルベルは立ち上がって焚き火を足元の砂を軽く蹴って消すと、近くに置いてあった自分の荷物を持ち上げる。


「ならさっそく探しに行くぞ。ついさっきまで魔王軍が攻めてきていたんだ。どこに残党がいるかも分からないし、未だに『女神の心臓』を狙っているやつが潜んでいるかもしれない」


「ちょ、早いって。待てよ」


 もうすでに歩き出していたアルベルを追うように、俺はすぐに立ち上がって彼を追いかける。

 説明もなしに歩き出したアルベルの行き先すら知らない俺は、黙々と歩くアルベルの横から覗き込むように問いかける。


「お、お~い、アルベルさ~ん? どこに向かっているんですかね~?」


「ドーザの東側だ」


「東……? どうして」


「このドーザは、機械の発達によって町の規模が著しく広範囲になった場所だ。そして、ここはドーザの西側だ。魔物の進行が西側からだったから、僕はこちら側を重点的に見回りをしていたんだ。だが、あれだけ町が壊れても魔王軍が『女神の心臓』を回収した様子がない。ならば、東側にあると考えるのが妥当だろう」


 どうしてそれを先に言わないんだ、とか言うとまた喧嘩になりそうなので横ですっごい腹が立つような変顔を決めてやった。

 とてつもなく不快そうな顔をしたアルベルを見て少しすっきりした俺は、周りをキョロキョロと眺めながら歩き続ける。

 魔王軍の進行があった場所だと理解するには十分すぎるほど壊れていた。地面に転がっている魔晶石の欠片のようなものも、横を歩くクソ勇者が倒した魔物たちが落としたものなのだろう。


 そして、魔晶石だけでなく、町中には壊れた警備ロボも転がっている。大きさも小さいものから大きいものまで幅広く、形は基本はドラム缶だが、掃除機のような形をしたものなど、多種に渡っていた。

 動力源が魔晶石ということは、転がっている魔晶石の中にも壊れた機械から落ちたものもあるのだろうか。


「そんなに機械が気になるなら、被害の少ない東側にはまだ壊れていないものがあるはずだがら、それを見るといい」


「はいはい。そーですねー」


 そして、適当な返事をしてから、五分以上の無言タイムが訪れた。本当に俺もアルベルも、一言として口にしていない。

 どうしよう。なんだこの変な空気。やっぱり時間かけてでも一人でやるべきだったか? いや、こいつを敵に回す面倒さを考えたら耐えるべきなのか?


 なんだか考えていたら頭が痛くなってきた。

 シアンみたいに空気を気にせず声を出せるような平和な馬鹿がほしい。

 悩みながら、俺はぼーっと遠くを見ていた。

 すると、俺の視界に何かおかしなものが映った。


「……なんだ、あれ?」


 目を細めてよく見てみる。

 なんだかぐちゃぐちゃした巨大な……波? それにしては濁った灰色だ。なら、あれは。


「お、おい。あれってもしかして」


 広いはずの町の道を埋め尽くして進むようなそれは、間違いなく機械だった。

 遠くから、夥しい数の機械が濁流のようにこちら側に向かってきていた。

 そして、


「うぎゃぁぁあああああああ‼‼‼」


 その先頭を、少女が泣き叫びながら走っていた。


「……助けた方が、よさそうだな」


 アルベルが剣を抜いたのを見て、俺も拳を構えて応戦の準備をする。

 機械を撃退しようとしている俺たちを見た少女は、死に物狂いで走りながら叫ぶ。


「た、助けてくださいっすぅぅぅうううう‼‼」


 さらに速度を上げて、機械から距離を取った少女は、俺たちの目の前まで走ってきた。

 そこで、俺とアルベルはようやくその少女がただの人間ではないことに気づいた。

 赤黒く、力強い曲線を作りながら天を向く二本の角。肩甲骨から生える、未熟ながらも強靭に見える翼。シアンとは違い、毛に覆われていない尻尾。

 体そのものは人間なのだが、人間以外の特徴に自然と目が移ってしまった。


「き、君は……」


「確かに! 急にこんな大量の機械を引き連れてきた私に訊きたいことはたくさんあるでしょうが、まずは助けてもらっていいっすか!? もう逃げる体力なんて残ってないっす! マジで! なんでもしますから! 助けてくださいっす‼」


 なんだこのマシンガントーク!? でもまあ、この子の言う通り、まずはこの機械をどうにかするべきだよな。


「おい、クソ勇者。とりあえずこの機械たちをぶっ壊すぞ」


「……仕方ない。町の人たちに頭を下げに行くときはお前も連れていくからな」


 堅物すぎるのは本当に悩みものだが、今は気にする余裕もない。

 俺とアルベルは少女の横を抜けて、機械と相対する。

 後ろで不安そうにしている少女に、俺はそっと声をかける。


「まあ、君は安心してそこで待ってくれ。なんとかするからさ」


「あ、ありがとうっす!」


 嬉しそうな顔を見て、俺はまた正面を向く。

 相手は考えなしに突っ込んでくる機械たちだ。

 だったら、細かいことは考えずに力でゴリ押しだ!

 アルベルも同じ考えをしているのか、剣に魔力を込めてもう振り上げていた。


「行くぞクソ勇者!」

「分かってるよ、大馬鹿野郎!」


 俺は拳を全力で振りぬき、アルベルは剣を全力で振り下ろした。


「うらぁぁあああ‼」

「【会心の一撃(クリティカルヒット)】‼」


 ドァァァアアアアアアッッッ‼ という爆音とともに、アルベルの剣から放たれた光の太刀が地面を抉りながら突き進み、俺の殴ったことによる衝撃波もそれをおいかけるように機械たちに向かっていく。

 そして、機械たちに到達した俺たちの攻撃は、猛スピードで進む機械たちの進行を一撃で止め、次いでそれをバキバキと音を立てながら押し返していく。

 そして、バギャア! という鈍い音が響き、押し返された衝撃でそれぞれが絡み合って連鎖的に壊れ、機械たちの動きが止まった。


 一気に静まりかえる町の中で、目を輝かせてながらパチパチと手を叩き始めたのは、機械から逃げていた少女。


「す、すごい! 凄いっす! あんたたち、半端ないっすね!」


「え、えっと。それで、君は……」


「あ、そうでした! 命の恩人に名も名乗らないなんて恩知らずもいいとこっす!」


 そう言うと、少女はビシッと姿勢を正して、


「私、ラキノって名前っす! 最近、魔王軍の下っ端になった龍人ドラゴニュートっす!」


 なんだか、このラキノって子が言ってはならない言葉を次々と口にしたのは、気のせいだろうか。

 ほら、何も言わずにアルベルが剣に手をかけ始めているじゃあないか。

 ああ、これが前途多難ってやつか。

 まずはラキノって子をこのクソ勇者に殺させないようにしようと、俺は思った。


~Index~

【ラキノ】

【HP】800

【MP】700

【力】 150

【防御】120

【魔力】150

【敏捷】120

【器用】90

【スキル】【????】


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