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第四話「白金の冒険者」

 なんだ。穏やかじゃないな。

 お姉さんが驚いて言葉が途切れてしまっているところを見ると、普段からあるようなことではないようだ。

 お姉さんも気になっているようなので俺もそちらへと視線を向ける。

 どうやら酒に酔った男が騒いでいるらしく、周りの人達はもめ事は避けたいのか我関せずといった感じだ。

 ただ、実際にその泥酔した男の被害にあっている人もいるわけで。

 よく見てみると、絡まれているのは二人の女性のようだ。

 首を突っ込まずにはいられない。


「すいません。ちょっとあっち行ってきます。シヤクも、ちょっと待ってて」


「え? い、いや。でもあの人は……」


「心配しなくても大丈夫ですよ。俺、体は丈夫なんで」


「あの、そういうわけでは……」


 心配してくれているお姉さんには悪いが、ああやって困っている人がいたら助けるのが俺の決めたことだ。

 俺は受付から歩いて、酒場の席の中へと進んでいく。

 近づいてみて、泥酔した男が絡んでいる二人がはっきりと視界に映った。


 一人は青い長髪で、シアンやシヤクよりも少し体が大きい、大体中学生くらいの少女だ。

 しかし、なぜかその矮躯には不釣り合いな大きいローブを羽織っているため、袖が三〇センチ以上もあまっており、下は膝まで垂れていた。

 さらには眠そうに机に突っ伏しており、絡まれているその怒号が耳障りなのか、少し不機嫌そうな顔をしていた。


 もう一方は青髪とは対照的で、座っていても高身長が分かるほどに女性にしては体が大きく、その体にぴったりとあった鉄の装備の間から見える筋肉質なその体は相当な鍛錬がそれだけでも見て取れた。

 白い短髪のその女性は、大きい自分の身長と変わらない大きさの大剣を背負っており、これまた絡まれているのに動じることなく腕を組んだまま、男の声を無視していた。

 どちらにせよ、迷惑していることは確かだろう。


「ちょっと。酒に酔うのは勝手だけど、その人たちも周りも迷惑してんだろ。大人しくしてろよ」


「ああ!? なんだお前は!?」


「ようやく無職から抜け出した冒険者ですよろしく」


「なんだてめえ。……ん? お前、まだ銀のクイネなんかぶら下げんてんのにこの俺様の邪魔をするってか!?」


 そういうと男は自分の首にかかっていた金のクイネを俺に見せつける。

 なるほどな。中途半端な実力があるとこんなにも驕るのか。俺も気を付けないと。


「だったらなに」


「俺様は遠くの町で金のクイネまでランクを上げてこの王都まで来た! 地元じゃあ俺よりも強いやつは一人もいねえ! てめえごとき銀が口を出すんじゃねえよ!」


「いや、だから俺は周りの人が困ってるから静かにしろって言ってんだけど」


「なんだと!? やろうってのかお前!?」


 多分、この男には負けないだろうが、こうやって下らない喧嘩に力を使うのはいかがなものだろうか。

 そう思っていると、横から声が聞こえた。


「……そこまでにしろ」


 声を発したのは、大剣を背負った白髪の女性だった。

 ただ、怒るというよりは店で騒ぐ子どもをなだめるような柔らかみを含むような声だった。

 俺たちのことを見ることすらなく、白髪の女性は目の前にある飲み物を一口だけ飲んだ。


「それ以上は怪我をする。やめておけ」


 その言葉を聞いて、泥酔男は吹き出しながら、


「だってよ、この銀クイナ野郎! 死ぬ前にさっさと失せな!」


 なんだってんだ。この二人も困ってるんだろうに。

 そもそもこの男ぐらいの攻撃なら怪我なんてしないから大丈夫だ。


「お前も一緒にどっか行くってなら今すぐにでも失せるさ」


「なんだとゴルァ⁉︎」


 泥酔男の挑発に対して大きなため息を吐いたのは、青髪の少女だった。

 机に突っ伏していた顔を上げ、やる気のなさそうな力の抜けたジト目で、こちら側を睨む。


「……馬鹿ってどうすりゃ治る、ラディア」


「私に訊くな。言っても分からないなら私に出来ることはない」


 落ち着いた声で、ラディアと呼ばれた白髪の女性は言った。

 なんとなく、違和感を覚えた。

 ちょっと待てよ。

 この二人、さっきの怪我をするって言葉、一体誰に対して言ったんだ?

 もしかして、


「……面倒くさいなぁ」


 もう一度大きなため息を吐いて、青髪の少女は泥酔男を指差す。


「お前だよ、お前。酒臭いお前。怪我するからさっさと席戻って酔い潰れながらいい夢見て幸せに寝てなよ」


 そのやる気のない言葉は、男のプライドを傷つけるには充分すぎたらしい。

 俺もさすがに煽りすぎだと思う。

 案の定、男はもう既に拳を振りかぶっていた。

 あまりにも簡単に沸点を迎えてしまったため、ほんの少しだけ男の拳に対する反応が遅れた。

 そして、慌てて手を伸ばそうとしたその瞬間だった。


「【蒼き焔()。灼熱の盾となり、()が身をその業()で守りたま()】」


 たった一言だけ。

 『まもれ。』という言葉が、やけに重々しく響いた。

 そして、男の拳が到着する前にさらに少女の口は動く。


「――《ランメルト》」


 ボッ‼︎ と、少女の髪よりも濃い青色で盾の形状をした炎が、少女を守るように突然出現した。

 言うまでもなく、泥酔男の拳は青い炎の盾によって防がれた。


「な、なんだぁ!?」


 慌てた男は出現した青い炎に負けず劣らずの青ざめた顔で少女から距離をとった。

 今のは、スキルか?

