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プロローグ

 風が、やけに乾いていた。

 遅れて、目に光が射した。

 ようやっと脳がその景色を景色として認識してくれた。

 だが、おかしい。俺はずっと、あの城の中にいたはずだ。

 どこだ、ここは。


 足元を見た。明るい茶色をしたさらさらとした砂があった。どこからどう見ても、先ほどまで踏んでいた床とは別物だった。

 前を見た。どうやら町らしいが、人の気配はなかった。町は廃れていた。いや、つい最近壊れたようにも見える。少し遠くでは煙も上がっていた。何かに襲われて、壊されてしまった直後なのだろうか。


 さらに、町の中に俺の見慣れないものがあった。あれは機械……なのだろうか。

 所々が錆つきながらも、銀の光沢が残るドラム缶の形をした物に二本の腕らしきものが付いていた。

 そんな機械のようなものが、壊れた町の中に点在していた。


 そのように状況を見てようやく、俺の頭の思考が復活する。

 そうだ、魔王は。シアンは。エストスは。

 どうなったんだ。無事なのか、それとも。

 考え始めた途端に焦りと不安が込み上げてきた。どうにしかして彼らと安否を確認して、早く合流しなければ。もしかしたら、スワレアラ国で今もメリィが暴れているかもしれないのだから。


 しかし誰かに話しかけようにも、人気が無いためそれも叶わない。

 焦ってはダメだ。落ち着いて、少しでも早くシアンたちと会う方法を考えるんだ。

 まず確認するべきは、現在位置。

 話しかける人がいないのなら、俺にはとっておきがある。

 テレポートでこの場所まで来たから少しだけ不安だったが、腰にはちゃんと魔道書があった。

 過去に取得したスキルのおかげで、指定のページを見るだけで地図を確認できる。


「確かあのページは……」


 ペラペラとページをめくっているうちに、そのページへと辿り着いた。そこにはこの町と、その周囲の地形が写し出されており、その中心に黒い点が一つだけうたれていた。

 だが、このスキルで見える範囲にスワレアラ国の王都や、スタラトの町はなかった。一応エルフの里も見られない。

 どうしたものかと悩んで一つページをめくってみると、さらに縮小された地図が現れた。

 だが、その地図には前のページでうつされたものが小さく中心に描かれているだけで、その周囲は白紙だった。


 元々、このスキルが行った場所を地図として記録するものなので、俺の行ったことのない場所なのだろう。

 何ページかめくってみると、俺の位置を示す点と縮小していく地図が同じくらいにまでの大きさとなり、かなり広範囲の地図となった。そしてようやく、白紙のページの上部のそのまたわずかな部分に森のようなものが見えた。


 森……か。俺が今まで行ったことのある場所だとすると、エルフの里の周辺と考えるべきか。

 しかし、これだけ広範囲の地図の隅にエルフの里ということは、王都どころかスタラトの町にも自分の足で辿り着くのは困難だろう。

 なら、まずはこの廃れた町で誰かに事情を説明して馬車か何かを借りるか。一番はテレポート能力を持つ人がいればいいが、そんな都合良く話が進むわけはないだろう。


 とりあえず、進んでみないことには話は始まらない。

 少しばかりの歩きにくさにイラつきを覚えながらも、俺は人気のない焦げた匂いのする町の中へと歩いていく。

 どうやら町の中の道は舗装されているようだが、それもさらさらとした砂で覆われてしまっていた。だが、表面のみしか砂がない。

 やはり、つい最近までは使われていたようにしか見えない。

 俺が視線を送ったのは空へ立ち上る、灰色の混じった白い煙だ。もしかするとまだこの町に残っている人が焚火か何かをしているのかもしれない。


 周囲の家の中をちらほらと覗きながら、俺は歩を進めていく。

 町の中心に向かって少し歩くと、煙を作っていた枝などが今もなお燃えていた。

 これは火事ではなくて本当に焚火だ。ということは誰かがいるということ。今は誰もいないが、ここにいれば誰かが戻ってくるかもしれない。

 待とうと思って近くにあった瓦礫に腰を掛けたと同時に、後ろから声がした。


「おや、まだ避難していない人がいたんですか? もう魔物はいないはずですが、まだ危険が全て排除できたわけではないので、用がなければすぐに移動を……」


 それは爽やかな、青年の声だった。

 どこかで聞き覚えのある声だな、とそう思った。

 それと同時に、どこか嫌悪感にも近いものを覚えた。

 なんだろう、この感覚は。そう思って、振り返った。


「お前……ッ‼」


 そいつの顔を見て、俺は思わず声を漏らした。

 同様に、俺の顔を見たそいつも目を丸くしていた。


「どうして、お前がここに」


 その青年を一言で表すのなら、『正義』だった。

 揺らぐことのない信念をその中心に宿し、その体を青い装備で覆う彼の名前を、俺は知っていた。

 そして、俺は思わず口にしてしまった。

 決して忘れることの出来ない、彼の名前を。


「アルベル=フォールアルド……!」


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