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第三話「シヤク=ベリエンタールの関心」

 王都は、スタラトの町よりもずっと大きく、賑やかで、きらびやかだった。

 歩いている間にも、色々なものへ視線を移してしまう。

 そして、俺の横にはさらにキラキラとした目でグルグルと周囲を見る濃いピンク色の少女。


「わあー! 凄い凄い! 全部がおっきくてキラキラして見えるなのでございます!」


 姉のボタンよりも長い、鎖骨ほどで伸びたセミロングの髪をふわりと浮かせながら、シヤクはぴょんぴょんと跳ねていた。

 普段は大人しくて静かなシヤクだが、なんでも今まで住んでいたのが片田舎だったので、こういった都市に来るのは初めてなのだとか。

 シヤクはボタンと同じように村を襲われ、もうすぐで奴隷として売られてしまうところだったので、もっとトラウマなどを抱えていても当然だと思っていたが、良くも悪くもあの姉がいてくれるおかげでこうやって笑えるのだろう。

 こうして笑顔でいてくれると、助けられて良かったと心から思う。


「ハヤトさん! ギルドという場所はどこにあるなのでしょうか? そこにも是非行ってみたいです!」


「何か見たいものでもあるのか?」


 意識してみて、シヤクがリュックサックのようなカバンを背負っていることに初めて気づいた。そういえば、ここに来るまでの馬車の中でもカバンの中の本とかを読んでたりしたけど、何か好きなものでもあるのだろうか。

 そういった単純な興味で聞いてみたが、シヤクは待ってましたというような顔でハキハキと話し出す。


「私、魔法に興味があるなのでございます!」


「ま、魔法?」


 そういえば、この世界には魔法って概念はあるみたいだけど、詳しく聞いたことはなかったな。


「そうなのでございます! スワレアラ国王都には魔法に秀でた方が多く、なんでも魔法学校なるものも存在するとか!」


「そうなんだ。初耳だなぁ」


「それに、つい数年前には、十年に一度いるかいないかの魔法学校でも特に優秀な成績を修めたものにしか与えられない『魔導博士十位』を獲得した天才魔法使いがいると聞いたなのでございます! その方が冒険者としての活動もしているということなので、もしギルドにいるのなら一目見てみたいなのでございます!」


 普段は大人しいシヤクが妙に饒舌に、さらにはシアンみたいなぐいぐい加減で話すものだから、俺は少し戸惑いつつ相づちを打つ。


「そ、そっか。詳しいんだな」


「それはもう! この『スワレアラ情報誌』は毎巻購読熟読雨あられなのでございますから!」


 いつのまにかバックから出てきた『スワレアラ情報誌』をぶんぶんと俺の前で振りながら熱弁するシヤク。

 ちょっと強引な言葉が聞こえた気もするが、まあこの世界ならよくある言い回しなんだろう。


「その本には魔法について書いてあるのか?」


「いえ、魔法に関しては独学で行うことの難易度と危険性などが考慮されて一般にはあまり売られていないなのでございます。これに書いてあるのはあくまでもスワレアラ国で起こった大きな出来事などについての記事のみなのでございます」


「じゃあ俺の活躍とか書いてあったりしてな! はっはっは!」


「あ、確か先月号にハヤトさんの記事があったなのでございますよ?」


 冗談交じりに言ってみたら本当にあった。

 なぜ先月号までバックに入っているのかは分からないが、見せてもらった記事がスワレアラ国での大事件であるはずの『偽物の国王と新たな女王』についてだった。


「あ、本当だ。『エリオル=フォールアルドとその仲間、サイトウハヤトたちによって本物のランドロラン=エライン=スワレアラが奪還された』って書いてあるな」


 そういえば、クソ勇者との戦いのためにあの騒動の主役はエリオルにするってことにしたんだっけ。

 本当はもっとちやほやされたかったけど、まあシアンを助けるためには必要だったし、いいか。

 少し諦め気味に笑った俺へ、シヤクは首を振った。


「でもでも! 本当は違うってお姉ちゃんが言ってたなのでございます!」


 さすがボタンだ。いいよな。こうやって、仲間だけは本当の活躍を知ってくれてるみたいなやつ。


「『本当の国王を地下から助けたのは私なのです!』言っていたなのでございますよ! だからお姉ちゃんが英雄なのです!」


「間違ってねぇけどそれ言ってるボタンのドヤ顔を想像すると無性に腹が立つなおい!」


 期待をことごとく裏切られた俺は、折れそうな心をなんとか維持して歩き続ける。

 その後もやたらシヤクが話してくれるためギルドに着くまではあっという間に感じた。


「ハヤトさん! ギルドって看板に書いてあるなのでございます! 早速行きましょう!」


 なぜか自分よりもずっと小さな女の子にリードされる形でギルドに入った俺は、シヤクに連れられるまま受付へ。

 ギルドの中はスタラトの町のギルドとあまり変わりはなく、木組みの市役所のような感覚だ。

 ただ俺のいた日本の市役所とは違い、二階建てで、一階の半分に受付とクエストの掲示板、もう半分と二階は酒場のようなカウンターやテーブルなどが設置されていた。


 見てみると、硬そうな防具に身を包んだ男や、剣を背負った女性などがそれぞれに卓を囲んで食事などをしており、がやがやと居酒屋のような喧騒が受付のほうまで流れてきていた。