 それにしては他の奴らとは少し違う気がしたけど。


「こんな室内で魔法を使うんじゃない。他に被害が出たらどうするんだ、レイミア」


「だからってこんな三下に絡まれるのを我慢できるほど私は出来た人間じゃないから」


「めんどくさがりのくせにこういうところだけは頑固だよな、お前は」


 レイミアと呼ばれた青髪の少女は、だらーと机に上半身を預けて、白髪のラディアへ文句を垂れる。

 本当になんなんだ、この二人は。

 とりあえず、普通なやつらではないことはわかったけど。


「な、なんなんだよ、お前ら!」


 取り乱す泥酔男に対して、ラディアはうんざりしたようにため息を吐いた。


「まずは相手との力量差を把握できるようにしなければ早死にするぞ。その男のクイネを見てみろ」


 組んでいた腕の片方をほどいて俺のことを指差してきたため、泥酔男だけでなく、野次馬のように周りで見ていた人の視線も俺の杭元へと集中する。

 なにこれ。すごい恥ずかしいんだけど。

 ただ、泥酔男は一連の中で酔いが醒めたのか、はっきりとした視線で俺のクイネを見つめると、


「サイトウ、ハヤト…………?」


 ざわざわと、周りが騒ぎ出すのが分かった。

 まあ、なんとなく理由は受付のお姉さんのやりとりもあったし予想はつくが、この注目のされ方はどうにも慣れない。


「こ、国王奪還の立役者の一人、サイトウハヤトだとぉ……!?」


「な、なあ、シヤク。国王奪還って、そんな凄い扱い受けてんの?」


「『スワレアラ情報誌』の一面を飾るほどの大事件の中心にいた人物が空気のように扱われるなんてないなのでございますよ、ハヤトさん」


 自信満々でシヤクがえっへんと付け加えるものだから、男は数歩下がりながら、さらに自分の失態に気づく。


「そ、それにお前らも……!」


 男が指差したのは、俺のすぐ前にいるラディアとレイミアだ。

 そこで、むむっと二人を見て目を細めたシヤクが、突然に声を上げた。


「ななななっ!? ら、ラディア様とレミリア様!?」


「え、シヤクってこの二人のこと知ってるの?」


「むしろ、どうしてハヤトさんはギルドに来ているのに知らないなのでございますか!?」


 言いながら、シヤクは背負っているリュックから分厚い本を取り出す。

 あの表紙は確か、ここに来る道中にシヤクが見せつけていた『スワレアラ情報誌』の今月号だ。

 自分の愛読書を鼻先におしけながら、シヤクは声を上げる。


「この青髪にこのローブ! 間違いなく、約二〇年ぶりに魔法学校で『魔導博士十位』を修めた天才魔法使いにして、白金のクイネを所持する冒険者、レイミア様に違いありません!」


 さらにざわざわと騒ぎ出す野次馬たち。しかし、シヤクは興奮が収まらないのか火に油を注ぎ続ける。


「そ、そしてその正面に座る白髪のあなたは! 力自慢の男たちをさらに力でねじ伏せ、常人では扱えないほどの大剣を自在に操る、白金のクイネを持つ国内最強とも噂される女剣士、ラディア=ミエナリア様!」


 シヤクの口上のような完璧な説明によって、ギルドの酒場は俺たちを見ようとぐいぐいと人が押し寄せる。

 いつの間にか泥酔男の姿も消えており、ただ俺たち三人が注目を集めている状態になってしまっている。

 どうにかならないものか。


「すっごいうるさくなっちゃたけど、どうする? ラディア」


「そうだな。とりあえず席を移すのが一番だろう。このままだと酒場にも迷惑だ」


「うん。じゃあおんぶ」


「嫌だ。自分で歩け」


「えー。歩くのめんどくさーい」


「うるさい。さっさと立てこの馬鹿」


 一切力の入っていないレミリアを軽く片手で持ち上げると、ラディアは俺を見る。


「サイトウハヤト、だったな?」


「え、ああ。はい」


「なぜ、私たちの間に入った」


 なんだ? どうしてそんなことを訊くんだ?


「どうしてって、困ってそうだったから」


 当たり前のことを答えると、ラディアは不思議そうな顔をして、


「私たちがあの男よりも強いことはお前ぐらいの男なら一目でわかったはずだ。それなのに、どうしてだ」


 どうしてこんなことばっか訊くんだこいつら。

 理由がまったく分からない。


「いや、そもそもどうして強いやつを助けようとしちゃだめなんだ? 困ってるのは変わらないだろ?」


 思っていることをただ言っただけなのに、目の前のラディアも、そのラディアに持ち上げられているレイミアもわずかに口角を上げた。


「どうだ、レイミア」


「面白いんじゃない?」


「そうか」


 それだけの会話を済ませると、ラディアは俺を見て、


「おい、サイトウハヤト」


 持ちあげたレイミアを担ぎ、ラディアは言う。


「ついてこい。巻き込んだ詫びだ。飯でもおごってやろう」


「え、マジで? 行く行く」


 タダ飯を食えるなら、なんか話の流れはよく分からないけどついていこう。それは間違いない。

 シヤクも有名らしい二人と一緒に行くのは楽しみらしく、何も聞いていないのに首を縦にぶんぶんと振っている。

 ということで、二人の冒険者とお食事をすることになった。


~Index~

【レイミア】

【HP】1000

【MP】9500

【力】 100

【防御】100

【魔力】970

【敏捷】120

【器用】200

【スキル】【賢者セージ


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