 とりあえず今日の目的はギルドで冒険者登録をして脱無職。意を決して受付のお姉さんへ微笑みかける。


「どうも。あの、登録をしにきたんですけど」


「はい。ギルドのご利用は初めてですか?」


「え、いや、えっと。スタラトの町ではお世話になってたんですけど、登録するってこと知らなくて」


 今まで変人ばかりと会話してきたせいか、見知らぬ普通のお姉さんと話すのが異常に苦手になってしまってる俺に、お姉さんは優しく答えてくれた。


「ご利用方法はご存知、と。では、さっそく登録をしますのでお名前を伺ってもよろしいですか?」


「あ、サイトウハヤトっていいます」


「はい。サイトウハヤト様ですね少々お待ちくださ……」


 いつものような流れ作業に移行するはずだったお姉さんの動きが、何かに気づいたようにピタリと止まった。


「サイトウハヤト様、でよろしいですか?」


「え? あ、はい。クリファ女王からの依頼でダンジョンの探索に行くんで、まずは登録しておこうと思って」


 ちゃんとクリファ『女王』と言っているあたり、言葉を選べている俺を褒めてほしい。

 ただ、お姉さんの方はそんなところを気にしているのではないようで、


「こ、これは大変失礼いたしました! 国王奪還に尽力した英雄様だとは知らず!」


「あ、大丈夫ですよ。俺、そもそも国王が偽物だったって攻め込んでから気づいたぐらいですし」


「え、あ、はい! お気遣いありがとうございます! えっと、登録ですよね! お待ちください!」


 俺と同じコミュ力まで低下したお姉さんは、あたふたと受付から奥へ走っていった。

 そして、前にスタラトの町でユニフォングを倒したときみたいにざわざわするかと思ったが、横の酒場の会話に掻き消されたらしく、慌てているのはあのお姉さんだけのようだった。

 横にいるシヤクは何を探しているのかキョロキョロしていたので話しかけようとしたとき、お姉さんがバタバタと戻ってきた。


「お待たせいたしました! まずはこれを!」


 そう言って差し出したのは、銀色のドッグタグのようなものだった。金属でできたチェーンに、薄い親指程度の大きさをした銀色の板がついているもので、既に俺の名前が彫られていた。


「これは?」


「これはギルドに登録していただいた冒険者様の個人を識別するためのクイネと呼ばれるものです。このクイネは素材でランク分けがされており、下から、木、銅、銀、金、白金の五段階に分かれています」


「でも、今から登録する俺は銀ですけど」


「元々、このランクはクエストなどによる功績が認められたら上がっていくものなのですが、ハヤト様の場合はもう既にスタラトの町での功績が公認されておりますので、最初から銀からのスタートとなっております。このクイネも、元々女王陛下からの命令で既に造られたものなんです」


 なるほど、だからこのクイネってやつにもう俺の名前が彫られていたのか。

 さすがクリファ。仕事が早い。


「そうなんですか、ありがとうございます」


 さっそく俺はもらったクイネを着けてみる。

 うん。なんか格好良くて好き。気に入った。

 横にいるシヤクも「似合ってるなのでございますよ!」と笑ってくれた。

 お世辞も出来るような良い子が一緒で俺は嬉しいよ。

 俺がクイネを首にかけたのを見て、お姉さんは笑いながら、


「それでは、これで登録手続きは完了になります。それでは、今回のハヤト様への依頼についてなのですが――」


「聞いてんのかよ‼ おい‼」


 真面目に話そうとしてくれていたお姉さんの言葉が、酒場からの怒号によって掻き消された。


「やけにそのバッグでかいけどさ。ちなみに何が入ってるの?」

「へ? 必要なものしか入ってないなのでございますよ?」

「いや、それにしてはデカすぎない?」

「そんなことないなのでございます。ほら、三月分の『スワレアラ国情報誌』に暇つぶし用の『エル・エルエラムルーの手記』と『樹木の最果て』に、お着替えと万一の時に備えてお姉ちゃんがくれた短剣。それとその短剣を研ぐための砥石や……」

「あ、うん。もういいや、さんきゅ」

「あ、あとこの『空に浮かぶ海』もとても面白いので

「もう大丈夫だよシヤクさん⁉︎」

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